『FLOWERS』(戯曲)
CAST
秋山ツバキ
花京院ラン
畠山ヨウスケ
原ユリ
天ヶ崎リク
草野ダイキ
サクラギ先生
女子生徒A
女子生徒B
女子生徒C
女占い師
照明イン。
ヨウスケ、舞台に駆け込んでくる。
ヨウスケ「大変だーっ!園芸部の植木鉢を割ってしまったー!(両手に持った植木鉢、ぱっくり。騒ぎまくる)」
リク、登場。
リク「まずいぞヨウスケ!生徒指導部のクマゴリラに見つかったら、器物損壊で命はないぞ!この間更衣室のガラスを割った生徒は未だに行方不明だ!」
ヨウスケ「生徒指導部のクマゴリラ!(卒倒しかける)うわーどうしようーリクー!!殺されるう。(泣きつく)」
リク「落ち着けヨウスケ、こういう時はまず落ち着いてだな、こう、する。(植木鉢をくっつけようとするがポロリ。)。」
ヨウスケ「わー、やっぱりダメだー、終わったー、俺の人生終わったー!!」
リク「ヨウスケあきらめるな!そうだ、アロンアルファ、アロンアルファ買ってくるから!」
ヨウスケ「逃げる!リク、俺は逃げるぞ!クマゴリラに見つかる前に地球の果てまで逃げるしかない!サラバ、友よ!」
リク「おい、待てって!」
二人、もみ合う。
ツバキ、登場。
ツバキ「クマゴリラがどうしたって?また更衣室の窓ガラスでも・・・あー!あんたたち!!」
リク「げっ!ツバキだ!」
ヨウスケ「クマゴリラの前に、園芸部のこいつのこと忘れていた!!」
ツバキ「あんたたち!この植木鉢は?!」
リク「いや、あの、これは・・・」
ヨウスケ「すんません!すんません!すんません!」
ツバキ「これ、うちの園芸部のだよなあ、許さん!そこに直れ!生徒指導部に代わって成敗してくれる わ!」
ヨウスケ「うわあ、お助けー!」
ツバキ、移植ゴテを振りかざす。
ダイキ、入ってくる。
ダイキ「注意。移植ゴテを人に向けて突き刺してはいけません。ツバキさん、どうしたの?リクくんもヨウスケくんも一緒になって。みんな仲がいいなあ。」
ツバキ「あ、ダイキ!見てみろ、この植木鉢。こいつらがやりやがったんだ!(植木鉢、ぱか。)」
ダイキ「(遠くを向いて)隈郡せんせーい!」
リク「うわ、よせダイキ!」
ヨウスケ「それだけは許してくれえー!!」
ラン、ユリ、じょうろを持って登場。
ラン「ツバキちゃん、ダイキくん、どうしたの?」
ユリ「あ、リクくん・・・」
ツバキ「どうもこうもねえよ!ほら!こいつらウチの植木鉢を!」
リク「ユリ!」
ユリ「ツバキちゃん、リクくんだけは許してあげようよ。」
ツバキ「ユリ!あんたリクが彼氏だからって甘すぎない??」
ユリ「えへっ。」
ツバキ「じゃあ、ヨウスケはどうすんだ?」
ヨウスケ「おい!ユリ!冷たいぞ。俺たち幼馴染みの仲だろ!」
ダイキ「(遠くを向いて)隈郡せんせーい!」
ヨウスケ「やーめーてー!」
ラン「それより、割れた植木鉢のお花さんはどうしたの?大丈夫かな?」
ヨウスケ「(敬礼)はっ、直ちに花壇の隅に穴を掘り、応急処置として保護しております!お花さん自体は無傷であります!」
ラン「よかった。わかったわ、それじゃあこうしましょうよ。二人には園芸部に入部してもらいます。それでこのことについては目をつぶってあげるわ。」
ヨウスケ「にゅうぶー?園芸部にー?」
リク「いや、俺はサッカー部に入ってるし。そもそも植木鉢割ったのはヨウスケなんだけど?」
