【さようならお星さま】
きっと、人魚は私を出す気はないんだろう。
初めて話し相手ができて、初めて親しい人間ができて、初めて失おうとした。
きっと、怖いんだろう。失うことが。
得てしまえば、失うことの怖さを知ってしまう。
そこまで執着してしまうほどの、価値があるような人間ではないのにね。
「星、みたい」
ぼんやりと点々と光る水晶を見ながら、そうつぶやいていた。
存外耳の良い人魚は、それを拾っていたようだ。
「星、好きなの?」
ふわりと寄ってきて、そう首をかしげて聞いてきた。
「好きですよ。でももう、見せてはくれないでしょう?」
わかりきったことを聞くのは、なんとも無駄なことでしょう。
けれど好きだといえば、何かが変わるかもしれないときっとどこかで期待はしていたんだろう。
「だめだよ。だめ。」
人間さんは弱いから、きっとここから出たら死んでしまうから、だめだよ。
そう言って、確かめるようにそっと私の髪を撫でた。
失うのが怖いから、閉じ込めたの。そうか、そう。
臆病で弱いのは、あなたの方でしょう?
もう見れない星空を思い描くように、暗い天井を見上げて目を閉じた。
途方もなくどうしようもない空想に、はっと自嘲した。
「馬っ鹿みたい。」
さようなら、お星さま・・・なんて、ね。
涙すら流さないよう、嗚咽も一緒にのみ込んだ。