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何でアレ、若いってすばらしいですよね

正直疲れたの・・・ここに書くことも思いつかないくらい疲れたの・・・


人物表

主人公

きっと彼氏 名前など無いさ!一生無いさ!


自称未来が読み子さん

一応彼女 ヒロイン候補なのにお友達間で人気が薄い


コウノトリ君1号

使い魔 サブキャラなのにお友達間で人気がある というか、1話とキャラ違いすぎません?


彼女

ダレダロウ? 名前なんて無いよ!


ユウ

悪友 名前は出たのに名前があまり呼ばれない


ハルさん

悪友の幼馴染 お友達曰く「もっと怪しい人だと思った」

人物表

主人公

きっと彼氏 名前など無いさ!一生無いさ!


自称未来が読み子さん

一応彼女 ヒロイン候補なのにお友達間で人気が薄い


コウノトリ君1号

使い魔 サブキャラなのにお友達間で人気がある というか、1話とキャラ違いすぎません?


彼女

ダレダロウ? 名前なんて無いよ!


ユウ

悪友 名前は出たのに名前があまり呼ばれない


ハルさん

悪友の幼馴染 お友達曰く「もっと怪しい人だと思った」



 青い空に白い雲、光輝く海、といえば夏の代名詞の如く使われているけれど、当然ながら今は冬だ。しぶとく残っている冬将軍の余命がいくら終わりに近づいているとは言っても、青い空に白い雲、ましてや光り輝く海はイメージしづらいだろう。

 勿論、僕の前に広がる光景も青い空や白い雲なんかではなく、白い天井に光る電灯、そして光は反射せず、独特な匂いを出している水。

 人工物溢れるこの景色の中に、読み子さんやコウさんなどの、所謂桃源郷の天使達がいる。冬に泳ごうとする馬鹿は居ないのか、僕ら以外に客は見えない。勿論、彼女達も厳密に言えば人工物なのだけれど、その辺りの生物の神秘的な部分を深く追求すると、僕の中の眠れる獅子が目覚め、変態という不名誉な称号を経てしまうだろう。

 彼女達の他として、荒れ狂う波にも負けず奴隷の様に動いている茶髪野郎を除けば、高いところで僕らの安全を見守る監視員のお兄さんがいる。彼は職務に忠実らしく、読み子さんやコウ、ハルさんから目を逸らさない。片手にメガホン、そしてもう片手にとても大きな銛を持っていたことは見なかったことにした。

 そもそも男というものは『何故あんな脂肪の塊に目を奪われるのか』という事を僕らは日々議論しているのだけれど、その自身を高める議論もいつしか『何故アレはあんなに柔らかいのか』という議論へと置き換わり、熱く語りすぎた反動の空しさが怒涛の如く押し寄せてきて議論は失速して、何だか判らない場所へと不時着する。だから今日も今日とて、僕はあの二つのたわわの謎を解き明かすべく目を凝らしているのである。

 ちなみに彼女はプールの縁に腰掛けて、ちゃぷちゃぷと水を揺らしたり、何故か水に向かって手を振ったりして遊んでいる。彼女が水をちゃぷちゃぷ揺らし、手を振るたびに巨大な波がプールの水に巻き起こった。一体なにをしているのかと、波に乗るサーファーの如く疑問が押し寄せてきたけれど、深く考えたら水底に沈みそうだからやめておく。


「しょうねーん」


 僕がそうやって謎の解明に努めたり、もっと巨大な謎を見なかったことにしたりして過ごしていると、こちらに気付いた読み子さんがこちらに大きく背伸びをするように手を振った。お、おお・・・何がとは言わないけれど、ありがとうと言いたい。

 けれども、僕の片手には彼女が食べたいと言うので買った、取れたてで新鮮さが売りだとかのたこ焼き。もう片手には売店のお姉さんの笑顔に負けて購入した、とろぴかるなジュースを手にしているので、読み子さんに手を振り返すことは出来ない。仕方ないので爽やかな笑顔で返そうとしたら、鼻の下が伸びそうになったので慌てて引き締める。


「少年は泳がないのか?」


 表情筋に力を入れすぎてピクピクとし始めた頃、二つのたわ・・・読み子さんがプールから上がってきた。スタイルのいい人が水着を着たときの破壊力に備えるべく、脳内の理性を緊急配備する。水も滴るいい男、という言葉があるように、水が滴るのは色々と来るものがある。

 そもそも、水着なんて下着と一体何が違うのだ!耐水性があるのか無いのかくらいしか違いないんじゃないのか!そんなものを身にまとってきゃっきゃうふふ・・・と誘われてるの?誘ってるの!?


