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偽りの得失と喰らう銃弾  作者: 勧められた男
一章 終わる偽りの日
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十二呪 転校生

 あの後、委員長はすっかり気落ちして、闘戯場に戻っていき、その委員長を気落ちさせた形宮は高笑いしながら何処かに言ってしまった。

 時間は過ぎて今は丁度、四時間目の授業が始まった頃だった。


「はあ……」


 俺は溜息をつくが、先程の様に形宮も委員長も居ない為、問いかけてくれる者はおらず、教室内は本当に俺だけであった。


「……これが普通なのかもな」


 昔、といっても十年前――《WOC》が起きてから、いや、能力を初めて使った時からなのかもしれない。自分は何もかも失っていったと。

 それでも、得るものもあった。

 しかし、その得るものは何かを失わなければ得ることが出来なかったものばかりであった。

 そして、また得るたびに失い、失うたびに得る。

 そんな繰り返しのループだった。

 だが、この繰り返しのループの始まりは――失う事である。

 最初に失ったから得ることが出来た――出来てしまった。

 だったら、失って、失って、失って、失ったその先には何があるのだろう。

 失った分だけ何かを得る?

 そんな都合の良い話ではないのだ。


 資源は使えば無くなる様に。

 容器に入った液体がこぼれていく様に。

 時間が進んでいく様に。


 失ったら取り戻すことなど出来ないのだ。見方を変えれば取り戻したり、補う事ができるのかもしれない。

 しかし、それは元々のものだったと言えるのであろうか?

 それどころか、取り戻したり、補ったりすることが出来なかったら?

 そんな都合の良い話ではないのだ。


 失ったものは失ったままであり、取り戻すことなど出来はしない。

 なら、失うものが無くなったら?

 失って、失って、失って、失うものが無くなったらどうなるのだろうか?

 そこで失わなくなる?

 そこで止まる?

 そんな都合の良い話ではないのだ。


 もし、そんな都合の良い話なら俺は能力を普通に使っていただろう。

 そして今頃、何もかも失っていただろう。

 だから、俺は得失者であろうとしている。

 

 何の解決にもならない事を知りながら。

 

「はあ……」


 俺は、また溜息をついた。溜息をつくと幸せが逃げるというが、そしたら俺はかなり不幸な存在なんじゃなかろうか?


「はあ……」


「……おやおや、こんな所に同類を発見」


 俺がまた溜息をつくと、横からそんな声が聞こえた。教室内には、俺だけしかいないはずなのに。

 俺は一様、確認の為に声がした方を向いて見た。

 すると、俺の隣に少女が立っていた。


「うん。類は友を呼ぶ、と言うけど本当らしい」


 と、独り言を言っていた。

 

