表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は一つじゃない  作者: 茶瓶
世界は一つじゃない
4/8

前田part.2

 翌日の朝練にはちゃんと参加した。眠いからといってちゃっかりさぼってしまえるほど周囲の評価を気にしないで生きられる人間ではない。生真面目な自分が嫌になることもある。ただ、今回は帽子を忘れたということにして、朝練中ずっとランニングという罰を得ることにした。勿論眠い頭に振動が響くのは辛いが、全力で走ったりするわけではないので、登校してくる生徒たちの姿がよく見える。当然目的は里香の友達、白石が登校しているか確認することだ。我ながらよく機転が利いたものだと感心してしまった。


 特にランニングコースなどなかったので、グラウンドをぐるぐる回るのがこの高校のランニングだった。ただ、昇降口に背を向けている時に白石が来てしまうと見逃してしまうので、その時だけはペースを上げることにした。空は雲に覆われていて、不快なほど蒸していた。


 走っている時にあれこれ考えてしまう人と、何も考えなくてすむ人がいるけど、自分はきっと後者だろうと思っていた。しかし、それは違ったのだと今思い知った。自分は今まで考えることすらなかったのだ。何かを、本当の意味で考えなければならない時には、人は否応なしに本当の意味で考えなければならなくなるのに、今までは、走っていてもそうでなくても考えることはなかったのだ。本当の意味では。


 他人の人生が今大きく動いているのだ。自分が動かないとその人は変わってしまうのだ。確実に悪い方向に。


 走りながら考えているといつの間にか朝練が終わる時刻が近づいてきていた。予鈴が鳴るかどうかというタイミングで白石が校門から入ってきたのを確認した。切りつけたと思われる左手首にはピンクのリストバンドがつけられていた。それだけのことを確認できたので、取り敢えずは十分だった。また今日の放課後にでも里香と相談すればいい。


 朝練後、教室に戻るとそこには来ているはずの白石の姿はなかった。恐らく、保健室か相談室にいるのだろうと思った。どちらにせよ、学校に来れているのならまだ平気だと考えるのが妥当だろう。


 授業は当然ながら睡眠に充てた。今日はいつもよりよく眠れて、四時限分起きることがなかった。号令時も起こされないのは、中堅公立校の特権だろうか。


 購買でパンを四つ(今用に二つ、部活の休憩時用に一つ、部活後用に一つだ)を買って教室で食べてもまだ昼休みは続いていたので、考え事が自然と始まった。


 睡眠の中で夢を二つ見たような気がする。内容は覚えているが、それらが繋がった夢なのかはわからない。一つは里香と白石が何故か見つめ合っている夢。もう一つは幼い頃の俺と里香が手をつないでいる夢だ。これは深層心理が映し出す願望なのだろうか、と考える。里香と白石には自分達で問題を解決してもらいたくて、俺は里香と手をつなぎたいのかもしれない。前者はそうとして、後者は今の俺の願望なのかはわからない。過去の思い出が頭をよぎる。


 昔、と言っても数年前のことだが、俺は里香のことが好き、だったような気がする。気がする、というのはそれが本当の恋なのかわからないからだ。ただ、里香は一番身近な女子だったから自然と親しみが湧いてきたのかもしれない。いわば俺の中の女子の象徴として彼女が存在していたのだ。ただ、その親しみは二人の仲が疎遠になるにつれて元の噴出孔に退行していくように減っていってしまった。今もこの胸のどこかにあるのかもしれないが、それを意識するのは深夜に突然メールが来た時くらいだ。


 気づいたら既に五限が始まる時刻で、教師が入室してきたので、号令だけきちんとしてからまた眠ろうとする。ふと窓の外を見やると、朝空を覆っていた雲はすっかりと消え去って、凛とした青い空が広がっていた。こんな日は花々も元気がいいだろうと思った。


 再び眠りに落ち、何分経ったかはわからないが、教室がざわめきだした。俺は目が覚め、教師がいなかったので、後ろの席の村井に教師がどこへ行ったのか聞いた。


 すると彼女は、わからないけど今は自習になった。教師は放送で召集された。と言った内容のことを言った。それだけ聞いてまた寝ようと思ったが、彼女に質問されたので、また体を捻った彼女を向いた。寝ている時に夢を見たか、という質問だ。見たけれど、今見たわけではないし、内容を聞かれても言うのがためらわれるので見ていないことにした。彼女は何か含みのある顔をしながらベランダへと駆けていった。どうやら外で何かが起こったようだった。彼女は外を見た後、教室内を眺めて、再び俺の所に来て、下に行こうと言った。


 俺は眠ろうとしていたが、何度も眠りを妨げられ眠くなくなってしまったので承諾することにした。非日常的な体験で何かを考えるようになるかもしれない。


 教室を出るときにふと思い出して白石の席を見ると、やはりそこに彼女の姿はなかった。

 嫌な予感がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