「・・・しょ、少年?」

「ん、ああ、どうかしましたか?」

「い、いや、何でもないならいいんだ。そ、それで、少年は泳がないのか?」

「あー・・・」


 一緒に泳ぎたそうにチラチラとこちらを見る読み子さんを視界に入れないようにしながら、訪れた危機の打開策を得るべく脳細胞をフル回転させる。


「ほら、たこ焼きとかあるし」

「ん?食べれないなら私が食べるぞ」

「・・・」


 僕がそう言うと、読み子さんはヒョイヒョイとたこ焼きを攫っていき、熱かったのか慌ててジュルジュルととろぴかるなジュースを飲んでしまう。・・・まだ食べないとは言ってないんだけど。

 困った時のネコ型ロボットよろしく、彼女の方へと視線を送ると、こっちを見て微笑んでいる彼女と目があった。ちゃぷちゃぷと大小様々な波を起して遊んでいたネコ型ロボットは、こちらへと二度三度手を振るとあくびをしてスーっと消えていった。・・・あまりの薄情な現実に耐え切れず過去に退避するけど、何故か家のネコ型ロボットが働いている記憶が見つからない。

 さてどうしよう。

 目の前には待てを貰ったワンコの如く、わふわふと返事を待っている読み子さん。頼みの綱のネコ型ロボットは謎の消失を図り、他の皆さんは茶髪野郎を馬車馬の如く働かせて遊んでいる様子。ところで、たこ焼きのソースが口周りについているのだけれど、言ったほうがいいのかな?


「読み子さん、ちょっと目を閉じて」

「しょ、少年!?こんなところでか?」

「別の場所がいいならそうしますが」

「い、いや、そうだな。少年がそうしたいというなら私は・・・」


 よくわからないやり取りの後、たこ焼きに付いてきた紙ナプキンを手に取る。拭き取り易くするためなのか、場所が場所ならキスでもせがむかの様に唇を尖らせる読み子さんに付いたたこ焼きソースを優しく拭う。そういえば、目を閉じさせる必要性はなんだろう。


「終わりましたよ」


 拭き終わった後も、読み子さんは何かを待つように目を閉じて唇を尖らせていたので、終わったことを知らせる。


「・・・え?」

「どうかしました?」

「・・・少年?」

「はい」

「何で目を瞑らせたのか聞いてもいいか?」

「たこ焼きソースが口に付いてたからですが」

「どうして言わなかったの?」

「自分で拭いた方が早いかと思いまして」

「そ、それじゃ・・・目を瞑らせたのは・・・」

「それがどうかしましたか?」

「・・・」


 やがて読み子さんの目は段々と吊り目になっていき、やがて気の弱い人は恐怖で萎縮するのではないかと心配になるほど睨まれた。当然ながら、我が身に心当たりの欠片も無く、決して疾しいところの無い僕は恐怖した。


「・・・もしかして、怒ってます?」

「・・・怒ってない」

「ですが・・・」

「怒ってないと言ってるだろう!」


 ハハッマタマタ、ウソバッカリィー!と、とても気軽に笑い飛ばせるトーンじゃない声色が帰ってきたので素直に黙る。これは紳士的な行いから来る黙秘であり、決してびびった訳ではない。

 ふむ・・・。

 もしも怒っていて、その原因が僕にあるのだとしたら素直に謝ろうと思っていたのだけれど、本人がそういうのでは火にダイナマイトを放り込みかねない。爆死するのは嫌だ。

 ぷっぷくぷーと頬を膨らませて、明後日を睨んでいる読み子さんのことは一先ず置いておいて、先ほども利用した売店まで歩く。背中に猛烈な視線を感じたので振り返ってみたけれど、読み子さんは先ほどと変わらず未来を睨み続けていた。・・・考えたくないけど、何かに憑かれたのかな。

 強烈な視線を感じつつも、取れたてで新鮮すぎるタコを入れたたこ焼きを一つと、お姉さんの笑顔に騙されて買った『青汁美味』という謎のドリンクを手にして戻ると、早速たこ焼きを読み子さんの口元へと運んでみる。ところでプールなのに取れたて新鮮とはどういうことなんだろう。

