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 あんな出会いだったものの、遥とはあれから友好的な関係が続いていた。


「……美樹、帰るぞ」

 5年生となった今でも、今年は同じクラスになった遥といつも一緒に帰っている。

 表情が乏しいのは変わらないものの、遥はちゃんと友人も作っていた。───なぜか、その友人達から遊びに誘われても、必ず私と帰ろうとするのが謎だが。

 何度か、他の友達と帰るから大丈夫だよと伝えはしたものの、遥が頷く事は無かった。


「お待たせ」

 帰り支度をして遥の元に向かうと、かすかにその目が細められる。

 ちょっとした表情の変化や仕草で今となっては遥の感情がわかるようになっていた。こうして二人で帰る時の遥はやたらとご機嫌だ。だが、この日はその機嫌が急降下する事となった。


 二人揃って教室から出ようとした所で、ちょうど教室に入ろうとした人とぶつかりそうになる。

「あ、ごめんね」

 慌てて道を空けると、その人はちらりと私達二人を見て馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「女とばっかりいて、クラスの平均点を下げないで下さいね」

「……お前みたいな勉強ばっかりの人生なんて俺はごめんだね」

 声を荒げることは無いものの、その場には冷ややかな空気が漂い始める。


 今年初めて同じクラスになった、この崎谷(さきや) 亮一(りょういち)と遥はよほど相性が悪いのか、普段はお互いに近寄る事をしないけれど、こうして傍に寄れば所構わず嫌味の応酬を始めるのが常だ。