ツバキ「お前らに選択権があると思ってるのか!掛け持ちだ、掛け持ち。まあ、部長のランがそういうなら仕方がないな。わかったな、見習い部員!」
リク「入部たって、園芸のことなんか俺、全然わかんないぞ?」
ユリ「リクくん、大丈夫だよ。私が色々教えてあげるから。」
リク「・・・」
ヨウスケ「まあ、クマゴリラに殺されるよりはマシか。」
ラン「よろしくね。見習い部員さん。」
ダイキ「よろしく。あ、先生だ。」
ヨウスケ、逃げようとするが、やってきたのはサクラギ先生。
サクラギ「お前たち何やってんだ?」
ヨウスケ「なんだよ、サクラギ先生か。びっくりした。」
サクラギ「なんだとはなんだ。園芸部顧問が部活の様子を見に来て何が悪い?」
ラン「サクラギ先生、リクくんとヨウスケくんが、今日から園芸部に入部したいそうです。しばらく見習い部員ということでお願いします。」
サクラギ「お前たちが?園芸部に?」
リク「そ、それは・・・」
皆、目配せ。
ユリ「サクラギ先生、この前リクくんの一番上のお兄さんがクラス写真の先生を見て、『このアイドルみたいな綺麗な人誰?』って言ってました。」
サクラギ「天ヶ崎リク!お前の一番上の兄とはどういう人物だ?」
リク「・・・銀行に勤めて5年になります。」
サクラギ「よし、今度家庭訪問に行こう!」
ユリ「それはだめー!」
皆、目配せ。
ヨウスケ「可愛い植物たちを元気に育てるのが、俺の目標です!」
サクラギ「まあ、部長のランにまかせるか。後で入部届け持ってきてくれ。」
サクラギ先生、退場。
皆ほっとした表情。舞台サス照明アウト。
女子A、B、Cきゃあきゃあ言いながら入ってくる。
女子A「ねえねえ、聞いた?」
女子B「ええ、聞いた聞いたー!」
女子C「サッカー部のリク先輩が、園芸部に入ったって!」
女子A「園芸部ってー、確かー」
女子B「リク先輩のー」
女子C「彼女のー」
女子A「ユリ先輩がいるんじゃなかったー?」
女子ABC「きゃー!」
女子B「彼女のため園芸部まで追いかけるなんて!」
女子C「素敵!さすが私のリク先輩!」
女子A「あんたのじゃないよ!」
女子B「リク先輩ちゃんと彼女いるから!」
女子C「(落ち込みから立ち直って)そうそう、もう一人園芸部入ったみたいだよ。確か・・・」
女子A「名前なんだっけ・・・」
女子B「思い出せない・・・」
女子C「名前が出ないなんて、しょせんその程度のキャラってことね。」
女子ABC「ザコキャラー、きゃー!」
女子A、B、Cきゃあきゃあ言いながら退場。舞台中サス照明イン。
ツバキ、ランが舞台上にいる。
ラン「ごめんねー、来るの遅れて。お水待ってたんでしょー。すぐにあげるからねー。」
ツバキ「ランはよく植物に話しかけてるよな。(笑う)」
ラン「えー、だって私、お花さんたちとお話できるもん。ツバキちゃんはお話しないの?」
ツバキ「まーたそんなメルヘンなこと言ってー。」
ツバキ、机の上に置いてある本に気付く。
ツバキ「これ、ランの本?」
ラン「あ、それ、面白いんだよ。『誕生日の花と花言葉図鑑』。」
ツバキ「へえ、誕生日の花かあ。どれどれ、私の誕生日の花は・・・っと。」
ラン「ツバキちゃん、誕生日いつだっけ?」
ツバキ「12月3日。誕生日の花はラベンダーか。花言葉は、『沈黙』ぅ?」
ラン「意外、だね。」
ツバキ「意外性のある女と呼んでくれ。」
ラン「ねえ、ツバキちゃん。椿の花の花言葉知ってる?」
