五呪 自由な時間の過ごし方
「さてと」
俺は自分の席から立ち上がってそのまま教室を出た。
今の時間は能力についての授業なので得失者の俺以外は皆、闘戯場という施設で授業を受けている。
別に闘戯場じゃないと能力を使ってはいけないとかそんなルールは無く、ただ単に一箇所に集めておけばもしもの場合に迅速に対応出来るから……らしい。
実際の所はあまり良く知らない。学校を入学して一ヶ月ちょっとだが、能力関連の授業は一度も出たことないし、出なくてもいいと言われている。
普通なら能力を失った俺に対する学校側からの優しい配慮なのかもしれないが本当の所は違う。前も言った通り、世の中は能力至上主義なのである。有能な能力ほど上に位置し無能な能力ほど下に位置する世の中に、国語だ数学だなんてあまり意味が無い訳で。意味があるのは能力だけなのだ。それなら学校側も国語・数学などの教養より能力を鍛える方がいいだろう。そうすれば社会で活躍する能力者をより多く輩出出来るので学校の評判も上がる。学校にとっては、より多くの能力者を出すことしか頭に無い。なので学校側からしたら能力を使えない俺は必要無い邪魔な存在にしか認識されてない。
その邪魔な存在が他の皆に悪影響を与える可能性があると学校側は考えているのである。
「俺が分かってないと思ってんのか?」
そんな考えなんぞ昔から受けてきたので普通に分かるのだが、学校側は俺が分かってないと思っているらしい。
別にこれはこれで俺は気に入っている。
何故なら、能力の授業は毎日短くて一時間、長くて三時間の授業であるため、出なくていい=授業をサボれるのである。だから、この時間を使って色々な事をしているのである。
だけど、今日は能力の授業は一時間だけなので自由でも、あまりやることはない。
「次は昼休みだからなー」
今の能力の授業が終わればちょうど昼休みに入るので、そう考えると行く場所
は一つしかない。
そう思って俺はいつも決まりきった場所――食堂に向かうべく、小走りで走っていった。
そして、すぐに目的の場所である食堂に着いた。別に小走りしなくてもいいのだが、次が昼休みというのが分かっているので自然と足が軽くなる。
食堂は、一階に位置しており、なかなかの広さを誇っている。机や椅子も結構な数が存在し、良い質の物でもあるため食堂は昼休みになるとかなりの人で溢れかえるが、今は午前最後の授業中なので人は俺を除いて居ない。
「あいつは何時も居るからな」
なんて事は無く、実は一人食堂にいる。
その一人が居る場所は分かるが、その前に食堂で何か買ってから行った方が時間を節約できる。なので、俺は受付に行って注文しに行った。受付に行くと、メニューが書いてある紙を見つけた。
「今日は……」
今日は何を頼むかで悩む。個々の食堂はメニューが豊富であり、味もしっかりしているので、結構悩む。昼休みなら、他の奴からブーイングは免れないだろうが他の奴が居ないのでじっくりと悩むことが出来る。俺はじっくりと考えた後、先にお金を払って、チャーシューラーメンを注文した。五分待つと注文したチャーシューラーメンが出てきた。それを持ち、俺は食堂の奥に行った。
食堂の奥に行くと、予想通りにそいつは居た。
他より質が良いであろうと思われる椅子と机を使っており、机の上にはマグカップが置いてある。椅子を横向きにしながら足を組み、読書をしていた。
長身で整った顔立ちのおかげで、見事に読書しているのが様になっている。
それは、女子が見たら一目ぼれし男子が見たら嫉妬は免れないだろう。
そいつは暫く読んでいたが、俺の存在に気づいた。
「夜眞棊か」
「よう、形宮」
形宮礼司それが、こいつの名前だ。頭脳明晰、運動神経抜群、そして申し分ないルックスと最早こいつ人間か?と思わず突っ込みたくなるほどの性格の悪さを持っている。
「俺はれっきとした人間だ、夜眞棊」
そして、何故か人の心を読んでくるという本当に何なんだこいつは?
「人間と言っているだろ?」
何処に人の心を勝手に読む人間がいる?
「ここに居る」
もう、ここまでくるとこいつは人の心を読む能力なんじゃないかと思ってしまうが
「そんな能力は持っていない」
俺が思っていることを読んでいるのに全く違うらしい。本人曰く、無能力者ということらしい。だったら俺の心を読んでるのは、何なんだ?
