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 物心付いた時には自分が知らないはずの記憶がある事に気づいていた。

 そしてその記憶故に、これが普通ではない事にも気づいていた。だから、周りの同年代の子の真似をして、同じ様な行動を取り続けていたのだけれど───ふと思い立った。

 せっかく前世の記憶があるのだ。前世も今生も、自分が自分である事には代わりはないけれど……どうせなら、昔の自分が果たせなかった事、後悔したことを繰り返さないようにしたいと。


 とはいえ、前世の自分が不幸だったわけでもなく、ただ普通に生きて、結婚して、子供を生んで、孫まで生まれて、家族に看取られるという、どちらかというと幸福な人生だったのだ。

 けれど人並みに、あの頃もう少し色々な事にチャレンジしてればなぁ、とか。もうちょっと頑張って勉強してれば、将来の選択肢が増えたのになぁ、とか。もうちょっと思慮深ければなぁ、という大抵の人が味わったことのある後悔ならいっぱいある。


 前世の記憶はまるで長い映画を見ているようで、実感としてはあまりないので、子供ながら老成しているわけではないけれど、知識はしっかり残っているのである。

 世の(ことわり)など知る(よし)もないので、どういった流れで今の自分に生まれ変わったのかは知らないけれど、好都合に以前の世界と年代はそう大差ないようだったので、以前の知識はそのまま活用できそうなので───それを基盤に、更なる知識を上積みしてゆけば良いのだ。

 ちょっとだけ有利だけど、結局生きるという事は同じ。ただ自分の持てる力で一生懸命生きるだけだ。……ちょっとだけスタート位置が有利な分、周りに申し訳ない気持ちはあるけれど。




 そんな私は今───目の前に居る、あの長い前世でさえ出会ったことが無いような、とても可愛らしい男の子をまじまじと眺めている。


「……何か用?」

 凝視する私に、忌々しそうに、舌打ちでもしそうな雰囲気で告げる冷淡な声にはっと彷徨(さまよ)っていた思考を取り戻す。

「あ、ごめん。こんなに綺麗な人見たことなくて、見惚(みと)れてた」

 悪びれる事無く、あっけらかんと答える私に、その子は少し驚いたのか綺麗な黒水晶を透き通らせたような瞳を見開く。

「別に用があったわけじゃないんだけど、どうせならお話しない?」

 隣に越してきた美形一家が私の家に挨拶に来たのだが、大人達はお互いに情報収集に(いそ)しんでいて、小さな子供は取り残されてしまっていた。

「私、お隣の葉月(はづき) 美樹(みき)です。よろしくね」

「……城戸(きど) (はるか)。よろしくしなくていい」

「……」

「……」

 あまりに素っ気無い遥の言葉に、しばらく沈黙が辺りを漂う。だがその静けさを破ったのは情けない悲鳴だった。

「……いひゃい!なにひゅるんだ!」

「見た目どおり、柔らかいのね~よく伸びますね~」

 むにゅ~っと遥の頬をひっぱりながら薄っぺらい笑顔を浮かべつつ美樹はさらに指に力を込める。

「ひゃめろ!」

「何て言ってるのかわかりませーん」

 自分でも子供じみた真似をしていると思いながらも、苛立つまま、うにうにと柔らかな頬を引っ張る。でも良いのだ、だって私子供だもん。

「暴力女!!」

 ようやく私の手を引き剥がした遥が怒鳴ると、私はにっこりと最上級の笑みを向ける。

「何?陰険男」

 さらりと返された言葉に、赤くなった頬を押さえたまま、遥が呆然とする。


「あらあら、こんなに楽しそうな遥は初めて見たわ」

「そうだな、久しぶりに無表情以外を見た気がするな」

 コロコロとした笑い声と共に、そんな耳にも涼やかな声が落ちてくる。それに続いて今度は渋い声が。だが言っていることは酷い。家でも無表情なのか、そこは心配してあげようよ!親として!

 びっくりして、美麗な夫婦を見上げると、本当に嬉しそうに微笑んでいた。

「ねえ、美樹ちゃん、遥をよろしくね」

「口も悪いし態度も悪いし性格も悪いけど、見捨てないでやって欲しい」

 いやだから、優しい声でも言ってる事は酷いって!いやまて、ちゃんと現状を把握しているからこその言葉か。そして心配しているから、この台詞か。

「よろしくしなくて良いって言ってるだろ!」

 先程の無関心は何処へやら、(つね)られたせいだけではなく、まあるい頬を怒りに真っ赤に染めて怒鳴る遥に、さらにその両親が微笑ましそうにする。そしてまた遥が怒るというループに、些細な苛立ちは吹き飛び、私は我慢できず噴出す。

「何笑ってるんだ!」

 さらに怒鳴る遥の頬を今度はむにゅっ、と両手の平で挟み込む。せっかくの美形もこれでは台無しだ。先程の作ったものとは違い、今度は心から微笑みながら、ゆっくりと遥に語りかける。

「遥くんのお父さんとお母さんは、無表情な君の事を心配してくれたんでしょ?怒らないの」

 手を離す時に、そっと滑らかな頬を撫でながら柔らかに告げると、毒気を抜かれたように遥が黙りこむ。

「……お前がどうしてもって言うのなら、よろしくしてやってもいい」

 ぼそりと、遥が不貞腐れたような声で呟く。またほっぺが真っ赤なのは照れてるのだろうか?

「どうしても」

 優しい声でそう答えて微笑むと、さらに遥の頬が紅に染まる。

「お、お、お前が、どうしてもっていうから、仕方なくよろしくしてやるんだからな!間違えるなよ!」

 元々表情の動きが少ないのだろう、とはいえ、最初の無関心、無表情は何処へやら……動きが無いながらも真っ赤になりながら告げる遥に、こういうのをツンデレって言うんだっけ?と己の中の(とぼ)しい知識と照らし合わせつつも頷く。

「うん、よろしくね!遥くん」

「……遥で良い」

 そっぽを向いて呟くのに、遥だね!と返しながら、握手する。

 振り払われるかと思っていたけれど、予想外にしっかりと握り返されたのが嬉しくて笑うと、また遥が真っ赤になる。


「……あら、これは」

「ねえ……」

 何か含み笑う互いの両親の声など聞いてなかった私は、微笑ましそうに私たち二人の姿を見つめる大人達が、初々しいわ~などと思っているなんて気付いてなかった。



【本編 遥】


 表情に起伏は少ないものの、しっかり喜怒哀楽はある。素直にはなれないものの、引越し先にいた美樹の柔らかな笑顔に一目惚れ


【ゲーム内 遥】


 顔だけで近寄って来られ、その無表情に遠巻きにされ続けている内に人と関わるのを厭うようになる。ゲームの主人公に出会い、その物怖じせず話しかけてくる姿に絆されるが、ただ一人近づいてくれた主人公に執着し、その内自分以外に話しかける事さえ許せなくなり、監禁してしまう

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