「……」


 俺は何も言えなかった。別に、発言が訳分からないとかじゃない。

 見とれていたのだ。


 顔は小さく、目は碧眼。肌は白く、身長は多分、百五十五センチぐらいであり、制服の上からでも分かるように身体は細い。

 そして、髪は日本人には有り得ない白銀であり、肩に少し掛かるぐらいであった。


 儚く、そして朧げ。


 そんな印象が伝わってくる。

 そんな人物――美少女が俺の隣に立っている。

 俺が暫く、立っている美少女を見ていると、その美少女が口を開く。


「隣……座っていい?」


「え……あ、ど、どうぞ」


 俺が手で勧めるような事をすると、その美少女は俺の隣の席に座った。


「同類……いや、類友か。溜息なんて付いて、悩みでもあるのかい?」


 美少女は、俺の顔を覗き込む様に顔を近付けてきた。

 そのおかげなのかは分からないが、美少女が更に美少女と認識した。

 碧眼の目は透き通っており睫毛も長く、鼻もすっとしている。唇は濃くはなく、少し薄いが肌が白い為、かえって強調されている。

 俺は自分の顔が熱くなってくるのを感じた。今頃、目の前にいる美少女の白い肌とは違い、俺の顔は真っ赤になっているだろう。


「類友よ。顔が赤いよ?」


「き、気にしないで下さい!」


 やはり、真っ赤であったと感じたと同時に、それを指摘され恥ずかしく思い、更に顔が熱くなった。


「類友よ、熱でもあるのではないか?」


 俺の顔が更に赤くなったのだろうか? そんな心配をしてくれた。


「熱じゃないです! 断じて、熱じゃないです! 生まれてこの方、一回も熱が出た事無いですから!」


 俺は早口で巻くしあげて、訳分からない事まで言っていた。


「熱の時ほど、思いっ切り否定する物だよ」 


 しかし、目の前の美少女は俺の言った事を信じるつもりはないらしい。

 すると、突然立ち上がり俺の方に近付いてきた。


「暫く、じっとして」


 と、言い、その美少女は両手で俺の顔を包み込んだ。そして、静かに顔を俺の顔に近付け、額が重なった。

 熱を測っている。たったそれだけの行為を理解するのに時間が掛かった。

 額が当たっていたのは、十秒や二十秒ぐらいだと思う。だけど、俺にはその時間がかなり長いと感じた。その間だけ、時間が止まったんじゃないかと思うぐらい静かだった。


「……熱じゃないね」


 美少女は、そっと額を離して、隣の席に戻った。

 俺は額が離れても呆然としており、何も言えなかった。


「よかったね、類友よ」


「……」


「君は……変態だった」


「はい!?」


 熱があるかどうか心配してくれて、熱がないと分かったら変態と言われた。

 これを驚かず、何時驚くというのか。


「いきなり驚くなんて……やっぱり君は変態だ」


「真顔で引かないで下さい」


 美少女に真顔で引かれる事が、どれだけ健全な男子に深い傷を負わすのか。

 それを今、俺は知った気がした。


「君が変態な事は置いといて……」


「お願いしますから、置いとかないで下さい!!」


 必死のお願いによって、変態という称号を得ることは阻止する事が出来た。


「それは、ともかく……類友よ。君は何で授業に出ないんだ?」


 美少女が話の軌道を変えようとしたのか、そんな事を聞いてくる。

 正直、素直に答えていいのか迷ってしまった。過去に初対面の相手に自分が得失者だと言ったら、軽蔑された事があるのだ。別に、それが一、二回程度ならまだ堪えられるが、殆どの人物が自分を軽蔑した。

 だから、如何に得失者で授業を免除されているとしても、普通に授業をサボっていると言った方が俺としては気楽である。

 しかし、それを言いたくは無かった。もし、言ってしまったら誰も本当の自分を見なくなるのではないか。そんな考えが何時も浮かぶ。

 俺が何て言おうか迷っていると、美少女が発言した。


「やはりいい、類友よ」


「えっ……」


「人には侵してはいけない権利がある。君が言いたくなければそれでいい」


 そうである。

 人には人権と言うものが存在する。人が生まれながらにして持つ権利がある。それは日本の三大主権の一つにも存在している。

 確かにプライバシーを守る権利もある。

 人権は一人、一人に保障されているのだから。


「だから――」


「得失者です」


 俺は目の前の美少女の言葉を遮って言った。

 人権? プライバシーを守る権利? そんなのは、嘘を付く事と同じ事だ。嘘を付いてごまかす。人権を理由に話さない。

 どちらも相手に真実を言わない事には変わらないのだ。

 俺はそのまま言葉を続けた。 


「俺は得失者です。そのため、能力関係の授業は免除されています」


「……」


 美少女は黙って聞いてくれた。

 別に、嫌われようと何されようともいい。

 能力至上主義の世の中なのだ。悪い事ではない。

 

「そうか」


 美少女は一言だけ、言った。


「やはり類友だよ、君は」


 美少女は納得するように言った。

 そして、言う。


「私も、君と同類だよ」


 その美少女は俺と目を合わせて言った。最初、この美少女と何が同類なのか分からなかった。だが、今した話の流れから考えると一つの結論にたどり着いた。そう、それは――得失者ということ。

 

「まさかっ……」

 

 俺は、唯々驚いていた。 自分と同類なんて先程から言っていたが、自分と同じ得失者なんて思いもしなかった。得失者は世界中探しても、ほんの一握りであるため、実際に会うとは夢にも思わなかったのだ。


「名前は?」


「えっ?」


「君の名前は?」


 目の前の、俺と同じ得失者の美少女が俺に向かって聞いた。


「夜眞棊郁斗……」


 俺は唯、そう名前を言った。

 俺の名前を聞いた美少女は、何度も何度も俺の名前を反復する様に言っていた。


「郁斗君か……うん、良い名前だ」


「ありがとうございます」


 名前を褒められたので、お礼を言う。

 

「ひじり」


「えっ?」


雪野聖(ゆきのひじり)……それが、名前」


 目の前の美少女――雪野聖は続けて言う。


「因みに、転校生」


「マジ……ですか?」


 転校生と言えば、朝から話題になっていたのを俺は思い出した。先程も転校生を見たいが為に、かなりのクラスメイトが残っていたのだ。

 形宮の情報によれば、学年は一つ上で、美少女という事だったが確かに形宮の情報通りであったと今更思う。

 

「君は驚く事が多いね」 

 

「俺にとっては世の中、知らない事ばかりですよ」


「勉強し放題だよ」


「いや、勉強は好きじゃないんですよ」


 と、その後は他愛の無い話をしているとそろそろ授業が終わる五分前になっていた。


「私はそろそろ教室に戻ろう……の前に、郁斗君」


「何ですか?」


「これから、私の事は下の名前で呼ぶように」


「えっ……? いいんですか?」


 女性を名前で呼ぶのは多少抵抗があるのだが、呼んで欲しいならそう呼んであげるべきだと思うが、俺は少し悩み、先輩を付ければいいか、という結論に至った。


「分かりました。これからは下の名前で呼びます」


「結構」


 と、聖先輩は席を立って教室の入り口に向かって行き出ようとした所で突然、立ち止まり、俺の名前を呼んだ。


「郁斗君」


「どうしました?」


「最後に一つだけ、言っておこう」


 聖先輩は俺の方を向いた。そして、右手を銃に見立てて、俺に指差す――狙いを定めるかのようにして、こう言った。


「思い込みと嘘は程々に」


 最後に自分で「バン」と言って、銃を撃ったかの様に手首を軽く動かした。そして、右手を降ろして教室を出て行った。


 そこで、再び教室内は静寂な空気に包まれた。

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