九呪 寝不足と気付いた事
「どうすっかな、これから」
俺は机に突っ伏せながらこれからの予定を考えていた。
あの後、委員長と普通に登校し、朝のHR・一時間目・二時間目を受け終えた(といっても、全部寝ていた)。だが次は能力の授業な為に免除されているので、周りの奴らが次の授業の準備をしている中、一人座っていた。
「……寝るかな」
先程寝たのだが、それでもまだ眠い。もう一、二時間程度寝れば十分だろう。
「お休み」
「そして、おはよう」
寝ようとした所で前から凄く聞き覚えのある声がしたので、顔を上げるとそこには形宮が前の席の椅子に座ってこちらを見ていた。
「形宮か」
「久しいな、夜眞棊よ」
「昨日会ったろうが」
俺が言うと、形宮は軽く笑みを浮かべて笑った。
「昨日は色々大変だったのでな、お前と会うのが久しいと思ってな」
色々ってなんだよ?
「色々あるのだよ、夜眞棊よ」
心を読まれ、先に言われてしまった。
「お前――」
「だから持ってない」
やはり、先に形宮に言われてしまう。
何なんだコイツは?
「れっきとした高校生だ」
これ以上、テレパシー的な事は面倒なので、ここで終わらせておこう。
「で、何か用か?」
「用が無かったら、いけないのか?」
「……」
「冗談だ、夜眞棊よ」
「…………」
「…………」
「……おい」
「冗談というのが、冗談だ」
「殴っていい!?」
俺は形宮を殴りたい衝動に駆られたが、何とか抑えた。
そこで話が途切れたので、俺は今度こそ寝ようと思い、
「じゃ、寝るわ」
一様、釘を刺すつもりで寝る事を形宮に言って寝ようとした。
「お休み」
「所で、夜眞棊よ」
「今、寝るって言ったよな?」
少しいらつきながら、また顔を上げた。
「今度は――」
「気付いているか?」
形宮は先程までのふざけた感じでは無く、真剣な声で俺の言葉を遮り、そう言った。
「何がだよ?」
当然、俺には何の事だか分からない。
「周りを見てみろ」
「周り?」
形宮の言葉通りに俺は周りを見た。
周りには、規則正しく並べられている机と椅子や次の授業の準備をする数多くのクラスメイトの姿。しっかりと消してある黒板や教卓があるだけで特に変わっている所はなかった。
俺は周りを見渡していた顔を目の前の椅子に座っている形宮の方に戻した。
「何処が変わってんだよ?」
「何処も変わってないぞ」
形宮は俺の問い掛けを普通に返した。
「は?」
何言ってんだコイツ?
「お前、また冗談とか言うつもりじゃないよな?」
コイツの場合、十分に有り得る。
しかし、形宮は俺の予想を外れてこう言った。
「冗談ではないし、悪いのはお前だ、夜眞棊よ」
「は!?」
俺は形宮の言葉に耳を疑った。
「何故俺が悪い!?」
俺は真っ当な意見を言った。すると、形宮は
「……やれやれ」
と、言いながら肩を竦めた
「Mr.キープの名が泣くぞ?」
いや、待て。何だそのあだ名!?
俺の思いを無視して、形宮は話を始めた。
「まず初めに言っとくが、俺は『気付いた事』があるかと聞いただけで『変わっている』とは一言も言ってない」
そう言われてみると、確かに形宮は俺に『気付いた事』があるかと言っただけである。
つまり、俺が『気付いた事』を『変わっている事』と勝手に解釈していたという事だった。
なら、形宮の言う『気付いた事』とは何だ?
「もう一度周りを見てみろ」
形宮がそう言い、俺は再度周りを見渡した。
しかし、規則正しく並べられている机と椅子や次の授業の準備をする数多くのクラスメイトの姿。しっかりと消してある黒板や教卓があるだけで、先程の光景と何ら変わっていなかった。
「どうだ?」
「……わかんねぇ」
形宮が聞いてくるが、全く分からなかった。
「夜眞棊よ、次の授業は何だ?」
「何だ? って……能力の授業だろ?」
「何処で授業をする?」
「んなもん、闘戯場だろ?」
何故か形宮は当たり前の事を聞いてきた。
「そうだ。次の授業は能力についての授業で、闘戯場でやる。まあ、当たり前の事だな」
「そりゃあそうだろ?」
「なら何故、クラスメイトは授業の準備をしている?」
「何故って……」
何を形宮は言っているのか、俺には分からなかった。授業が終わったら、次の授業の準備をする。それが当たり前の事だ。筆記用具、教科書、ノート等、授業によって準備するのは違ってくるが大体がそうだろう。
「次の授業の準備をするのは、当たり前だろ?お前もそう言ったよな?」
「ああ、言ったぞ」
「なら――」
「ただし、普通の授業の場合だがな」
「普通の授業?」
どういう意味なのか、やはり俺には分からなかった。形宮は俺がまだ分かってない事が分かったのか、説明してくれた。
「座学の場合は確かに筆記用具やら教科書が必要だと思うが、能力の授業の場合は闘戯場でやるんだから準備する必要が無い」
「……」
形宮の説明を聞いて俺は納得した。能力の授業は闘戯場で行う為、準備する必要が無い。準備する物があるとしても、それは個々の能力に関係する物だが身近な物以外は学校が用意してくれる。
「つまり、準備をするにしても身近な物だから直ぐに終わるのに、こんなに残ってるのはおかしいって事か?」
「そういう事だ」
俺が結論を言うと形宮は薄く笑って答えた。
俺はその事を踏まえた上で、周りを見渡した。やはり教室内には数多くのクラスメイトが残っていた。男女で比べると女子は数名だが、男子は、ほぼ全員が残っていた。
「何で、こんなに残ってるんだ?」
何時もだったら授業が終わり次第、直ぐに教室から出ていくのに、何でこんなに残っているのか分からなかった。
「それは見たいからだと思うぞ。夜眞棊よ」
「何を?」
「転校生」
形宮は、一言で言った。 確かにそれなら納得するにはするが、疑問が残る。
「いや、ちょっと待て。転校生が来たって、俺は知らないぞ?」
そう。俺は転校生が来たなど一言も聞いてないのだ。
すると、形宮がまた肩を竦めながら言う。
「朝から転校生の事で話は、持ち切りだぞ」
朝から持ち切りなら尚更俺が聞いてないとおかしいと思うんだが
「夜眞棊よ。何故、夜眞棊が知らないか知りたくないか?」
「何でだ?」
「夜眞棊よ――」
形宮が一度言葉を区切り言う。
「朝から寝てるからではないのか?」