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※本日2回目更新となります

 柔らかな花弁がぱらぱらと降ってくる中、新しい制服に身を包む。

「うわ~綺麗」

 正門傍に植えられた桜が綺麗で、人の流れの邪魔にならない場所に立ち止まりぼんやりと見上げる。

 吸い込まれそうな青空を背景に、終わりが無いかの如く降り注ぐ花弁に魅入る。

「そうだな」

 遥もそう思うのか、穏やかに目を細め、こちらを向いていた。


「相変わらず仲が良いですね」

「崎谷くん、久しぶり~」

 卒業式以来の亮一の姿に浮かれた気分のままに挨拶をする。まだ見慣れない制服姿に、三人同じ学校に受かった事を今更だが実感した。

「おはようございます、葉月さん」

 相変わらずの亮一と遥のお互いのスルーっぷりには最早苦笑するしかない。いい加減仲良くすればいいのにと思いはするが余計なお世話らしい。

 それでも、そのまま三人揃ってクラス分けが掲示されているのを見に行くのは問題ないらしいし、不思議な関係だ。


「皆一緒だねぇ」

「そうですね」

「……そうだな」

 学校も一緒、塾も一緒、クラスも一緒なら、もうお互いに諦めてしまえばいいのに、と再び苦笑する。


 あの良くわからない一件で、遥の中では何かが解決したのか、不安は解消されたようだ。

 今朝一緒に登校する間も妙な雰囲気になることも無くて、遥の表情も柔らかい。

 私自身も不安を吐き出したことで身構える気持ちが薄れたのが嬉しくてならない。入学式の浮かれ気分も伴い、自然と遥を見上げるたびに顔が笑み崩れる。

「……持ってかえりたい」

「ん?何を?」

 桜?と問いかけると何でもないと返される。最近こんな風にはぐらかされることが増えたように感じるのは気のせいだろうか。



 式も終え、久しぶりに揃い踏みの遥とうちの両親は積もる話でもあるらしいので、行きと同じく帰りも遥と二人だ。

 行きは時間帯が違ったけれど、帰りは一緒だと思っていたのに、当てが外れる。

「うーん、さすがに親同伴じゃないと制服姿だとまずいか」

 通り道に、可愛いカフェを発見して密かに寄りたかったのにな、とぼやいていると、くしゃりと頭を撫でられる。

「休みの日にでも付き合う」

 宥めるようにこんな事をされると、それなりに精神年齢が高いと自負していた分、何ともいえない気持ちになる。

 出会った頃はお姉さん気分だった私だが、騒がしい周りの子たちと違い早々に遥は落ち着いていたせいか、この年なのに大人びて見える。

 まだまだ子供といえる年齢のはずなのに、どうしてこうも規格外なのが自分の周り多いのかとたまにため息をつきたくなるのだ。こうして周囲を見渡してみても、以前のクラスメイトを思い出しても、前世の記憶通りの落ち着きが無い、子供っぽいタイプが多いのに、自分の周りだけ妙に浮いてはいないだろうか。

「なら今週の日曜日」

「さっそくだな」

 土曜は遥は塾、私は英会話教室があるので、お互い予定が無い日曜日を提案すると、わかったとばかりにポンポンと撫でられる。しかも、さりげなく先ほど乱れた髪を整えてくれているあたり、遥の将来に不安を感じる。

(たらしだ……しかも無意識だ……)

 幼馴染でしかない自分さえ、やけに甘やかされたり、優しい目で見られたり、さらには先日のように指を絡めるように繋いだり。本当に不安でならない。

 これで本気で誰かを口説こうとすると、どうなってしまうのだろうと、まだ見ぬ遥の未来の恋人に同情するしかない。

(それに束縛すごそうなんだよね~)

 昨日の発言なんてその筆頭だ。自分の知らない人間が幼馴染の傍に増えたってだけでああなるなら、恋人なんて息も出来ないほどにがんじがらめになるんじゃないかと思う。

 遥の恋人になると大変そうだね、と口にしかけた時、こじんまりとしたカフェの前を通りがかる。

「ほら、ここ」

「美樹の好みだな、確かに」

「うん、こういった落ち着いたお店好き」

「……昔からちまちましたもん集めてたよな」

「大好き」

「…………っ」

「こう、豪華~っていうのより、可愛い小物があって、のんびりできそうなのが良いんだよね~って、遥?」

 普段なら相槌くらい返してくれるはずの遥が黙り込んでいるので、首を傾げながら見上げると、顔を背けられた。

 また聞こえないくらいの小さな声で何かぶつぶつ呟いている。変な癖でもできたんだろうか。

 前を向いてないのに、人とぶつからずまっすぐ歩いているので問題ないかと、遥が元に戻るまで放置する。他に良い店あるかなときょろきょろしながら歩いていると、突然肩に手が回り、遥に引き寄せられる。

「……ぶつかる」

「有難う」

 言われて気付けば、至近距離を人が通り過ぎる。

「あ、もう大丈夫だよ。今度は気をつける」

 何の違和感もなく、そのまま歩いていたのにふと気付く。

「ん」

 するり、と肩を撫でるように遥の手が滑り、離れてゆく。

(器用だ)

 遥を見上げると再び顔を背けていて。どうしてこれでまっすぐ歩けるのか不思議でならなかった。






【ルート分岐】


 恋人大変そうだよねと口にしていた場合、そのまま話の流れで捕獲されてしまう。

 恋愛感情は持っていない美樹との気持ちの差を埋めようとして、焦れた遥に、早々に喰われかけてしまう。(ぎりぎり未遂)



 ※遥が綺麗だと言ったもの→×桜 ○美樹 と思った方、大正解です☆


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