ツバキ「いや?知らない。」
ラン「『気取らない美しさ』だって。」
ツバキ「お!それいいね!ん?しおりがはさんであるぞ。9月28日?誕生日の花はベゴニア?花言葉
は・・・『幸福な日々』、か。なあ、ランの誕生日って9月28日だっけ?」
ラン「9月28日?(振り向く)ち、ち、違うよ!違うんだからね!(本を奪いに来る)」
ツバキ「何だよー、急にー。」
ラン「あははは・・・」
ツバキ「?」
ユリ、登場。
ユリ「こんにちはー。」
ラン「こ、こんにちは、ユリちゃん。」
ツバキ「おっす!ユリ。」
ラン「さ、さて、私は見習い部員たちを見てくるからね。」
ラン、図鑑を持って退場。
ユリ「あ、私も行くー!」
ツバキ「なあ、ユリ。」
ユリ「え?なあに、ツバキちゃん。」
ツバキ「さっきランが持ってきた図鑑にあったんだけど、9月28日の誕生日って誰だっけ?」
ユリ「ん?9月28日はリクくんの誕生日だよ。えへ。もうすぐなんだよねー。」
ツバキ「誕生日の花は、ベゴニア、花言葉は・・・『幸福な日々』。」
ユリ「ど、どうしたのツバキちゃん?いつものツバキちゃんらしくない。まさか、私のリクくんを・・・ダメ!渡さないからね!」
ツバキ「いや、私じゃなくってランが、いや、うーん。」
ユリ「ランちゃんが?どういうこと?!」
ツバキ「あ、あ、あ、ちょっとこっち来て。」
ツバキ、ユリを連れて退場。
リク、ヨウスケ、ダイキ、登場。
ダイキ「と、いうことだよ。肥料の三要素についてはわかった?」
ヨウスケ「わかりませーん。」
リク「ダイキ、こいつバカだから気にしなくていいよ。」
ヨウスケ「バカとは失礼だな。ただ勉強が不得意なだけだ。壊滅的に。」
リク「じゃあ、ヨウスケの得意なものって?」
ヨウスケ「・・・ないな。」
ヨウスケ、リク、笑う。
ダイキ「植物をうまく育てるためには、光と水と肥料が大事なんだ。」
ヨウスケ「もうひとつ大事なの俺知ってるぜ。」
リク「なんだよ?」
ヨウスケ「愛情、だろ?」
ダイキ「なんだかんだ言って、ヨウスケくんは園芸部向いてると思うよ。(笑う)肥料の三要素は、窒 素、リン酸、カリウム。そのうち窒素は葉っぱに、リン酸は果実に、カリウムは根っこによく効 くんだ。」
リク「難しいなあ。窒素、リン酸、カリウム・・・」
ヨウスケ「あー、俺化学ダメ!ムリ!」
リク「化学の元素記号って覚えさせられたよな。スイ、ヘイ、リー、ベ・・・」
ヨウスケ「何それ?」
ダイキ「元素記号のゴロ合わせだね。スイ、ヘイ、リー、ベ、ボ、ク、ノ、フ、ネ。」
ヨウスケ「それなら、俺はこう覚えたぜ?エッチ、ヘンタイ、リッチな、ベッドで、ぼ、くの、ふるえ る、ねーちゃん、」
リク「ヨウスケ。」
ヨウスケ「なんだ、リク?」
リク「最低だな。」
ラン、登場。
ラン「ねーちゃんがどうしたの?」
ダイキ「あ、ランさん。今、見習い部員たちと、」
ヨウスケ「ひ、肥料!肥料の三要素について勉強してました!そうだよな、リク!」
リク「あはははは、じ、じゃあ、俺たち、ちょっと片付けに行ってくる。」
ダイキ「お疲れ様。」
ラン「お疲れ様ー。」
ヨウスケ、リク、退場。
ダイキ「水やりは終わった?」
ラン「うん。ごめんね、ダイキくんに新入部員まかせちゃって。」
ダイキ「平気だよ。ヨウスケくんもリクくんも、あれこれ言いながらも楽しんでやっているみたい。」
ラン「良かった。無理やりあんなこといっちゃったから迷惑してないかなって。」
