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※本日2回目更新となります

 忙しい日々は目まぐるしく過ぎ去ってしまう。

 部活に勉強に習い事。日曜日には遥と出かけたり、家でのんびりしたり。

 予定に埋め尽くされた日常は充実していて、気付けばこの生活も終わりを告げようとしていた。


 高校は余程の事が無ければ皆そのまま上がってゆく。

 世の中の同年代とは異なり、受験ムードなど漂わない日々は淡々と過ぎてゆく。


 その間に、舞台に立つようになった私が崩れ落ちるシーンの練習で膝に青痣を作っては遥に部活をやめろと本気で口論になったり、仲良くなった千秋と廊下で談笑しているのに、遥が混じる事が増えたかと思えばいつのまにか二人が仲良くなっていたり。


 そんな千秋は高校入学と同時に、規模は小さいが先が楽しみだと批評されることもある劇団に入団し、めきめきと実力をつけているようだ。

 最近は小さな劇場で舞台に立っている千秋を、遥と共に観に行く事も増えた。

 

 仲良くなるといえば、私の家で何度も遭遇するうちに、遥は恭の兄貴分のようになっていた。

 何故だか恭がほてほてと遥の後をついて回るのだ。

 あれか、私と母が構いすぎたせいか。構われすぎて我が家のハイテンションな女達の相手に疲れてしまったのか?

 そうなのか、恭くん、私は寂しいよ……と思いはしても、戸惑いながら色々な遊びを遥に教えられるたびに、楽しげに笑う恭の姿を見てしまえば、微笑ましく見守るしかない。


 どうしてこういった関係が、腐れ縁のはずの亮一相手では出来なかったんだ遥……やはり、この二人相性が最悪なのかと、再度認識してしまった。私という緩衝材無しで、あの二人が一緒に遊んでる姿など想像できない。


 年齢が上がるにつれ、好奇心が暴走しはじめた亮一は亮一で、ロッククライミングに目覚めてみたり。

 ……最早勉強ばかりしていた彼の面影は欠片もない。

 意気揚々と、険しい山へとチャレンジし、日々体力作りに励んだせいか……いつの間にやら亮一は運動部の生徒のように日に焼けていた。それでいながら親に文句は言わせないとばかりに、成績は上位を維持しているのは、私も見習わねばと意識を引き締める。


 私が部活に熱を入れ、帰りが遅くなりはじめた時は……心配した遥が塾の帰りに、学校に戻ってきてまで送ってくれるようになった。

 さすがにそれは悪いと断れば、部活を辞めるか、迎えを受け入れるかの二択を強いられる。

 なんでこうも、遥は過保護なのだろうか。

 三年も終わりに近付いた今、もう次の代に部は引き継がれ、今は逆に途中まで一緒に帰り、塾へ向かう遥を手を振って見送っていたりする私だ。



 ……入学前日の会話以来、遥と妙な雰囲気になることはなかった。

 お互い、違う生活をしながらも、ふと隣を見るとそこに遥が居る。

 その事にひどく安心する自分がいた。

(……あの時は、遠くなっちゃうかと思ったんだよね)

 仲の良かった幼馴染が、成長するにつれ自然と疎遠になるなんてよくある事だ。

 遥がいる生活が日常と化していた自分にとっては、そんな心配それまでしたこと無くて、本当はすごく不安だった。

 だからこそ、会話が無くても心地良い空気でいられるこの関係が途絶えなかった事は、素直に嬉しい。



 けれど、高校入学も間近な今――少し、困った事になっている。


「…………」

「…………」

 最近、遥の部屋に遊びに行くと、一度はこうして膝の上にひょいと乗せられる。しかも大きなぬいぐるみを抱えるかのように、背後から遥はぎゅうぎゅうと抱きついてくるのだ。

 前みたいに妙な雰囲気ならば、振り払おうとすることもできるのに、私の頭の上に顎をどっかり乗せた遥は、さほど表情は変わってないが、幸せそうなのだ。

 まったりと、のんびりと……幸せオーラを放っている。

 私はあれか。癒し系グッズにでもなったのだろうか。

「あー……幸せ」

 とうとう今日は、言葉にされてしまった。

 やっぱり遥は私を抱えてリラックスしているようだ。

 別に嫌なわけじゃない。嫌なわけじゃないんだけど……とりあえず、自分の両手をどうしていいかわからない。とりあえず、そのままたらりと下ろしておく。


 あの不安だった時期を除いて、手を繋ぐとか頭を撫でられるとかはあれども、抱きしめられる事は無かったのだ。

 それなのに最近は、抱きしめられるのが日常と化している。

 何かおかしいのはわかっているのだが……図体はでかいくせに、ご機嫌な猫のように、今にもごろごろと喉を鳴らしかねない遥が妙に可愛いので振り払えない。

「ほんっと幸せ……」

 さらに強調されてしまった。

 ぐりぐりと頭を撫でられ、ぐらぐらする頭を後ろに倒して見上げると、相変わらずの鉄面皮だが、目がわずかに細められ、頬が何とか読み取れる程度ではあるが、ほんのりと色を増している。

 こんな顔を見せられてしまったら、良い子にしているしか無いではないか。

「……」

「…………」

「……」

「…………ひゃうっ!」

 首筋にごろごろとしていた遥が、突然ぺろりと舐めてきたのに情けない悲鳴が上がる。手で首を押さえ、遥を睨みつけると満足そうに、ぺろりと自分の唇を舐めている。

 いらっと来て、遥からしっかりと距離を取ると……ちょっと寂しそうな目になるがキニシナイ。最近の遥は、私がちょっとした表情の変化に気付くのを良い事に、わざとこんな風に振舞っている気がしてならない。

 つい、罪悪感が沸いてきそうになるが、騙されちゃいけない、悪いのは遥だ。

「……もうしない」

 諦めたのか、寂しげな素振りを消した遥が手招くのを受けその横に座り、先ほどまで読みかけだった本に再び手を伸ばす。

 しないと遥が言ったのなら、そうだろう。そこらは信用している。


 ……今日は。と遥が続けた言葉が、本に意識を飛ばした私の耳に入らなかったのを、未来で後悔する羽目になるとは、この時の自分は気付いてなかった。



【フラグ成立】


 成立条件:甘えてくる遥を振り払わない


【回避ルート】


 遥の膝上からすぐ逃げ出しまくっていると、そのまますぐ横にあるベッドに押し倒され、無理やり合意させられる。(それ合意とは言わない)

 そして既成事実を盾に強制的な恋人関係の発生。


※改稿内容:寂しげな素振りは消した遥が手招くのに、その横に~→寂しげな素振りを消した遥が手招くのを受け、その横に~

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