十五呪 郁斗VSハンマー野郎
はっきりと言うが俺は戦いの基本というのは詳しく知らない。格闘技とかやっていれば急所とか分かると思うが、俺は唯の高校生だ。依頼内容によっては喧嘩する時もあるにはあるが、基本それだけしか経験したことはない。ましてや、俺は得失者なので、何時も分が悪い。
今だって、目の前のハンマー野郎は能力者なはずだ。それに先程の広場の光景がテレビドラマのようなら、多少の武術の心得も持っているに違いない。
「・・・・・・」
だが、ハンマーを使っている以上は武術を使ってくることは少ないだろう。武器があるならそれを使うに越したことは無いはずだ。
「・・・・・・」
俺はそこら辺に落ちている石を拾い、ハンマー野郎の頭に目掛けて投げた。
しかし、ハンマー野郎は軽く頭を傾けただけで石を避けた。と、同時に両手でハンマーの柄を持ち俺に向かってきた。
俺はハンマー野郎が近づいてくるが特に動いたりせずにその場でじっとしていた。
当然、ハンマー野郎は俺に近づき、片足を前に出して勢いを付けてハンマーを後ろに振りかぶった。
ハンマーは振り下ろしや振り回すなど攻撃方法は単純だが、強力な武器である。中世のヨーロッパではウォーハンマーという武器が使われていた時があり、重武装な相手にも有効的とされた一撃の威力が高い武器である。そんな武器を生身で受ければどうなるか分かったものではない。
しかし、威力の高い一撃を出すには重心や遠心力が必要になってくる。それに、場所も多少だが関係してくる。広い場所なら振り回してくるかもしれないがここは狭い一本道であるため振り回すのは無理である。なので、こんな狭い一本道で威力の高い一撃を出す方法は振り下ろす事に限られる。
だが、振り下ろすのは攻撃範囲が狭い。更にハンマーを相手に当てるのは一番先端――攻撃が届くぎりぎりの範囲となるため、後ろに下がれば攻撃は当たらない。
そして、振り下ろした後は少しの間ハンマー野郎は無防備となる。
「今だ!!」
俺はその隙を突くべく後ろに下がる。
「ふん!!」
そして、ハンマー野郎は予想通り振り下ろす。
しかし、次の瞬間、
「ごっ・・・・・・ぐばっ!?」
後ろに下がったはずの俺の腹にはハンマーがめり込んでいた。俺はそのまま後ろに大きく吹き飛び、二回、三回と地面をバウンドして止まった。
「お・・・・・・っ、ごはっ、げほっ!?」
俺は暫く呼吸が出来なかったが、急に呼吸が出来るようになり咳き込む。
「な、何が・・・・・・」
俺は何が起きたか分からなかった。
俺は後ろに下がってハンマーの振り下ろしを避けようとした。それは確かだ。 しかし、実際には俺の腹にハンマーがめり込んでいた。
(何、故だ!?)
俺は必死に身体を起こそうとしたが腹のダメージが凄く、上手く身体を動かせない。
「・・・・・・子供が」
と、上から声がしたので俺は顔を上げるとそこにはハンマー野郎がいた。
しかし、
(・・・・・・!?)