ダイキ「あれ、ランさんの作戦でしょ。」
ラン「え?何が?」
ダイキ「リクくんを園芸部に入れたこと。」
ラン「えへへ、バレてたかあ。」
ダイキ「わかるよ、それくらい。植物たちが、『全てはランさんの作戦です』って言ってるから。」
ラン「へえ、ダイキくんも植物とお話できるんだ?」
ダイキ「当然です。一人前の園芸部員として当たり前のことです!」
ダイキ、ラン、笑う。
ダイキ「やっぱりね、植物たちって、話しかけてあげると喜んでくれると思うんだ。」
ラン「人も植物もおんなじだよね。」
ダイキ「やっぱりそう思う?」
ラン「ってお花さんたちが言ってるよ。」
ダイキ、ラン笑う。
ユリ、登場。
ダイキ「あ、ユリさんこんにちは。」
ラン「ユリちゃんも来たの、今ね、」
ユリ「・・・」
ダイキ「ユリ、さん?」
ラン「どうしたの、ユリちゃ・・・」
ユリ「取らないで・・・」
ラン「ユリちゃん?」
ユリ「私からリクくんを取らないで!リクくんは誰にも、絶対に、渡さないんだから!」
ユリ、飛び出していく。
ラン、ダイキ、顔を見合わせる。
ツバキ、入ってくる。
ダイキ「ツバキさん。」
ラン「ツバキちゃん。ユリちゃんどうしたの?」
ツバキ「ごめんラン、本当にごめん!私がユリに変なこと言っちゃったから。」
ダイキ「ともかく、ユリさんを追いかけましょう。」
ラン、ツバキ、ダイキ、退場。
ヨウスケ、リク、登場。
ヨウスケ「あー、今日も働いたなあ。」
リク「爪の間、泥だらけだぜ。」
ヨウスケ「でも、園芸部って案外楽しいな?」
リク「園芸部に随分馴染んできたな。」
ヨウスケ「何かが成長していくって、わくわくすんだよなあ。それに自分が関わっているなら、尚更。」
リク「ヨウスケにこんな適性があったなんて驚きだよ。(笑う)。」
ヨウスケ「・・・なあ、リク。」
リク「なんだ?」
ヨウスケ「最近、どうなんだ?」
リク「ああ、嫌いじゃないよ。植物の世話。意外と大変だけどな。」
ヨウスケ「そうじゃなくってー・」
リク「?」
ヨウスケ「・・・なあ、リク。お前、彼女のユリがいるから園芸部来てるんだろ?サッカー部の練習休んでまでさ。」
リク「・・・ああ。俺たち、小さい頃からずっと一緒だったからな。」
ヨウスケ「あいつ、危なっかしいからなあ。視野狭いし、思い込み激しいし。覚えてるか?中学の時、あいつ先輩を好きになって、暴走して、結局フラれて大騒ぎした時のこと。」
リク「あったな、そういうの(笑う)。」
ヨウスケ「あの時は大変だったよなあ。なあ、リク、お前がいれば安心だよな。」
リク「・・・」
ヨウスケ「これからも、あいつをよろしくなって、保護者じゃないよな。」
リク「あのな、ヨウスケ・・・。」
ヨウスケ「さてっと、俺、職員室に補習の課題もらいに行ってから帰るわ。クマゴリラに下校前に来いって呼び出されてんだわ。遅れて怒らせると大惨事になるからな。じゃあな!」
ヨウスケ、退場。
ユリ、登場。
リク「ふうー・・・あっ。」
ユリ「・・・ねえリクくん。」
リク「うん?」
ユリ「私のこと、好き?」
リク「うん。」
ユリ「・・・本当に?」
リク「・・・どうした?」
ユリ「リクくんって、最近あんまりメールくれないし、そっけないし。さっきの質問前だって前なら『あったり前だろ、世界で一番好きだよ。』とか言ってくれたもん。私、何かしたかな?」