 先程のご機嫌は何処へやら、同じ様に目を細めながらも遥の抱く感情は間逆だった。

「葉月さんも、せっかく成績が良いのですから、こんな男と一緒にいたら馬鹿がうつりますよ」

「崎谷ぁ……美樹にまで言いがかりつけんのかよ!」

 私にまで絡んだせいか、遥が掴みかからんばかりに詰め寄る。


「いい加減にしなさい!」

 普段の嫌味の応酬で終わりそうにない勢いに、反射的に二人の頭を同時に叩く。

「っ、馬鹿の彼女はやはり馬鹿なんですね!すぐ暴力で解決しようとする」

「前から気になってたけど……馬鹿馬鹿って、遥の事そんな風に言えるほど偉いわけ?崎谷くんは」

 我ながら手が早いのは反省しなければいけないが、それよりも先程からのやり取りで気になっている事を告げる。

「当然です」

「どうして?」

 当たり前とばかりに返してくるのに、畳み掛けるように問う。

「僕の方が成績が良いからに決まってます」

 何の疑問も無くそう答えるのに、さらに言葉を重ねる。

「それだけ?成績だけ?」

「それ以外に何があるって言うんですか、人の優劣を決めるのに他に何が必要だと言うんです」

「……何が必要、ね」

「無いでしょう?良い成績を取っていれば、良い学校へ進める、そして良い会社へ入れる。他に何があるんですか」

「あるに決まってるでしょう」

「ほら、無いに───え?」

 そのまま決め付けて続けようとした亮一が、予想外の返事に言葉を失う。


「いっぱいあるじゃない。リーダーシップがあるとか、友人が多いとか、何か1つでも誰にも負けない特技があるとか」

 立て板に水の如く、すらすらと答える私の言葉をしばらくじっと聞いていたと思えば、くだらない、と一蹴する。

「そんな物が何の役に立つと言うんです」

「そんな物の方が、勉強だけできるより役に立つ事多いと思うけど?」


 だって、就職してしまえばとても役立つスキルだし。リーダーシップがあれば、まとめ役に抜擢される事もあるだろう。

 友人が多いと手助けしてもらえる事も多いだろうが、それ以上に職場なんてものはチームワークが大事だ。

 同じ勉強ひとつとっても、ただ成績が良いだけだとそれこそ良い会社の筆記試験に受かりやすい程度じゃないだろうか。

 やはり選ぶ人だって共に働く人間は選びたいわけで。だからこそ面接試験があるんじゃないか。

 特技だって、突き詰めればその専門の分野で身を立てることができるわけで。

 それこそ勉強も何かに特化している人の方が世に役立つ功績を残している事が多いわけで。

 まあ、全体的に成績が良いのも、選択肢を増やすためには必要だけど、それはあくまで手段の一つであって、最終目標にはならないんじゃないかな。


 ───などと言う事を、つらつらと思いつくままに連ねているうちに、気付けば目の前の亮一が黙りこくっていたのに気付く。

 頭に浮かぶ端から言葉にしていたせいで、気付けば長々と一人しゃべっていたことに気付いて少しいたたまれなくなる。


 とはいえ、適当な事を言ったつもりはない。実際遥も成績はそこまで良い方じゃないとはいえ、今となっては短所と成り得た鉄面皮が、逆に大人っぽく見えるとか、頼りがいがあるとかいって、よく相談を受ける存在となっていた。

 幼い頃とは異なり、遥はこの年齢としては落ち着いていて、頼り甲斐があるのだ。

 ───まあ、それは亮一にだけは適応されないのだが、人には相性というのがあるので仕方が無いと言えよう。


「あ~なんか一人でしゃべりまくってたね、ごめん。まあ、でも他の人は知らないけれど私はそう思うよ」

 無言のままの亮一に、さすがに気まずくなってきて、話を打ち切る。


「まあ結局、何が大切かって人によって違うから。あまり他人を下に見ないでくれると嬉しいなって」

 気まずい思いのままに、そそくさと続けると同時に、遥の腕をひっぱり歩き出す。

 さすがに長い付き合いの遥にしても、怒涛の勢いでまくしたてた私に驚いていたのか、されるがままに私に引き摺られて行く。

「じゃ、じゃあね、崎谷くん」

 静かなままの亮一に何かを言われる前にと、私は返事を待たずに挨拶だけしてその場を後にした。


「美樹があんなに一気にしゃべるの初めて聞いて、びっくりした……」

 言葉のままに、まだ幾分ぼんやりしている遥がぽつりと呟く。

「わ、忘れて!私だってあんなに言うつもりなかったんだってば!つい考えてるうちに、次も、次もって浮かんできて……」

 思い返せば返すほど、今更とはいえ、恥ずかしくなって俯く私の頭に、ぽんっと暖かな手が乗せられる。

「でも俺は嬉しかったな」

「……遥にも悪い所はあったんだよ、もちろん私もだけど」

「ああ、わかってる」

 嫌味に対して同じ様に応酬しようとしたのも、激昂して掴みかかりかけたのもやり過ぎだ。


 亮一を前にしていなければ冷静に判断できる遥は、あっさりと頷いてごめんな、と私の頭をそっと撫でる。

 心地良いその感触に目を閉じながら、私はぽつりと呟く。

「私も、嬉しかったよ……」


 小さな小さなその言葉が遥に届いたのかはわからない。

 これまで、亮一に皮肉を言われている時の遥があんなに怒るのは見たことが無かった。

 今回は私を引き合いに出したから、あんなに怒ったって事くらい私にもわかる。

 それが嬉しくてついこぼれた言葉だったが、遥の手が止まったことで目をあけた私が見たのは、そっぽを向いている遥の姿だったから、もしかして聞こえてなかったのかもしれない。

 ちょっと恥ずかしかったので、そのことに安心した私は、どうしてか立ち止まったままの遥の腕を引いて歩き始めた。


「…………~っっ!!」

 しっかりとその声を聞いていた遥の耳朶が真っ赤に染まっているのに、気付くことなく。



【本編 亮一】


 幼少期の成長が早かったため、過剰な期待をした両親より、他人より秀でるようにと教育されていたが、美樹に言い負かされた事で視野が開ける。

 それ以来興味が赴くままに知識を得て、人間味のある人物となる。───だが、相変わらず遥とは犬猿の仲


【ゲーム内 亮一】


 己より劣るものを見下していたが、ゲームの主人公にトップの座を取られた事で興味と敵愾心を抱く。

 己が唯一としていたもので負けた事で不安定になり、その不安感から主人公に依存してしまう。

 最終的には矛盾した感情のままに首を絞めたり、愛情を乞うたりと極端な行動をしてしまいつつも、主人公を手放せない



※改稿内容

 亮一に問い始める場面の会話部分を一部修正

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