どうしよう好きみたい
title by 確かに恋だった
気付いたのはきっと偶然。
入学して同じクラスになって、夏休み前の席替えでたまたま隣の席になった。
同じクラスといっても、あまり愛想がいいわけではない私は話したことないクラスメイトの方が多いかもしれない。
隣の席になった彼、もそんな一人だ。
数年前に創設されたばかりの野球部に所属しているらしい。
よく同じ野球部のクラスメイトたちと一緒に騒いでいる。
彼らはクラスでもムードメーカーで人気者だ。
彼らはいつも早々に昼ご飯を済ませ、それ以外の休み時間は机に顔を俯せて寝ていることが多い。
毎日の朝練に放課後の部活動。土日はもちろん一日中練習だと聞いたことがある。休み時間は貴重な休息なんだろう。
今日最後の授業がもうすぐ始まるが、まだ席についていない人も多くて、教室内はガヤガヤとしている。
もうそろそろ先生が来る時間だ。
ふと横を見るが、彼からは起きる気配が感じられない。
起こした方がいいのだろうか?
寝かせてあげた方がいいのだろうか?
「ん……」
迷っていると、横から小さな呻き声が聞こえて身じろぐから、あぁ起きたのだなと思ったが、体を上げる気配がない。
再びそっと彼に視線をやって――。
顔が紅潮するのを自覚する。
どうにか自分を落ち着かせようと、目を閉じて深呼吸。
ゆっくりと瞼を上げて、彼を見直す。
サラサラの茶色い髪が、夏の風に揺れ、その下に健全に焼けた肌と閉じられた瞼。
頬にある小さなニキビに、薄く開いた唇――かわいいなんて思ってしまった。
高校生にしては少し幼い顔が、穏やかな寝息とともに珍しく晒されている。
いつもは下を向いて寝ているから、こんなマジマジと近くで、顔を見たことがない。
早い鼓動は中々収まってくれない。
あまりにも穏やかな睡眠を邪魔することはできなくて。その偶然の遭遇ももう少しだけ堪能したいと思ってしまって。私は彼を起こすことはしなかった。
授業中ずっと高鳴る胸を押さえようとしても、横にいる彼を見ると、すぐに跳ねる心臓。
今日はなんて落ち着かない日だろう。
一日の授業が終わって、ようやく勉強から解放される。
結局起こさなかった私の代わりに、先生の小突きと黒板に書かれた問題が彼を襲った。
申し訳ないことをしたかな、と思いつつも、まだ少し高鳴る心臓をそのまま早々に荷物を片付け、教室を後にしようと扉を開ける。
「十束、起こしてくれてもいいじゃん」
後ろからかかった不満げな声に、思わず足を止める。
今のは――。
ゆっくり顔を振り返ると、少しだけふて腐れたような顔の彼。
「え?」
「授業だよ。俺のこと起こしてくれてもいいじゃん。隣なんだし」
彼の言葉に目を見開く。
名前知ってたんだ。
「十束?」
反応のない私に首を傾げる彼。
また鼓動が早くなる。
「ご、めん、なさい」
緊張で声が掠れる。
途切れる。
「次からは起こしてくれよ!じゃあまたな」
彼は大きなエナメルバッグを肩にかけて、私を追い越して行く。
眩しい背中。
顔が熱い。
「はぁっ」
腕を上げて、きっと赤いだろう顔を覆う。
上昇する体温は、
夏のせい?
”どうしよう好きみたい“
恋の始まり。