 フン!と向こうを向いていた読み子さんは、たこ焼きの湯気に反応したのかチラリとこちらを見ると、ぱっくりと飲み込んだ。そして熱かったのか、それとも美味しいからなのか、幸せそうに悶えた。一通り悶えると、また思い出したかの様にぷっぷくぷーと空を睨み始める。巣からちょっとだけ顔を出して獲物を捕食する生き物を思い出したのは心の中に秘めておく。


「そんなもので私が懐柔できると思ったら大間違いだからな!」

「そうですか」

「・・・へ?」


 思いっきり釣られてた気がするのだけれど、そう言われてはどうしようもないので、最終奥義『よくわかんないし、放置』を発動させる。この『放置』かつては魔王と戦う勇者が使用したと言われ『向こうに行きたいけど、仕掛けとかよくわかんないし、後回しでいいか・・・』と呟いたのが始まりであると言われる。その後、勇者がいかなる手段でその仕掛けを突破したのかは伝承に残させていないので『放置』から先が無く、気付いたら手遅れになってしまった輩が後を絶たない。ちなみに、そういう状態を『ツンだ、デレない』という。


「その・・・しょ、少年?もしかして怒ったのか・・・?」


 そういえば前のたこ焼きは読み子さんに食べられたんだっけ、と思いながら椅子に座り、熱々のソレを口に放り込み、青汁美味を少しだけ口にした。ソースとたこ焼きの味に鰹節やら青海苔やらの風味に青汁の苦さが加わった結果、悪魔的なハーモニーを巻き起こし、僕の味覚を破壊した。どうしよう、この青汁。


「あの・・・怒ったのなら謝るから・・・だからその・・・」


 プールでは浮き輪ボートから伸びた紐を括りつけられた茶髪野郎が、まるでどざえもんの如く水面に浮いているのが見えた。馬車を引く馬の如き扱いでも、意気揚々とボートを引っ張っていた先ほどとは違って、びくりとも動かない。ボートの上には海面を漂う海藻類の様な茶髪を心配そうに見守るコウと、死んだように動かない茶髪の持ち主へと「だらしない・・・それでも男なの?」と追い討ちを掛けているハルさんが乗っている。やめたげてよお!


「その・・・少年!」

「はい、なんですか?」

「あ、いやその・・・怒ってないのか?」

「僕は怒ってませんが、読み子さんの方こそ怒ってたんじゃ?」

「ああうん・・・それはもういいんだ」

「そうですか」


 その後もなにかを言いたそうにわふわふとしているので根気強く待つ。今度犬耳と尻尾をプレゼントしようか?殴られそうだな。


「っ・・・」


 特に意味は無いけど、何となく背を伸ばして頭を撫でてみると、撫で易い様に少しだけ頭を傾けた。おー、よしよし。


「い、いきなり何をするのだ!」

「いえ、何となく」

「何となくって・・・んっ・・・」


 撫でるのを止めると怒り始めたけど、撫でるのを開始するとわふわふと大人しくなった。ふむ・・・これは使える・・・。


「ところで読み子さん」

「んぅ・・・?なんだ?」


 わふわふ。


「僕に何か用があったんじゃないんですか?」

「ふぁ・・・そ、そうだな、もしよければ一緒に泳ごうかと・・・」


 わふわふ。わんわん。


「ふむ・・・」


 そういえばそんなこといってたな。

 わふわふ。ぶんぶん。

 読み子さんのわふわふ度は限界まで高まり、ぶんぶんと激しく振られる尻尾まで視えてきた。妖怪わふわふという単語が頭の中で閃いたけれど、新世界を照らし出す朝日を目指して、水平線の彼方まで遠のいて消えていった。


「残念ですけど、僕泳げないんですよ」

「ふぇ・・・?」

「泳げないんです」

「およげない?」


 単語の意味がわからない子供のように、目をしたぱたさせる読み子さん。わふわふ度が高まるとこうなるのか。僕としては非常に面白いけど、いつまでもこうしていると話が進まないので撫でるのを止める。手を離したとき、小さな「あ・・・」という声と名残惜しそうな視線が僕の鉄の意思を豆腐の様に抉ったけれど、折れやすく繋がりやすい意思だったので何事もなく再連結した。


「つまりカナヅチです」

「そ、そうか・・・カナヅチか」


 ふむ・・・と思考をめぐらせる読み子さん。今の彼女は妖怪わふわふではなく、黙っていれば才色兼備と呼ばれている頭脳の持ち主だ。きっとすばらしい案を出してくれることだろう。