「お前の顔を見れば大抵は分かる」
それこそ能力だろと思うが、これ以上テレパシー的なことは面倒だから止めることにした。
「つれないな、夜眞棊よ」
「別にいいだろ」
「確かにな」
そしてお互い、暫く話をするのを止める。俺はラーメンを早く食べなければ麺が伸びてしまうから、形宮は読書していた本が丁度クライマックスであるため続きが気になる為であった。
「ふう。旨かった」
スープも全部飲んで一息を付いた。
「夜眞棊よ。お前は全部飲む派なのか?」
同じタイミングで読書が終わったらしい形宮がそう聞いてきた。
「普通に全部飲む派だけど」
「そうか、ちなみに俺は残す派だ」
「そうなのか」
と、形宮とどうでもいい話をした。
そこで、俺は周りの光景を見た。何度見ても、良い景色だと言えるほど景色が良い。食堂は基本ガラス張りな為、何処からでも外の景色を見ることが出来る。しかし、俺達が居るこの場所――食堂の奥は、その中でも特に良い景色が見れる。
「本当に良い場所だよな……此処は」
「ま、俺と夜眞棊で誰でも使えるようにしたからな」
「そうだな」
今の形宮の発言通り、俺と形宮はこの場所を誰でも使えるようにしたのだ。
というのも、何でこの場所だけが他に比べて景色も良く、質の良い机や椅子なのは理由がある。
本来この場所は、生徒の中でも極一部の生徒しか使えなかった。その一部の生徒とは、この学校の中でも上位中の上位だけしか在籍する事が出来ない組織‐‐生徒会である。さらに、その生徒会の中でも、生徒会長・副会長・書記・会計・庶務の役職に就いている者、つまり五人しか使えないという場所であった。
もし、この場所を生徒会の役職に就いていない生徒が使うとこの学校で生活出来なくなるぐらいの恐ろしい事が起きるらしい。過去には反発した生徒が生徒会に抗議をしたらしいが、反発した生徒全員が重傷を負うなどの怪我をしてその後、不登校になったらしい。
この学校の上位中の上位であり、生徒会長・副会長・書記・会計・庶務の役職という事は、即ちこの学校で最強の実力を持った人物で構成されているのである。
このこともあり、誰も生徒会がこの場所を使うことに反論しなくなり、この場所は生徒会専用ということになっていたのである。
生徒会にとってはこの場所は自分達の威厳や体裁を魅せ付けるのに相応しい場所であるため、生徒の問題などを抑制する働きがあるらしい。
そんな、最強の五人が自分達専用としている場所を俺達がどうやって誰でも使えるようにしたのかは、実に簡単なことだ。
「俺と夜眞棊にかかれば雑魚に過ぎないからな」
そう、生徒会をボコボコにしただけである。正確に言えば、書記・会計・庶務の三人を皆が見ている前で倒しただけである。
方法は、いたってシンプルであり、形宮の交渉術で生徒会を挑発出来るだけ挑発して、俺が殴る。それだけだ。それだけで、この場所を生徒会から手を引かせたのだ。生徒会からしたら面子まる潰れな訳であるから、当然と言えば当然である。
そんな事があり、この場所は現在誰でも自由に使う事が出来る様になったのである。
「俺は巻き込まれただけなんだけどな」
「気にするな、夜眞棊よ」
「気にするわ!!」
「まぁ、落ち着け。それよりも……いいのか?」
形宮の声が急に真剣になる。
「何度も言わせるなよ……大丈夫だって」
だが、何時もの事なので何時も通りに言うが、形宮はあまり納得してくれない。
「別に遠慮しなくていいぞ、直ぐに治せるからな……その左腕」
俺の指から肘辺りまで包帯に巻かれた左腕を見て形宮はそう言う。
「心配すんなって」
俺はそう言って立ち上がった。これ以上居たら形宮に心配をかけすぎてしまう。そう思って俺はラーメンの器を持って席を離れようとした。
「何時でもいいから、治したい時は俺に言うがいい……夜眞棊よ」
「……ああ」
軽く返事をして俺は席を離れた。
悪友であり親友と呼べる形宮を騙している事に耐えられなく、俺は席を離れた。