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※美樹以外の視点となります。


「はじめまして、佐倉(さくら) 美咲(みさき)です。皆さんよりちょっと遅れてしまったので、色々不安なので……よろしくお願いします!」


 はにかみながら挨拶をする少女は、名前の通り桜の花が咲くようにふんわりと笑った。

 清純そうな姿と、可愛らしい笑顔、恥ずかしそうに時折俯く姿は庇護欲をそそり、すんなりとクラスの一同は彼女を受け入れたのだ。

 ―― 一部を除いて。



「ねえ、遥くん。次の教室移動の場所まだ覚えてないんだ……一緒してもいい?」

「……城戸でお願いできないか」

 初対面のはずなのに、名前で呼ばれた遥は(いぶか)しむようにその眉を寄せる。

 そもそも、名乗った事も無いのだから。

(――名簿でも見たのか?)

 遥にしてみれば、そんな事くらいしか想像できない。

「――そう。で、でもね。私出来たらみんなと早く仲良くなりたくって!だから、名前で呼んだら早く仲良くなれるかなぁって思って……」

「それは人によるだろう」

 取り付く島も無くこたえる遥の言葉に、美咲は一瞬黙り込む。

「……によ、どうせ……のくせに」

 俯き、ぼそぼそ告げる美咲の声は小さすぎて遥には聞こえない。

「何か言ったか?」

「ううん!何も言ってないよ!……だったら、城戸くん、連れてってくれないかなぁ?」

「……他に案内してくれそうな奴がいるだろう」


 美咲の姿に見惚れていた男は多い。

 興味の欠片も持たない遥に頼むより、そういった者に頼んだ方が余程親切に案内してもらえるのは確かだ。

「で、でも……城戸くんはあんまり人と関わろうとしてないでしょ?だから……」


「おーい!遥ぁ!次移動だろー行こうぜー!!」

 美咲が言い募っている最中に、遥に向けて誘いの言葉が投げかけられる。

「……ああ、すぐ行く」

 友人の言葉に頷いた遥は、息を呑む美咲を振り返り続ける。

「俺にも友人くらいいる。……勝手な想像は止めてもらおうか」

 さすがに編入してきたばかりの者を(ないがし)ろには出来ず、案内くらいしておこうとしていた遥も、勝手に人を決め付けてきた美咲に対して気分を害したらしく、自分で案内する気を失った。

「おい、良かったら編入生を案内してやってくれないか?」

 すぐ傍で美咲を見ていた者にそう告げ、遥は何の迷いも無くその場を後にした。

「……っ、なん、で!」

 美咲が背後で何か言っていたような気がするが、これ以上関わる気にもなれなくて、遥は教室を出た。



「何でここに恭くんがいるの!」

「…………?」

 突然見知らぬ少女に自分の名を叫ばれ、恭はことりと首を傾げる。

 何でと言われても、ここを受験して受かった以外にあるのだろうかと、恭にしてみれば意味の分からない事を言われても困る。

「受かったから」

 それ以上でもそれ以下でもない。簡潔に答えると、恭は廊下を渡ろうとし始める。

「夜の街とかにいるんじゃ……」

 その言葉に、さすがに恭も眉を寄せる。

「たまには出るけど、ほとんど無い」

「だったら、喧嘩とか!!」

「……暴力は嫌いだ」

 葉月一家と祖父母によって癒されたとはいえ、記憶は消えない。

 恭は苦々しい顔をしながら、訳のわからないことばかりを言ってくる少女の相手をするのに疲れ、足を速める。

 ――そもそも、苛立たしそうに睨みつけてくる目は、苦手だ。父母の視線を思い出すから。

(……美樹のとこ行こ)

 最近は男同士で遊ぶ楽しさもあり、兄貴分な遥に付きまとってはいるが……やはり、不安な時に安心をくれるのは美樹だ。

 恭は残り少ない休憩時間を癒されに行こうと目的地を己の教室から美樹の所に変え、振り返らず向かう。

「……またなの!」

 遠くで少女の怒りに満ちた声が聞こえたが、何を言ってるのかまではわからなかった。



「……亮一、くん?」

「はい。……あれ?お会いした事ありますか?」

 何故か自分を呆然と見つめる少女に、亮一は不思議そうに問いかける。

 名前を呼ぶくらいなのだから、どこかで合った事があるのだろうが――

「申し訳ありません、どちらでお会いしたのか忘れてしまって……どこかの山ですか?それとも写真の展示会、とか……ああ、それとも鉄道の催しとかですかね」

 現在のロッククライミングになるまでに、カメラや鉄道、自転車や一人旅。思いつくままに色々手を出していて、そのたびに多くの知人友人を増やしてきていた亮一は必死に思い出そうと額に手を当てる。

「すみません……失礼ながら、どうしても思い出せません」

 困ったように眉を下げながら告げる亮一に対して少女は無言のままだ。

「たびたび申し訳ないんですが、ちょっと今日はロッククライミングの訓練があって……時間が無いんです。お話し中ですが、失礼させていただきますね」

 黙りこくったままで(らち)()かないと思った亮一は丁寧に頭を下げてその場を()する。

 少女は何故か、そのままぼんやりと玄関に立っているので少々心配になりながらも、亮一は腕時計を見ると慌てて校舎を後にした。



 それからも、少女は校内を巡っていたようだが――その結果は明らかだった。


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