六十三呪 嫌がらせと反省
「あーいい天気だ」
凄く気を抜いた口調で、そんな事を言いながら自分の席から見える外の風景を眺めていた。夏に近づいていると感じられる気温。雲があまり無いため、否応がなく降り注いでくる太陽。
「夏だなー」
半袖のワイシャツを着ていても暑いものは暑い。まあ、カーテンを閉めれば問題は解決するのだが、それが出来ない。理由はカーテンが何故か無いのだ。確かに休み前には在ったはずなのだが……、
「……俺に対する嫌がらせか?」
「おお、良く分かったな。夜眞棊よ」
前から何時も通りの唐突の声がした。
「…………」
答えは分かりきっているが、俺は無言で前の席を向いた。
「やっぱり、お前か」
と、声の主である形宮を半目で見た。
「ああ。お前の期待を裏切る訳にはいかないからな」
「誰も期待してねぇよ」
やはり相変わらずのブレの無さである。
「まあ、落ち着け。主人公の親友のポジションなんてこんなものだろう?」
「いや、何勝手に人を主人公にしてるんだお前は?」
「夜眞棊よ、周りから見ればお前は充分に主人公のポジションだぞ?」
「……意味が分からん」
俺の何処が主人公のポジションだよ。全く訳が分からない。
「そういう自覚の無さも主人公の特権だ」
いらねぇよ、そんな特権。
これ以上話していたら埒がないので、強引に話しを変える事にした。
「つれないな、夜眞棊よ」
……だから、人の心を読むな。
「読んでなどいない」
完璧に読んでるだろ。そうじゃなかったら、心と言葉のキャッチボールなんて、到底出来ないからな。
「それはそうかもな」
そうかもな、じゃないだろ。てか、読んでるの認めてるだろその発言。
何か延々と続きそうだから、本当に話を変更することにした。
「てか、お前さっき良く分かったなとか、言ってたけど……」
「ああ。カーテンが無いのは夜眞棊に対する嫌がらせだからだ」
「は?」
あまりの予想外の発言に思わずそんな声が出てしまうが、形宮は無視して手帳を取り出した。そして開くと同時に話し出した。
「本日の朝、この教室で不審な行動をしている生徒を捕まえた」
え、マジで? そんな奴いたの?
「事情聴取によると、その生徒は夜眞棊に嫌がらせをするためにカーテンを取っていたと自供した」
「…………」
俺はその生徒について考え込んでしまった。嫌がらせをするってことは、俺に対して何か恨みや不満があるはずだ。しかし、俺はそんなことに気づかずにその生徒を傷つけていたのかもしれない。
「そして、何故そんな事をしたのかと尋ねた。すると、その生徒はこう話した」
いや、多分悪いのは俺だろう。俺が被害者のような立場であるが、そいつも十分に被害者だろう。
俺はそれを受け止めて、そいつに謝らないといけない。
「――昨日、夜眞棊が美少女を二人従えてたのを見て、非常にムカついた……との事だ」
「…………え?」
俺はまたしてもそんな声を出してしまった。覚悟して聞いた理由がそんな理由だったとは思わなかったからだ。
「唯でさえ、日頃から学年の可愛い女子は勿論、先輩や中学生からも人気だし、あいつは本当に何なの? 同じ人間? ただの運? 少しぐらい美少女寄越せ!!! …………と、急に叫びだしたので『薬』の疑いも浮上してきた」
「……」
「更に、持ち物検査をしたところ窺わしいものも発見されたため、余罪も追及している」
前言撤回。そいつに謝る価値がなくなった。
「だが、カーテンは既に処分された後でな……どうすることも出来なかったというわけだ」
形宮は話を締めるかのように手帳を閉じた。
なんやかんやふざけていても、形宮は俺の心配を何時もしてくれる。俺の左腕の事もそうだし、聖先輩が捕まった時もそうだった(聖先輩が捕まった時は、盗聴していたため事態が深刻だと分かったみたいであったが)。そのことについては、ものすごく感謝している。形宮が教えてくれなかったら俺は聖先輩を助けることは出来なかった。
それでも、俺は形宮に自分の能力の事を隠している。知られてしまったら今の関係が壊れそうな気がするのだ。形宮なら、「そんなものは当の昔に知っていた」、とか言って誤魔化しそうではある。だが、他の奴はなんて言うのだろうか。悪口、無視、それとも昔のように苛められるのだろうか。
「…………」
そう考えてしまうと言おうにも言えなくなってきてしまう。本当にどうしたものか。
「しかし、気にするな夜眞棊」
何やら、形宮が軽く笑った。
「今さっき、特注のカーテンを業者に注文した。明日には届く予定だ」
「準備早いな、お前」
「それほどでもないがな」
形宮はそう言うと、立ち上がった。
「何時もの仕事か?」
「ああ。――悪いが今日の部活は休みだ」
「おう、了解」
俺がそう言うと、形宮は教室を出ていって俺一人だけになった。