リク「・・・ごめん。ユリのこと、世界で一番好きだよ。」
ユリ「本当に?」
リク「本当に。」
ユリ「良かったあ。・・・他の子のこと、好きになったりしない?」
リク「あったり前だろ。ユリ以外に誰を好きになるんだよ(笑う)」
ユリ「・・・ランちゃんとか。」
リク「なんでランちゃんが出て来るんだ?(笑う)」
ユリ「・・・あのね、リクくん。ランちゃんね、リクくんのことが好きらしいの。」
リク「あ?・・・」
ユリ「・・・ねえリクくん。ランちゃんのこと好きになったりしないよね?確かにランちゃんは可愛いし私よりずっと良い子だけど、だからといって私よりランちゃんを好きにならないよね?・・・リク くん?」
リク「・・・・・・なあ、ユリ。」
ユリ「何?」
リク「・・・もう、別れようぜ。」
ユリ「?!」
リク「・・・前からさ、ウザいと思ってたんだよね。何回も同じこと聞いてきたり1日にメールを何通送ってんだよっていうな。」
ユリ「・・・ごめんなさい・・。」
リク「謝らなくていいからさ。・・・・・・別れよう。」
ユリ「ごめんなさいごめんなさい全部直すから良い子になるから嫌いにならないで!」
リク「・・・はあ、めんどくさい女だな。俺、他に好きな子できたんだよ。」
ユリ「え?」
リク「ああ、他に好きな子できたんだよ!」
ユリ「・・・・・・そ、そっか・・・それだったらしょうがない、よ、ね・・・。」
リク「・・・」
ユリ「・・・リク君っ!」
リク「・・・何だよ。」
ユリ「・・・他の子の方が好きになって別れたくなるの、仕方ないと、思うけど、だからといって私を嫌いになったりしないよね?好きでいてくれるよね。」
リク「・・・本当にめんどくさい女だな。お前みたいな女は嫌いだよ。」
ユリ、飛び出す。
リク、一瞬、後を追おうとするが、やめる。突っ伏して動かない。
サクラギ先生、登場。
サクラギ「バカだな、お前は。」
リク「・・・知ってます。」
サクラギ「これで、良かったのか?」
リク「わかりません。わかりませんけど、良いんです。」
サクラギ「それにしても、もう少し言い方ってもんがあるだろ。」
リク「良いんです。あいつ、強烈に言わないとまた未練残すから。」
サクラギ「これからが辛いぞ?」
リク「・・・わかってます。」
サクラギ「バカだな、お前は。」
リク「・・・」
サクラギ「これを使え。(布を手元に置く)。」
リク「・・・ありがとうございます。」
サクラギ「気にするな。部室の雑巾だ。後で戻しといてくれ。」
サクラギ、退場。
リク「ひっでえなぁ・・・」
リク退場。
ラン。ダイキ、モミジ登場。
ユリ、登場。
モミジ「なあ、ちょっと待てよユリ、考え直せよ!」
ダイキ「ユリさん。落ち着いて。」
ラン「ユリちゃん、あのね・・・」
モミジ「私が悪かったって、謝るって!」
ユリ「誰が悪いわけでもないから。いいの。私が決めたの。」
ラン「ユリちゃん!」
ユリ「私・・・リクくんにふられちゃった・・・」
ラン「・・・」
ユリ「これ以上、私にかまわないで。今は一人になりたいの。長い間お世話になりました。これ、退部届です。」
舞台中サス、アウト。
女子生徒A、B、C、きゃあきゃあ言いながら登場。
女子A「ねえねえ、聞いた?」
女子B「ええ、聞いた聞いたー!」
女子C「園芸部で、大乱闘だって!」
女子A「原因って聞いた?」
女子B「聞いたー、恋の三角関係!」
