二十七呪 理不尽な世の中
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
高校生だから、多少は体力があるものの、全力で走れば息が切れる。
安全な場所に避難して。
聖先輩がそう言って、俺が真っ先に向かった場所は公園だった。滑り台や砂場、ジャングルジム、ブランコなど、何処の公園にでも存在する物しかない公園だ。
何故、真っ先に公園に向かったのだろうか。
安全な場所と言えば、公園以上に安全な場所なんて数多くある。
それなのに何故、俺は公園に来たのだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
公園なんて俺にとっては、つらい場所でしかないのに。
「・・・・・・」
俺は、自分の左手を見た。
包帯に巻かれた左手。自分が分からなくなった全ての原因。
「・・・・・・そういう事か」
俺は何故、自分が公園に来たのか分かった。
左手が俺の全てが分からなくなった原因なら、公園は俺の全てが分からなくなった場所だからだ。
つまり、俺という存在が最後に分かった場所だからだ。
唯一、自分自身が最後に分かり、そして――終わった。
「ここで、俺は――」
「死ぬんだよ」
俺が言おうとしている最中に声が聞こえたと思うと次の瞬間には、吹っ飛ばされていた。
突然の事に、受身すら取れず地面を何回もバウンドしていき、ジャングルジムに当たり、ようやく止まった。
「痛って・・・・・・」
突然吹っ飛ばされて、受身も取れなかったが幸いというべきか俺の身体は異常なため、なんとか立ち上がることが出来た。立ち上がり、俺が居た場所を見ると一人の男がいた。
男は、多少しっかりとした体格に高級なスーツを着た、いかにもエリートと言った風貌の男だった。
「おっかしいな? 何時もなら確実に殺せるのに」
男は、手首を回しながら俺を見て、そう言った。
「まあいいか・・・・・・次で終わらせれば」
男は今度は首を回しながら俺の方に近寄ってくる。
何時もなら、直ぐにでも逃げ出すのだが今回は違った。
この男に見覚えがあったからだ。
『LO』の取引現場に居た高級なスーツを着た一人だ。
「お前・・・・・・」
「へぇ・・・・・・やっぱり見覚えあるんだ、僕のこと?」
男が、やはりそうか、という感じの表情になる。
「そうだね・・・・・・一様、名乗っておくよ」
男は、そう言うと立ち止まった。
「僕は、君を殺しに来たんだよ・・・・・・夜眞棊郁斗君」
「何で、俺の名前を!?」
見覚えがあると言っても、俺が曲がり角から見ただけであり、相手からは見られていないはずだ。ハンマー野郎には見られたが、聖先輩の話では捕まったため、俺が見たという事を知っているのは聖先輩だけだ。
それなのに、何でこの男は俺の事を知っているのか。
俺がそう考えていると男はそれに答えるかのように言ってきた。
「簡単だよ。君が倒した男がサングラス付けてただろ? あのサングラスは監視カメラのサングラス版だよ」
「監視カメラ?」
「そう。サングラスで見たものを通じて、サーバーでリアルタイムで見る事が出来るんだよ」
「・・・・・・」
「いやーでも大変だったんだよ? 君の姿は分かるのに情報が何故か出てこないんだもの。焦ったよ、本当に」
「・・・・・・」
「話しはここまでにしようか」
男はそう言うと、腰を少し屈めた。
「何であれ、君を殺せばそれでいいからさ。じっとしててくれよ」
「・・・・・・待てよ」
俺は男に話しかけた。すると、男は屈めていた腰を上げた。
「なんだい?」
「どうして俺が殺されなきゃいけないんだ?」
「・・・・・・君が取引現場を見たからだよ」
男が淡々にそう言った。
「そんだけかよ・・・・・・」
訳が分からなかった。
取引現場を見ただけで、殺される。たったそれだけだ。それだけで殺されるって何だよ。受け入れられる訳がない。
「受け入れられないかい?」
「当たり前だろ!!」
俺は目の前の男を睨んだ。
「見ただけなのに殺されてたまるか!!」
「まあ、それもそうだ」
「・・・・・・は?」
男は俺の訴えに何故か、同情した。
「君が自分勝手な人間だというのは、この際、目を瞑ろう。そう考えると世の中は、理不尽だよ」
「・・・・・・」
「平等じゃない、理不尽だよ本当に」
「・・・・・・」
「だけど、僕達は理不尽な世の中を生きているんだよ? 受け入れて生きているんだよ? それが人ではないのかい? 夜眞棊郁斗君」
「・・・・・・」
「受け入れられないのなら、受け入れさせてあげるよ」
男は再び、腰を屈めた。
「死ぬことを・・・・・・もう一度ね。・・・・・・夜眞棊郁斗君」