俺はそこである事に気づいた。
持ってないのだ。
ハンマー野郎が持っていた、肝心のハンマーが無い。
俺がその事に気づくと同時に視界の隅にある物が目に入った。
そう――ハンマーである。
ハンマー野郎の近くの地面にあった。
そこで俺は何で腹にハンマーがめり込んでのか理解した。
投げ飛ばしたのだ。
ハンマー野郎は確かに振り下ろした。しかし、そのまま地面に振り下ろさずに手を放したのだ。だけど、何故投げ飛ばしたのか。それが俺には分からなかった。
「・・・・・・ふっ」
ハンマー野郎は俺を見て鼻で笑うと、俺から目を外して落ちているハンマーに手を翳した。
すると、ハンマーが引き寄せられるようにハンマー野郎の手に戻った。
能力。
それしか考えられなかった。
そして、何故ハンマーを投げ飛ばしたのか分かった。
ハンマー野郎は元々投げ飛ばすつもりだったのである。投げ飛ばして俺を安心させ、格闘戦に持ち込み、途中で能力で引き寄せて不意打ちをするつもりだったのだ。
「く、・・・・・・っ」
別にそんなのが分かった所でどうでもいい。動かなければ間違いなく殺される。
俺は立とうとして、腕に力を入れる。
だが、
「があっっ!!」
今度は右肩にハンマーが振り下ろされた。
「まあ、待てよ」
ハンマー野郎が初めてまともに口を開く。
「こんな経験二度とないぞ? 味わって逝かないと損だぜ!!」
ハンマー野郎は左肩に振り下ろす。
「うっ!!」
「そらっ、そらっ、そらっ、そらっ、そらあっ!!」
ハンマー野郎は楽しむかのように俺の頭以外を狙い、叩きまくっていく。
「どうしたっっ!!もう終わりかっっっっ!!!」
「・・・・・・」
俺は全身が叩かれすぎて、感覚が無かった。
「しかたねぇ・・・・・・モグラ叩きも厭きた」
ハンマー野郎は落胆するように言うと、ハンマーを思い切り後ろに振りかぶった。
そして、ハンマー野郎が俺の頭に振り下ろそうとした。
「終わりだ!!」
「ニャヤヤヤァァァ!!」
エリザベスがハンマー野郎に飛び掛った。
「くそっ、何だこの猫!?」
「ニャア!! ニャア!!」
ハンマー野郎はエリザベスを引きはがそうとするが離れない。
「いい加減に、しろ!!」
「ニャ!?」
ハンマー野郎はエリザベスを無理矢理引きはがし、地面にたたき付ける。
「エリ・・・・・・ザベス」
俺はエリザベスを呼ぶとエリザベスは立ち上がり、
「ニャアアアア!!」
と、叫びながら一目散に逃げて行った。
それを見た、ハンマー野郎は笑った。
「最高だよ、お前!! 猫に見捨てられてるなんてよ!!」
「・・・・・・」
確かに、あのデブ猫に見捨てられた。だけど、あのデブ猫はそれなりに時間を稼いでくれた。
俺はもう一度立とうと、必死に腕に力を入れた。
「おいおい・・・・・・まだ立てるの?」
ハンマー野郎は呆れた様に言うが、それでも必死に俺は何とか立ち上がる。
「これで最後だ」
ハンマー野郎はそう言って、ハンマーを後ろに大きく振りかぶった。
「しねぇぇぇぇ!!」
俺の頭目掛けて、思い切り振り下ろしてきた。
それを俺は、
左手で掴んで受け止めた。
「何!?」
驚くのも無理は無いだろう。ハンマー野郎は確実に俺の左肩にハンマーを振り下ろした。普通なら左手で受け止める所か、持ち上げる事さえ無理だろう。
「何だてめぇ・・・」
ハンマー野郎が俺を睨む。
「回復する能力か?」
「・・・・・・」
ハンマー野郎が聞いてくるが俺は答えなかった。
答えなかった代わりに俺は左手に力を込めて、ハンマーを壊した。
ハンマーはごなごなになりながら地面に落ちていく。
「・・・・・・は?」
ハンマー野郎が意味が分からないと言った顔をしているが、俺は間髪入れずに右足を前に一歩だけ踏み出して地面に叩き込む様に左で殴った。
「・・・・・・」
ハンマー野郎を見ると、地面に埋め込むように殴ったため、思い切り頭を地面にぶつけて気絶していた。
「はぁ・・・・・・はぁ」
俺は何度も地面に倒れそうになるが、壁に身体を預ける様に歩きだし、裏通りを出た。
自分の家に入った瞬間、俺は崩れるように倒れた。
「・・・・・・」
身体が全く動かないが思えば当然かもしれない。あれだけ、ハンマーで叩き込まれたのだ。流石に自分の身体が異常でも当然と言えば当然である。
「・・・・・・」
俺が倒れても、家の中は静かである。『誰も』出て来ない。
「・・・・・・当然だよな」
『誰も』出て来ない。それは俺にとって当然の事である。
何故なら、家族は。
「・・・・・・」
と、家族の事を考えた瞬間。
俺の意識は闇に沈んだ。
ハンマー野郎の能力について
能力名
《ラスト・マグネット》
最後に触れた金属を引き寄せる事が出来る。
詳しい事はまた後日という事でお願いします。