女子C「元サッカー部のリク先輩を取り合って女の修羅場!」
女子ABC「きゃあー!」
女子A「リクくん、あなたを誰かに取られるくらいなら、いっそ・・・!」
女子B「天国で、一緒になりましょう・・・ぐふっ!」
女子C「注意。移植ゴテを人に向けて突き刺してはいけません。」
女子A「愛って怖い!」
女子B「でも愛って素敵!」
女子C「私も誰かに愛されたい!」
女子A「あー、それはムリ。」
女子B[そーね、ムリよムリ。ムリムリムリムリムリ!」。
女子C「えーん、愛した分、愛されたらいいのにー。」
女子A「でも、おかしいわね。」
女子B「何が?」
女子C「あー!校内で乱闘なんかあったら、」
女子A「生徒指導部のクマゴリラに、グランドに埋められるわよ!」
女子B「グランドのサクラの木の下には、」
女子C「イジメをした生徒が埋まってるんだって!」
女子ABC「きゃあ!こわーい!」
女子生徒A,B、C、きゃあきゃあ言いながら退場。
街の雑踏。舞台中サス、イン。ラン、ツバキ、ダイキ、ヨウスケ、リクがいる。
リク「みんな、本当にゴメン・・・」
ヨウスケ「あーあ、お前なら大丈夫だって思ってたんだけどな・・・」
リク「リク、あのな・・・」
ツバキ「うわー、私が変なこと言わなければこんなことには!!」
ダイキ「なんか、園芸部で乱闘があったってデマが流れてますねえ。やれやれ。」
ラン「ユリちゃん、大丈夫かな・・・」
ダイキ「まあまあ皆さん、自分を責めても始まりませんよ。覆水盆に返らず、って言いますし。」
ツバキ「・・・地味にムカつく。」
ヨウスケ「俺、意味わかんないけど?」
みんなでがやがややっている。
女占い師、登場。
占い師「もし。・・・もし、そこの学生さん。」
リク「ねえ、みんな、あれ・・・」
占い師「そこの学生さんたち、ちょっと。」
ツバキ「はあ?私ら?」
ヨウスケ「なに、このコスプレの人。」
ダイキ「うわー、見るからに胡散臭いですねえ。」
ラン「私たちに何かご用ですか?」
ツバキ「怪しいから無視しようぜ。」
占い師「待ちなさい!災いじゃ!災いが見える!」
ヨウスケ「知ーらなーい。」
占い師「災いの元はクマ!恐怖のクマーに襲われ不幸を遂げる姿が見える!いや、ゴリラか?」
ヨウスケ「な、なんだよそれ?!」
ダイキ「ヨウスケくんらしい最期ですね。」
ヨウスケ「冗談じゃないぞ!」
占い師「花じゃな。花でモメている様子がありありと・・・」
ツバキ「!何でそれを!おい、占いのおばさん!どうすればいいんだ。」
占い師「・・・・・・・(無視)」
ラン「占いのお姉さん、私たちはどうすればいいのかしら?占ってくださる?」
占い師「心得た!では、はらったま、きよったま・・・(画板の上にトランプを立て始める)」
ヨウスケ「何これ?」
占い師「しーっ!エジプトはナイルのほとりで極めたピラミッド占いじゃ・・・(トランプ崩れる)災いじゃー!このまま放置すれば、おそろしい災いがあー!!」
ツバキ「どうすればいいんだよ!」
占い師「よし、それでは、とっておきのヤツを・・・(ゴム風船を取り出し、膨らまし始める。)
ダイキ「・・・何でしょう?これは?」
占い師「東京の西部で神秘を極めたゴム風船占いじゃ。(フーフー)これをふくらまして(フーフー)最後にこのペンでブスリとさして(フーフー)・・・」
ヨウスケ「うわ、カンベンしてくれよー」
皆耳をふさぐ中、パーン!
