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※本日2回目の更新となります、ご注意下さい



 待ち合わせはしていないものの、あれから英人とは同じ車両に乗る事が多く、お互い気軽に話をする仲となっていた。

 今日も、いつもと同じように隣り合わせに腰掛け、取りとめもない話をしている間に私の降りる駅が近付いて来たので荷物を手に抱える。

 またね、の言葉と共に英人の優しい掌が頭の上におかれる。

 慈しみの滲む手付きは心地よくて、ついごろごろと喉を鳴らして懐きたくなってしまうのに、自然と頬が緩む。

「うん、またね」

 そんな言葉を最後にホームに降りると、そこで意外な人物を目にする。


「遥!遥も今帰り?」

 遥の塾は私より近いので時間が合わず、いつも駅で会う事が無かったのに、今日はすごい偶然だ。

 予想外の出会いに弾む声で声をかけるが、遥の(まと)う雰囲気がかたい。

「遥……?」

「あ、ああ。美樹も今帰りか?」

「うん。……何かあった?」

 歯切れ悪く返す遥の表情はいつものものと答えるには強張っていて、心配で声をかけてみるものの、遥はただ首を横に振るだけだった。


「あのさ、さっきの……」

 普段なら、言葉少なではあるが気まずい沈黙を作り出す事が無い遥との時間。

 今日はやけに居心地が悪い。

 話しても、話さなくても、遥といてそんな空気になった事は無いのに……。

 いつもと違う雰囲気に何かしてしまったのか、それとも何かあったのかと思い悩んでいる私に、遥がようやく自分から口を開く。

「さっきの?」

 問い返すと、その続きを言うのを躊躇(ためら)うように、遥が何度か口を開いては閉じるのを繰り返す。

「さっきの、誰」

 何度も、何度もその行為を繰り返した後、遥が口にしたのはそんな言葉だった。

「誰って……私と一緒にいた人?」

「そう、あいつ」

 何でそんな事が気になるんだろうかと思い、考えてみれば、幼い頃から一緒にいた遥と私には互いに知らない相手というものがいなかったから、そのせいかと納得する。

「帰りによく一緒になるお兄さんで英人さん。中学1年生なんだって」

 私達が今度入る中学の先輩だよ~と続けていた私の言葉が途中で止まる。

 遥の目が怖いのだ。

「仲良いんだ」

 続ける遥の声は普段と同じなのに、その目に違和感を感じる。

「う、うん……仲は悪くないと、思うけど……」

 自然と返す私の言葉も切れ切れになる。

「ふうん」

 気の無い返事を返しながらも、遥の視線が私の顔から一瞬も離れない。

 私の足が自然と止まるのにあわせ、遥も歩みを止めるが、そこからは互いに言葉を失う。

「…………」

 何でこうなった?その言葉が頭の中をぐるぐるするけれど、答えが浮かんでこない。

 戸惑い、遥をただ見詰めているだけの私の頭に、遥の大きな手が伸びる。


 同じくらいだった背は、今となっては見上げるばかりで。

 大きな掌が、これから先も遥の背は伸びるんじゃないかなあ、なんて思わせる。

 現実逃避するように、ぼんやりとそんな事を感じていると、いつものように遥の手が柔らかに私の頭を撫で始める。

 普段なら心地良さに目を細めながら堪能するのだが、探るような視線でこちらを見る遥に、今は僅かな緊張が走る。

「はる……か……?」

「ん?何」

 話しかけるとちゃんと返事が返るが、今の遥は妙な威圧感があった。

 戸惑いながらいつまでも撫でられていると、ようやく落ち着いたのか、遥の手がゆっくりと離れてゆく。

 自然とその掌を追うように視線を向けていると、その手はそのまま下りて行かず、するりと私の頬を撫でる。

「遥……?」

「どうした」

 続きを促すように声をかけながらも、遥は掌で、指の背で、するすると私の頬を撫で続ける。

 頭を撫でられることは多かったものの、こんな風に触れられる事は今まで無くて、私はどうして良いのか分からなくなる。

 これに近い雰囲気は遠い彼方の記憶にある。だがそれはこんな糸を張り詰めたようなものではなくて、もっと甘く温かいものだった気がする。

「何でも、ない……」

 こくり、と緊張感を飲み下すように私の喉が上下すると、頬から離れた遥の指が、するりとその喉元を撫で離れて行く。


 どうしたの?そう続ける事ができなかった。

 射抜くようにこちらを見る遥の視線に縫いとめられたように、ただただ遥を見上げる事しか出来ない。


「帰ろうか」

 時間の感覚も無いまま見詰め合っていると、遥が気分を変えるように深く息を吐き、私を促す。

「そうだね」

 少しおぼつかない足取りを自覚しながらも、私も妙な雰囲気を振り払うように頷き、横に並ぶ。



 いつもと違う空気を、気にしないようにしながら───




【ルート分岐】


 遥の行動から逃げようとした場合、遥のヤンデレ度が一気に上昇。

 美樹の行動を細かく追い始め、知らない人間を近寄らせないようにしはじめる。

 有無を言わせぬ雰囲気で塾もやめ、美樹と同じ教室へと通い、いつも傍にいるようになる。


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