(男性視点)
食事に向かう同僚たちには目もくれず、淡々とした表情で書類を揃える。彼女の休憩する姿はあまり見たことがない。俺が近づくと、彼女は少し驚いた顔をした。
「手伝うよ」
離職やら休職やらで人手が足りない、その負担が彼女に回っているのだろう。食事も摂らずに働く部下を横目に、昼休憩に行く気にはなれなかった。
「すみません、仕事の合間だと間に合わなくて。しておきますから、お昼に行ってもらって大丈夫ですよ」
「俺、昼は食べなくても平気だから」
少し素っ気ない言い方だったかもしれない。そう思い、彼女の方を見ると少し口角が上がっているのが分かった。
面長で目が大きく、それに加えて透き通るように色が白い。男連中からの人気が高いのも頷ける。少し出っ歯なのもまた愛嬌だ。
静かな作業が続いた。他の人間相手だとひどくお喋りな彼女だが、俺と二人きりになると急に黙りこくってしまう。俺に気を使っているのかもしれない。申し訳ない反面、それが俺にはとても有難かった。彼女相手だと言葉が上手く出てこないのだ。
昔から女性は苦手だった。加えて、年の若い女の子は特に。しかし彼女に関しては他の子に対するソレは少し違っていた。彼女は良い子だ。俺の決して大きくはない声を一生懸命聞いてくれる。俺の意思を汲み取ろうとしてくれる。今もこうして、俺が割り振りきれなかった他人の仕事をこなしてくれている。何だか自分の情けなさに思わずため息が出た。
突然、彼女が小さく笑った。
「何?」
「いや、あんまり疲れた顔してるから」
正直、管理職という責任ある立場は俺には荷が重い。上司に体よく使われ、部下に支えられてようやく成り立っている役職だ。精神的疲労なら溜りに溜まっているだろう。
「そういう君はいつも笑顔だね」
勿論、いつも笑っているわけじゃないことくらい知っている。俺の前に限っての話だ。笑いかけてくれる彼女に救われたこともあった。
俺は都合がいい男だ。心のどこかで彼女に嫌われたくないと思っている。君が顔を上げたとき、俺の姿を探してしまう理由を俺は知っているというのに。
彼女は、仕事以外のことで俺と会話はしない。上司と部下というだけの関係で終わらせようとしている。それが本心なのかどうかは俺には分からない。
「でも、ほんと、毎日疲れますよね」
「疲れるね」
「この前なんて、腕が上がらなくなってて吃驚したくらい」
「へえ? まだ若いのにねえ」
彼女の顔が少し曇った。
「ねえ。まだまだ若いはずなんですけどね。……あっ、手伝ってくださってありがとうございます。これだけ出来たら後は私一人でなんとかなるんで課長は少しでも休憩に行って下さい」
最後はどこか突き放すようにも聞こえた。
目を見てくれなかった。年の話をするといつもこうだ。
君と俺はとても年が離れているという事実。それを縮めることは出来ない。世間の目、それ以上に自分に自信が持てない。
俺に彼女は勿体ない。
『年なんて関係ないです』
どんな形でもいい、彼女の口からその言葉が聞きたい。