占い師「聞こえたか?ぱーてーじゃ。」
全員「は?」
占い師「ぱーてーじゃ!ぱーてーが災いを救うと出たぞ。ではな。気をつけるが良い。当たるも八卦、当たらぬも八卦、ハッケヨイヨイ・・・」
女占い師、退場。
ツバキ「そうだ!パーティーだよ!誕生日パーティー!」
ラン「あ、そうだ!もうすぐ9月28日!」
ヨウスケ「何?9月28日がどうしたの。」
リク「9月28日と言えば、」
ダイキ「僕の誕生日ですね。」
ツバキ「えー!!ダイキ、誕生日9月28日?」
ダイキ「はい。」
ヨウスケ「ん?、リクの誕生日ってのも確か。」
リク「9月28日だな。」
ツバキ「二人は同じ誕生日だったのか。なんという偶然・・・あれ?ってことは??あれれ?」
ラン「よし!9月28日に、仲直りの誕生パーティーをしましょう!」
ツバキ「・・・完全にごまかそうとしてないか?」
リク「いや、気持ちはありがたいけど、やっぱり俺は・・・」
ツバキ「何言ってんだ!責任者は責任取れよ!」
リク「・・・」
ダイキ「ユリさん、来てくれますかね?」
ツバキ「そこが問題なんだよなあ・・・おい、ヨウスケ。頼めるか?」
ヨウスケ「お、おう!園芸部の皆のためなら、まかせとけっ!」
ツバキ「よし!そうと決まれば、準備だ!いくぞ!」
「おう!」と、ツバキ、ヨウスケ、ダイキ退場。
リク「ランちゃん、ごめんな。園芸部に迷惑かけちゃって。俺も責任取って園芸部を・・・」
ラン「責任取るって言いながら、いなくなるのは無責任じゃないかな?(笑う)」
リク「えっ?」
ラン「責任って、いろんな取り方があるんじゃないの?辞めて逃げだすなんて、それこそ無責任じゃな い?」
リク「でもなあ・・・」
ラン「私のほうこそごめんね。リクくんが園芸部入ってくれたら、ランちゃん喜んでくれると思ったの。それなのに、こんな風になっちゃって。」
リク「・・・」
ラン「リクくん、ユリちゃんのことが大事なんだね。それと同じようにヨウスケくんのことが大事なんだね。」
リク「!・・・」
ラン「泣くくらいなら、もっと考えればいいのに。」
リク「ランちゃん!なんで・・・?くっそー!!サクラギ先生かーー!言いふらしたな、あの雑巾教 師!」
ラン「あれー、言わなかったっけ?私、お花さんとしゃべれるんですよー!」
ラン、退場。追いかけてリク退場。
ユリ、ヨウスケ、登場。
ヨウスケ「ユリ、明日の誕生日パーティーのことだけどさ。」
ユリ「だから嫌って言ってるじゃん!」
ヨウスケ「・・・だよなぁ。」
沈黙の後ヨウスケ、ユリの頭をなでる。
ユリ、嫌がる。
ユリ「いきなり何。」
ヨウスケ「ほら、皆、お前が転んで泣いてた時とかこうやってたから。」
ユリ「私、泣いてないんだけど。」
ヨウスケ「あはは。」
ユリ「ん。(ヨウスケに顔を向ける)」
ヨウスケ「?」
ユリ「ん!(ヨウスケに頭を向ける)」
ヨウスケ「あ、ああ。(なで始める)」
ユリ「・・・子供のころ、お父さんやお母さん。友達も皆、私が好きって聞くと好きって返してくれ た。」
ヨウスケ「そうだな。」
ユリ「私かわいいし、正直だし、時にはちゃんと気を遣ってたから、当たり前だけど。」
ヨウスケ「自分で言いいますか、それ。」
ユリ「リクくんのこと、本当で好きになった。告白して、付き合えた時、本当にうれしかった。」
ヨウスケ「うん。」
ユリ「2人でこっそり会って手をつないで帰ったり、大好きって言い合ったり、毎日幸せだった。」
ヨウスケ「うん。」
ユリ「小さい頃は、嫌いって言われたことなんて一回もなかった。嫌われたことなんてなかった・・。」
ヨウスケ「俺にはよく嫌いって言ってたくせにな。(笑う)」
