六呪 謎の声
(今日も終わったな)
俺は、街中の商店街を歩きながらそんな事を思っていた。あの後、普通に昼休みと午後の授業を受けて学校は終わった。一様、古賀村高校は校則で、何かしらの部活動に入らなければならない。それは、得失者である俺も例外ではない。
なら何故、商店街を歩いているのか。
それは単純に今日は俺が所属している部活が休みだからである。
「基本的に休みが多い部活動もどうかしてるよな……」
それだから部活がある日はかなり大変なのだが、今は特に思い出さなくてもいいので部活の事はここで止める。
「……」
それよりも食堂での形宮との会話を思い出して、指先から肘まで包帯で巻かれた左腕を見る。
「何時でも治してやる」
その言葉が心に重く圧し掛かってくる。形宮は何時も俺の左腕を治してやると言ってきている。
俺が左腕に包帯を巻いている訳は、俺が幼い頃に左腕に熱湯が大量にかかって火傷してしまい、その影響で見ると無残になってしまっているからである。
と、俺は知り合い等に説明している。
そう−−嘘の説明をしている。
本当は、左腕に火傷どころか熱湯すらかかってなければ能力すら失っていない。
なら何故、得失者と偽っているのか。 それは自分の能力に恐れているからだ。他人とは違う系統の能力を。
他人からしたら臆病と言われるかもしれないがそれでも構わない。人からなんと言われようとも俺は能力を使わないで生きていくことを決めたのだから。
暫く商店街を歩いていくと帰宅途中の学生やサラリーマン・買い物の主婦などが、先程よりも人が多くなってきた。案の定、人が多くなってくると思うように進めなくなってくるが別に構わない。
「変わらない……からな」
変わらない、何時通りの光景。そんな光景が俺は好きだ。
多分、誰も理解はしてくれないと思う。変わらないから安心出来る。変わらないから信頼出来る。変わらないから好きでいられる。
そんな事を思いながら、歩いていた。
しかし、次の瞬間。すれ違い様に誰かが言った。
「ねぇ……貴方はどうして能力を使わないの?」
「っ!?」
俺は思わず立ち止まってしまった。そして暫く、その言葉を理解出来なかった。唐突だったからと言えばそうかもしれない。しかし、そんな事はどうでも良かった。
変わった
変わってしまった
今の言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが変わった。
暫く茫然としていたが我に返って後ろを向いた。だが、そこには何時も通りの変わらない光景があった。
変わらない光景が目の前にあった。
そう、俺の好きな光景が目の前に広がっていた。
次の瞬間、俺は走っていた。怖くなったのだ、目の前にある何時と変わらない光景が。
途中色んな人とぶつかったが、一目散に走っていった。
今だけ、変わらない光景が何より一番怖かった。
「はぁ――、はぁ――」
気が付いたら俺は自分の家の玄関に座り込んでいた。走って家に帰った事は分かる。しかし、自分がどのような道順で家に帰ったか記憶になかった。それほど、頭の中が混乱していた、――否、恐怖に支配されていた。今でも怖いが先程よりは幾分かマシだった。
「……何なんだよ……さっきの言葉」
女性の声だった。少なくとも俺の知り合いの声ではないのは分かる。
「…………誰なんだよ」
俺の呟きに答えてくれるものは何も無かった。