前田part.3
生徒玄関はごったがえしていたが、前にいた生徒たちの身長が自分よりも低いおかげで外にブルーシートが敷かれているのが見えた。心なしか中央が膨らんでいるようにも見えた。嫌な予感が少し現実味を帯びて迫ってきた。常識的に考えて、何の理由もないのにブルーシートを玄関前に敷いたりしないし、ましてや通常授業中だ。荷物を置く用などない。普通物を置く以外でブルーシートが使われるのは、その下にあるものを隠したい場合だ。
あの下に白石の遺体がある可能性が高い。
村井は俺を引っ張るように保健室前に連れて行った。そして中を覗いた。そこには二人の女子生徒がいた。片方はなんと里香だった。昨夜話した里香が、戸惑い震えていた里香が目の前にいると思うと急に心臓が動きを早め、体がこわばった。久しぶりにちゃんと里香を見たが、とてもきれいになっていた。一目見るだけで違う。あれは女子としての象徴ではない。女性の象徴なのだ。百パーセントの女の子ってやつだ。再び熱いものが胸にこみ上げてきた。
そうしていると村井がこちらを見ていることに気づき、思わずじっと見つめてしまった。そして自分がその場に根を張ったように動かなくなっていたことに気づき体の力を抜いた。
すると彼女は扉を開けて入室しようとした。すると中の二人はこちらを向いた。俺は里香から目を離せなかった。村井はなぜか立ったままピクリとも動かなかった。俺は村井のことは気にしないで里香の隣へ向かった。そして彼女の隣へ座った。
里香は遠目にはわからない程度で震えていた。もしかしたら、昨日からずっと震えていたのかもしれない。握りしめた拳は今、この瞬間、何を掴んでいるのか。それは彼女を傷つけるバラの棘ではないか。恐らくそうであろうと思い、どうやって声をかければいいだろう、いや、なんと言ってあげられれば、彼女の心を癒せるだろう。そう考えた。里香の人生の道を、いばらで塞がれかけている前途を今切り開けるのは自分しかいないのだ。そう思って里香を見つめたが、しかしそうではないことに気づいた。震えてはいるものの、涙は流さず、じっと前を見つめていたのだ。彼女はまだ強さを失ってはいなかった。
彼女の道を切り開けるのは俺だけだ、なんて、なんてエゴだろう。結局は彼女の人生なのだ。時には人の力を借りながらも、最後は自分の力で大空に大輪の華を咲かせるんだ。里香の人生の主役は里香。里香の世界は里香のものなんだ。俺はたまにそれを支えるだけで十分なんだ。そのことがようやくわかった。彼女の人生を支える土になろう。時には海のように包み込もう。それが俺の人生であり、世界なんだ。決して人生は一つだけではないし、世界も一つじゃない。
彼女が立ち直る手助けをするには……。そう考えると、答えは明確だった。
久しぶりに話を聞こう。ちゃんと顔を合わせて。面と向かって。
それが俺にできることだ。
今日、一緒に帰ろう
それだけ呟いてあとは里香をじっと見つめた。彼女は小さく何度も頷いてみせた。俺は去り際に彼女の頭をそっと撫でた。優しい肌触りだった。彼女のためなら、周囲の評価も気にせず行動できる気がした。
教室へ帰る途中、村井が結局何があったのか聞いてきた。どうせ後でわかることだし、今聞くよりも少し間をおいて聞いた方が気も楽だろうと思い、言わないことにした。ただ、言葉にすると嘘になってしまうので、人差し指で彼女の唇を塞ぐことにした。
これが今俺が彼女にできることだろう。