ユリ「だってヨウちゃんってばいじわるばっかしてくるんだもん。・・・ずっと、子供のままでいたかったな・・・」
ヨウスケ「そうか?俺はそう思わないけど。」
ユリ「ヨウちゃんは中身がまだ子供だからね。」
ヨウスケ「お前だって十分子供だよ。チビだし、泣き虫だし。」
ユリ「チビじゃないもん。ヨウちゃんのバカ。嫌い。」
ヨウスケ「はいはい。」
ユリ「ヨウちゃんなんか嫌い。」
ヨウスケ「・・・俺はユリのことが好きだよ。」
ユリ「知ってる。」
ヨウスケ「・・・・・・久しぶりにメシ食ってくか?」
ユリ「・・・ごはん何?」
ヨウスケ「お前の好きなカレーだぞ。来るか?」
ユリ「・・・行く。」
ヨウスケ「そうだ、ランちゃんからお前の退部届け、預かってきてるんだ。これ、捨てとくぞ。」
ラン「・・・うん。」
ヨウスケ「よーし、そうとなればさっさと帰るかー!なんなら、らっきょう買っていくか?」
ユリ「(静かに笑う)もー、私がらっきょう嫌いなの知ってるくせに!」
ヨウスケ、ユリ、退場。
部室。ツバキ、ランが誕生パーティーの準備をしている。
ツバキ「・・・ランってさ、本当あいつのことが好きなわけ?」
ラン「えっ?え、えっと、な、何のこと?」
ツバキ「ごまかさないで答えて。」
ラン「あ、うん、す、好きだよ。」
ツバキ「もしかしたら良い奴じゃない所か悪い奴かもしれないよ?」
ラン「うん、そうかもしれないね。だけど、好きになっちゃったから、ね・・・。」
ツバキ「そっか。ちゃんと想い伝えろよ!」
ラン「ありがとう、ツバキちゃん。」
ツバキ「みんな来るかなあ。」
ラン「きっと、大丈夫だよ。」
ダイキ、ヨウスケ、登場。
ダイキ「みなさん、こんにちはー。」
ヨウスケ「ういーす!」
ラン「あ、ダイキくん、お、お誕生日おめでとう。」
ダイキ「ありがとう。今日は僕とリクくんのために、こんな準備してくれて嬉しいなあ。あれ?リクくんは?」
ラン「もうすぐだと思うよ。」
ツバキ「ほら、ヨウスケ、こっち手伝え!」
ヨウスケ「りょーかーい。」
ツバキ「おい、ヨウスケ、リクとユリ、来るんだろうな?」
ヨウスケ「ユリには奥の手を使った。後は信じろ。」
ツバキ「(うなづく)。」
サクラギ先生、登場。
サクラギ「どうだ、準備は出来たか?」
ダイキ「あ、サクラギ先生」
ラン「サクラギ先生、こんにちは。」
サクラギ「せっかく部活の時間使ってやるんだからな。ほら、差し入れだ。(スーパーの袋を渡す)。」
ラン「ありがとうございます!」
サクラギ「主賓がいないようだが、リクとユリはどうした?」
ヨウスケ「もうすぐ、来ます。絶対。」
サクラギ「そうか。」
リク、登場。
同時に音響( ※『うた恋』サウンドトラックより「儚くも美しう恋」使用 )の曲、流 れる。
以下、セリフ聞こえなくなる。
リクに駆け寄る一同。
リク、皆に謝ろうとする。
皆、それを制止。
ユリが来ていないことに気付くリク。
リクを励ますヨウスケ。
リクを席に案内する。
誕生会を始めようか、いや待つべきだと話している。
ユリ、登場。
ユリに駆け寄るツバキ。
同じく駆け寄るラン。
二人に謝るユリ。
それを止め、ユリに自分の好きな人のことを話すラン。
後ろで驚いているダイキ。
ダイキに告白するラン。
皆、拍手喝采。
リクの背中を押す、ヨウスケ。
リク、ユリの前に出る。
ユリとリク、二人向かい合う。
リク、何か言い訳をしようとするところに、ユリ、思いっきり腹パンチ。
リク、腹を押さえるところに、ユリ、握手の右手を差し出す。
リク、その手を握手で返そうと右手を差し出す。
ヨウスケ、植木鉢を割ってしまった、と出てくる。
一同、大騒ぎになる。
それを、満足そうに見ているサクラギ先生。
音響、曲盛り上がる。
照明、溶暗。
幕