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フェンリル

 フェンリル、それが今まさに士郎の所属する小隊が交戦しようとしている生物のコードネームだった。

通常の狼の三倍はある巨体が特徴で、恐るべき身体能力と群れを成して獲物を襲う狡猾さを併せ持つ厄介な敵だ。

それにしても北欧神話で主神オーディンを飲み込んだと言う怪物の名前をわざわざつけることもなかったのではないか、と

目的地に向かう大型トラックの中、士郎は思っていると、隣からイグナが話しかけてきた。

「ん?何だ士郎、浮かない顔して。大丈夫だ俺がいる限り死ぬことなんてないさ。」

「いえ、ただちょっと、初めての実戦なので緊張してるんですよ。」

そう言って、士郎は胸元にかけてある十字架を握り締めた。

「ああ、それ彼女からの贈り物だよな?」

「な、ぐふっ、彼女じゃないですよ、ただの幼馴染です。」

イグナは少し意地の悪い笑顔を浮かべている。

「と、とにかく今回の任務は必ずやり遂げて見せますから。」

「誤魔化したー。顔赤いぜ士郎。」

イグナは意地の悪い表情のまま士郎の肩を叩いて続けた。

「まっ、なんにせよその娘はお前のことを待ってんだろ。なら、絶対に帰らなくちゃな。」

「・・・はい。」

(全く、やり方は少し強引だけど頼りになる人だ。)

士郎はひそかにそう思った。

そんなこんなで目的地に着く。ここは家畜が消えたという牧場の近くの森。そこでイグナは全員に忠告した。

「全員準備はいいか?電波障害が起こったら目標が近いって事だ。気を引き締めろ。」

まだ原理は分かっていないが、ホムンクルスの作り出した生物の近くでは電波障害と電子機器の不調が出るらしい。

電波のノイズの具合を確かめる兵士が小型のトランシーバーのような物を握って先頭に立って歩き出した。

しばらく歩いて、イグナが先頭の兵士に質問をする。

「どうだ?反応は。」

「異常ありま・・、いや、近づいています!」

確かに、兵士の持っている電子機器はなんらかの異常を察知しているようだった。

全員の緊張が高まった。

銃を構え、来るべき時に備える。

そして、

「いたぞ!あそこだ。」

イグナが叫び指を指した。

全員が一斉にそちらに振り返り銃を発射した。

しかし、目標は鋭い動きで銃弾を回避した。

「みんな。俺がやる!援護を頼む。」

イグナは叫んだ。すると全員がイグナから離れてフェンリルとイグナが孤立する形になった。

だが一騎打ちというわけでは決してない、複数の銃口はフェンリルを確実に狙っていた。

イグナは背中から大剣を引き抜くと、フェンリルを正面に据えて構えた。

そして、人智を超えた戦いが始まる。

一人と一匹はものすごいスピードで戦いを展開していた。

イグナは人間にはありえないほどの跳躍をして、空中から剣を振り下ろした。

が、フェンリルは難なくそれをよけるとイグナに向かって跳躍、喉下に喰らいついた。

イグナは剣を盾のように使ってフェンリルの体を押し返し吹っ飛ばした。

「すごいな、イグナ隊長は。」

兵士の一人が任務を忘れて誰とも成しにつぶやいた。

「ええ、イグナさんは僕達の組織が作り出した強化細胞の適合者ですからね。」

士郎は答えた。

強化細胞、文字通りそれを体に埋め込むことで、適合者の身体能力を飛躍的に高めることの出来る細胞。

ホムンクルスに対抗すべく組織が作り出した兵器とでも言おうか。

とにかく、イグナの力は絶大なものだった。他の人間が手出しすることが出来ないほど彼の今の戦闘は高い領域に達している。

銃口は何もない虚空を行ったりきたりするだけだった。

イグナはそんなことなどお構いなしに戦闘を続ける。

そして、イグナが横薙ぎに剣をはらった一撃がフェンリルの片目にヒットした。

「ウオオオオオオオン!」

フェンリルが咆哮を上げた。

イグナは勝利を確信する、続けて二発目の斬撃、しかしこれは避けられた。

フェンリルは息を荒げて、左の眼から血を滴らせていた。

「どうした?目医者が必要か?子犬ちゃん。」

イグナはフェンリルを嘲った。

言葉が伝わるはずはないのだが空気を読み取ったのだろうか。

フェンリルは怒り狂ったかのように突撃を開始する。

イグナは待っていましたと言わんばかりに剣を振るった、ちょうどそのときだった。

木々の間からもう一匹のフェンリルが現れたのだ。

もう一匹のフェンリルは真っ直ぐにイグナの元へ。

完璧に不意をつかれたイグナはまともにフェンリルの一撃を喰らい吹っ飛ばされる、その背中は血にまみれていた。

兵士達は我に返り、イグナを取り囲むように背を向け、銃を敵へ向け乱射した。

しかし、銃弾はほとんどといっていいほど効果がなかった。

フェンリルは銃弾を避けながらこちらに向かって突進してきた。

鮮血が舞う。兵士の一人がやられた。

「ぐわああああ!」

次々に兵士達はフェンリルにやられていった。

士郎も例外なく吹き飛ばされ意識が朦朧としていた。

フェンリルは最後の邪魔者がいなくなったのを確認すると、真っ直ぐにイグナの方へ向かっていった。

もう一匹の眼をイグナにやられた方のフェンリルは辺りを見渡している。

そして、フェンリルがイグナに止めを刺そうと強靭な腕を振り上げた。

再び鮮血が舞う、だがそれはイグナの血ではない、フェンリルの血だった。

イグナは間一髪で眼を覚まし、剣を振りぬいたのだった。

フェンリルはそのまま倒れた。

だが、イグナもそれに寄りかかるようにして再び倒れてしまった。

この場で立っているのはただ一匹、隻眼のフェンリルだけだった・・・。






























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