十三呪 裏通りと猫
何故裏通りというのは決まって薄暗く、治安が悪いのだろうか。
漫画の場合だと、裏通りには酔っ払ったおっさんや、大変素行が悪い若者がいるのだが、それは現実にも言えることだと俺は思う。
酔っ払ったおっさんはいないが、素行が悪い若者――不良は結構いる。
漫画だと、不良は落ちこぼれとかそんなイメージだろう。
それは現実に当てはまるかと言われれば、当てはまらないだろう。中には、当てはまる者もいると思うがそれも極僅かである。
世の中は能力至上主義である。能力が有能であるほどに、上に位置し、無能な程、下に位置する。そこには性格・成績・容姿など関係ない。つまり、能力が有能であれば、社会の地位は約束されたも同然である。
纏めると――不良というのは有能な能力を持った、何もしなくてもエスカレーターの様に自動で上に行くような奴らである。
もし、逆らったら唯では済まないだろう。何度も言うが、不良は有能な能力を持った連中である。下手をすれば最悪、命を落とす可能性さえある。
そんな連中がいる所には、あまり行きたくない。
しかし、俺は今そんな連中がいる裏通りにいる。
何故、行きたくも無い裏通りにいるのかは――依頼である。
昼休み、形宮に貰った封筒を開けると、中には写真と依頼者が書いたであろう手紙が入っていた。
そして、その手紙にはこう書かれていた。
『ウチのエリザベスちゃんが裏通りに入っちゃったでザマス』
と、だけ書かれていた。
この手紙は何が言いたいのか。
俺が訳すとこうなる。
猫が裏通りに入っちゃったんだけど怖いし、怪我したくないからちょっと行って、保護してきて。
様は、最悪死ぬかもしれない場所で猫を探して来いということだ。
一緒に入っていた写真には、迷い猫――エリザベスちゃんの写真だった。 白い体毛に他の猫よりも明らかに大きい。(太っているだけなのだが)
一様分かりやすい特徴なので大量に猫がいても見分けが付く。(太っているので)
そのため学校が終わった後、俺は写真を片手に持ち、裏通りでエリザベスを捜している。
しかし、肝心のエリザベスを捜してかれこれ三十分は経っているのだが一向に見当たらない。それどころか、猫一匹すら見ていない。
「おかしいなぁ」
何時もなら――といっても裏通りの入口からなのだが、――大量に猫がいるのを見かけるのだが、何故か今日はいなかった。
猫は自分のテリトリーを決めると、自分のテリトリー内から出る事が少ない。もし、出たとしても大量の猫が一斉にいないのはおかしい。
「なんか、不気味だな……」
俺はそう思い、口にした。
裏通りは言ってしまえば棄てられ、放置された場所でもある。そこら辺に、空き缶、ビンは勿論、不法投棄された電化製品やゴミ、廃棄された建物の一部が道を塞いでいる。
歩きづらいが、別に片付けようとも思わないし通ろうとも思わない。しかし、裏通りに来た理由は猫捜しである。人間が通れない所でも猫は普通に入って行ってしまうため、そういう細かい場所も捜さないといけない。
俺は、物を退かしたり覗き込んだりしているが猫はいない。
「全く、何処に居るんだよ?」
いい加減見つからないので、捜す気が失せるのだが依頼な以上は猫を捜すしかない。
「マタタビとか何か持って来るべきだったか?」
何か猫をおびき寄せる物が在れば、こんな苦労はしなかったんじゃないかと今更ながら思ってしまうが、だからといって用意しに戻るのも面倒であるし戻ってくるまで時間が掛かってしまう。紙には何時までに捜して欲しいとは、書いていなかったが、不法地帯である裏通りを明日も行きたいか、と言われれば絶対に行きたくないので出来ることなら今日中に捜したい。
そう思った俺はこのまま地道に捜す事にした。
その後、地道に捜すこと更に三十分。
俺は、まだ裏通りで猫を捜していた。
周りを見ると夕暮れに近づいているのか、唯でさえ薄暗かった裏通りが更に暗くなっていた。
「出直すしかないか……」
俺は猫を捜すのを諦めて帰ることにした。
暗くなったからと言って捜し続ける事は可能だ。しかし、此処は裏通りであり、有能な能力を持った不良が数多く溜まり場としている場所だ。もし、喧嘩になった場合は人数・能力・地理、何をとっても明らかにこちらが不利である。
まあ、相手が一人で能力も分かるなら対処出来ないことは無いが、あまり得策ではない。
俺は自分が来た道を後戻りしながら歩いていった。来た道を後戻りする簡単な行為にしても、細心の注意を払う必要がある。歩く速さは遅くなってしまうが、安全と引き換えなら安いものである。
ゆっくり、ゆっくりと角を曲がるとしても、先に様子を確認するなどして歩いて行った。
「ニャー」
細心の注意を払いながら進んで、半分ぐらいまで来た時、突然、猫の鳴き声が聞こえた。そこで一度立ち止まり耳を澄ましてみたが猫の鳴き声は聞こえてこなかった。
「……気のせいか?」
空耳だったと思い帰ろうとした所で、
「ニャー」
猫の鳴き声がまた聞こえた。俺は、近くに猫が居ることを確信した。
この鳴き声の猫が捜している猫なのかまでは分からないので、行ってみるしかない。
俺は鳴き声を頼りに猫のいる場所を目指した。
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