3/10
【いいえ、それは願いです。】
「泡になって、それでおしまい?」
「そうらしいですよ。」
悲恋の童話。
私はとても好きな綺麗なおはなしだけれど、モチーフにされたその人魚は不満なようだ。
「予定調和なハッピーエンドがお好きですか?」
「好きになった人と、お話することもできないまま消えちゃうなんて嫌だな。」
「彼女自身が選んだことです、何を言ったところでしょうのない事です。」
彼女が幸せなら、それでいいんじゃないんですか?
体のいい言葉を並べて、結局はそれで終わりだ。
全ては彼女の自己満足。
王子を自分のために殺せなかった彼女は、彼女の意思で身を投げた。
それだけ。
いいじゃないか。自分勝手で終わってしまう御伽噺。
私はとても好きだよ。
「きみは?」
「え?」
「きみも消えちゃうの?」
突飛な質問だと思った。
けれど突然、なんの前触れもなくここに現れた私だから忽然と消えてしまうのもあるかもしれないとも思った。
「そうかもしれませんね。」
「そうなんだ。」
どこか寂しげな人魚の表情を、私は無視した。