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世界は一つじゃない  作者: 茶瓶
私の野次馬精神
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村井part.1

一章はとある女子高生のお話です。

 前の席の前田が大きないびきをかいて寝ている。当然だ。五限の古典の授業は、退屈なうんちく話で有名な的田の受け持ちだからだ。野球部の彼にとっては、貴重な体力回復の時間に充てるのが最善の選択だろう。ゆったりとしたいびきと共に、彼の背中と肩が膨らむ。どうして男の子の背中ってこんなにも大きいんだろう。


 私はそうやって彼のことを観察するのが好きだ。恋愛感情からくる相手のことを知りたい願望ではないだろうけれど、図体のわりに行動が幼い男子高校生を眺めるのは楽しい。豪快に居眠りはするものの、頬によだれを垂らしてしまう所とか。


 今日の彼は、寝つきが悪そうに何度も寝る姿勢を変えていた。今日から七月に入り、梅雨の晴れ間だというのに、既に30度を超えるというのだから無理はない。私もワイシャツの胸元のボタンを一つ開けて、下敷きでパタパタと扇いだ。そんなときだった。


 遠くの方で重いものが地面に落ちる音がした。マンションの工事現場でミスでもあったかと思ったが、下の階から悲鳴が聞こえてきた。何があったのかと訝しみはしたものの、どうせたいしたことではないだろうと思って、扇ぎながら彼を観察していた。


 今度は放送が入った。教頭の妙に抑えられた声が、いつものおどけた仕草を感じさせずに響く。「職員は至急職員室に集合しなさい。生徒たちは各教室にて静かに自習すること」。その放送の三秒ほどあと、のろのろと的田が動き始め、自習の旨を伝えながら教室を出た。


 静かに自習しろ、と言われて静かに自習するほど高校生は単純ではない。沈黙を強いられた時間は若者を雄弁にする。教室は徐々に勢いをつけながらうるさくなっていく。


 周りが騒がしいのに眠りを阻害されたようで、前田がもぞもぞと動き、顔を上げ黒板に向けた。そして的田がいないことに気付き、何が何だかわからない様子で私の方を振り返った。


「先生はどこにいったの、村井」眠気の混じった声で柔らかく包み込むような問いだった。

「よくわからないけど、放送が入って招集されちゃった。ってわけで今は自習」

 なるほどー、と前田は間延びした声で相槌を打ってまた眠ろうとしていたので、私はすかさず次の話題を差し込んで暇をつぶす。前田には悪いけれど、今は寝ていないで話してもらいたいのだ。


「随分長いこと寝てたけど、なんか夢でも見たりした?」

すると前田は目を見開いてから目線を上に向け、それから目を合わせないようにして何も見なかった、と答えた。私はその間が気になったが、破廉恥な夢でも見ていたかもしれないのであえて追求しないことにした。私は彼が一瞥した天井を見上げたが、そこには無数の穴が開いているだけだった。


 気が付くと数人の男子生徒が教室の後ろからベランダへと出て遊んでいた。禁止されてはいるが、いつものことなのであまり気にしなかった。気付いたのは彼らが大声で主張を始めたからだ。

「おい、生徒玄関の辺りでブルーシートが敷かれてるぞ」


 彼らの声に反応した一部の生徒は、ふらふらと興味本位でベランダへ向かった。それと入れ替わりに彼らは教室から廊下へ飛び出していった。私はベランダに向かう一派に加わり、事実を確認した。確かに青いビニールシートが敷かれその周りには教員が四人いる。


 教室内に戻り室内を見渡すと大半の生徒がまだお喋りを続け、無為な時間を過ごしていた。なぜみんなは自由な時間が与えられているのにその自由を目いっぱい享受しようとしないのだろう、と私は思った。そして私の中の野次馬精神がひょっこり顔を出し、ブルーシートの下の真実を確かめなさいと告げた。面白そうとは思ったものの、一人で行くのは面白みに欠けるので、誰かを誘うことにした。とはいってもいつもの女友達ではつまらない。自由な時間なのに、いつもの関係に縛られていてはもったいない。そうだ、前田を連れていこう。そう思った。


 自席に戻って、再び眠ろうとして机に突っ伏している前田を突っついた。するとまたもぞもぞしてから振り返った。


「ちょっと様子みてこない? 下で何が起こってるのか」私が呼びかけると彼は別に嫌そうな顔もしなかったので(嬉しそうな顔でもないが)、太めの腕をがっしり掴んで立ち上がり、前田を引っ張った。すると彼も立ち上がり、二人で歩き出した。


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