前田part.1
二章は、三人の女子について考え、奔走する男子の話です。
昨日はいつもより眠かった。それでもうまく寝付けなかったのは、あの相談のせいだろうか。
「私の友達が自殺でもしそうなの」
自殺。スーサイド。いつもはあれこれ考えずに行動する前田だが、自殺という重石が張り付けられた短文メールを目にしたときは考えずにはいられなかった。夜寝付く直前、目に痛い白色のメール画面にしたためられた黒文字が目から脳へと入り込んで、腋の下に嫌な汗をかかせた。
メールの送り主は幼馴染の堀江だった。堀江里香。見慣れたその四文字に胸がどきりとした後に棘が刺さったような痛みが残った。昔はよく遊んでいたが、異性なので小学校高学年にもなると会話する機会も減った。中学高校と同じ学校に進んだものの、今ではすれ違った時によそよそしく「おっす」と言うくらいしかしていない。
そんな彼女からメールが来たことを不審に思ったが、メールをやり取りするうちに、その友達とやらはどうやら俺のクラスメートの白石だということがわかった。白石と堀江は同じ部活に所属していて、活動日は毎日一緒に帰るほどの仲であり、白石はチョコミント味のアイスクリームが好物とのことだった。
そんな白石の様子がおかしいと堀江が気づいたのは昨日の夕方のことだったという。行きつけのアイスクリーム屋で堀江はラムレーズンアイス、白石はチョコミントアイスを頼んで食べ合うのがお決まりらしいのだが、その日は白石もラムレーズンアイスを頼んだのだという。それだけの話か、と思ったのだが、ラムレーズンを選んだ理由を聞くと、「里香が普段味わっている世界を楽しめないかなっ、て」と答えたらしい。それなら分けてあげるのにと言っても、しっかり全部食べたいのと言われたそうだ。妙に言動が明るくも感じたらしい。
味わっている世界という言い回しに普段感じなかった違和感を覚えた堀江は、白石と別れた後、こっそりあとをつけて目撃してしまったのだという。何を? と尋ねた後、数分の間があり、リストカット、とだけ書かれたメールが返ってきた。
事態を重く感じた前田は、堀江に電話をかけた。堀江はコールを五回スルーして電話に出た。多分深呼吸をしたのだろう。彼女は電話に出るだけでもそうとうな気苦労を強いられるような精神状態にいるのだ。
いつも通り「おっす」と言うと、堀江も「おっす」と返してきた。いつも通りのよく澄んだ声にも聞こえたが、電波にのって真夜中の暗い部屋に飛ばされた音声はいつになく震えているような気もした。
彼女は彼女なりに気合を入れているのだから、単刀直入に聞かないと。そう思った。
「リストカットって、どういうことだよ?」
「……駅前の通りの、スーパーを右に曲がっていったところに公園があるでしょ。そこに行って水飲み場で水流しながら……」
語尾は絶え絶えになってしまったが、そこまで言われれば状況は掴めた。他に彼女の口から情報が出てくるかと思ったが、数秒間沈黙が続いた。
「そうするような理由は知ってるのか?」
またもや沈黙が訪れ、このまま会話が終わってしまうのではないかとも思った。しかし、彼女は言葉で崖に橋を架けるように「……わからないから、私も、困ってるの」と言った。返事は返ってきたものの、特に有効な情報は得られなさそうだった。
とにかくちゃんと寝ろよ、心配だろうけど、と声をかけると、消えかかった声でうんと返ってきた。最後におやすみ、と言い、おやすみと言われ電話を切った。
俺はよく眠れない夜を過ごした。里香はどうだったろう。




