【きっとあなたが望んだのです。】
私がいたこの場所には、奥に湧水があった。
海水ではなく淡水だった。
でも食べ物はない。だから、衰弱して死んでいくのも時間の問題だろうなとは思っていた。
まさか三日とたたず、起き上がることもできなくなるとは思わなかった。
意外と脆弱だな、私は。
「どうしたの?」
「・・・なんでもありません。」
なんでもないわけはない。
なんでそう強がってしまったのか、まぁ私の性格上仕方のないことだ。
人魚が海から上がった音が聞こえた。
私のもとまでたどり着いたのか、頬に手を添えられた。
私は仰向けで寝ていた。薄く目を開くと、相変わらず無表情の人魚がいた。
彼は笑うことを知らなかったらしい。まず、表情を作ることを知らなかったらしい。
一人だったらしい。ずっと。
楽しいも苦しいも悲しいも、虚しいも、何も知らなかったらしい。
「・・・消えちゃう?」
「・・・・消えはしません。死ぬだけです。」
「どうして?」
「何も食べていないからです。」
「なにも食べないと、死んじゃうの?」
「・・・そうですよ。」
もう話すのも億劫なんだけど。
少し黙っていてくれないかなこの人魚は。
「人間って脆いんだね。」
「そうですね・・・。」
なんで、ずっと無表情だったくせに今そんな悲しそうな顔するの。