「よし、私が教えてあげるから泳ごう」

「・・・思ったよりも普通なんですね」

「ん?どうかしたか?」

「いえ、何でもないです」


 思わず漏れた問いに反応されたので、取り繕っておく。『物事に近道はない、何事も努力あるのみだ』と誰かが言ってた事を思い出した。その言葉に釣られて、急がば回れという言葉も思い出し、特に急いでも無いのに回った結果よくわからない道に紛れ込んでしまって戻れなくなった僕と、道を選ぶことも出来ない間に他人が紛れ混んできた彼女の人生を思い出し、その終着点となった最期まで思い出して、危うくプールサイドへとたこ焼きと青汁をぶちまけ掛けた。


「少年!」

「はい・・・」

「大丈夫・・・もう大丈夫だから・・・」

「はい・・・」


 落ち着くまで抱きしめられると耳元で囁かれる。心配して落ち着かせてくれるのは非常にありがたいのだけど、僕の身体にとても柔らかいものがダイレクトで伝わってくるので、早々に離れないと眠れる獅子が完全に頭を上げてしまう。色々な意味で、それは非常に危ない。


「もういいのか?」

「平気です。ちょっと嫌なことを思い出しただけですから」

「そうか・・・歩けるか?」

「少し手を貸してもらえますか?」


 読み子さんの手を取ると、若干前かがみになりながらプールサイドまで歩いていく。どうやらこのまま休憩、という案は頭に無いらしい。


「・・・ホントにするんですか?」

「私が付いてるから心配しなくてもいいぞ」


 読み子さんはそう言ったけれど、ココに不幸が起きる要素が3つある。1つ目として、僕がカナヅチであり、全くと言っていいほど泳げないこと。2つ目として、僕の体調が著しく悪かったこと。そして3つ目として、プールの水深が驚くほど深かったこと。

 結果として、僕の身体はごぽごぽと水の奥底へと沈んでいき、監視員のお兄さんを大層驚かせた。深すぎるのか光の届かない真っ暗な水底では、巨大なサメがうようよと泳いでおり、その後ろをもっと巨大なタコが追いかけて捕食するシーンが繰り広げられていた。もしも読み子さんの救出が無かったら、どざえもんの仲間入りをして、あのサメと同じ末路を辿るところだった。どうせ仲間になるなら、一字違いのネコ型ロボットが良い。

 慌てて駆け寄ってきたお兄さんに返事をしながら、縁にへばり付いて呼吸と現実に戻れた喜びを味わう。あまりにも味わいすぎて少しむせた。


「・・・少年?」

「・・・三途の川が見えるかと思いました。後何故か、大きいサメともっと大きなタコが見えました」

「ま、まぁ私が居たから大丈夫だっただろう?」


 サメとタコについてはさらりとスルーされたので気にしないことにする。そうやって何でもかんでも気にしていては名探偵の助手の如く、一般人なのに難解な事件の数々に首を突っ込みかねない。

 しばらくの間、親の脛に齧りついたダメ息子の如く縁にへばりついていたのだけれど、そんな息子もいつかは脛から飛び立たなければならない。生死の境目を見る決意をして手を離そうと思ったけど、やはりダメ息子の如く齧りついたまま離れなかった。


「水に顔は付けれるのだよな?」

「それは出来るみたいですね」


 ごぽごぽと顔を水に付けてみると、先ほどサメを捕食していたタコがうようよと水底を漂っていたけど、タコよりも巨大な手がタコを摘まんで深く黒い水底へと連れ去っている光景が見えた。アレは何?と疑問に思っていると、2つの光る目の様な物と目があった気がする。驚いた結果、新世界の幕を開きそうになったので慌てて顔を上げる。なるほど、彼女が手を振って、水面に波を起していたのはアレか。

 良くこんなところで泳げるな、と思ったけど、思い出してみたら泳いでいるのは読み子さんや茶髪野郎の所謂『普通じゃない』組で、ハルさんやコウみたいな『水中では普通』組はボートの上にずっといた。彼女は足しかつけてないけど、きっと『水中でも普通じゃない』組に属するんだろう。他に人がいないのも納得できる。


「そうだな、どのくらいまで泳げるようになりたいのだ?」

「それって重要なんですか?」

「まぁ、ただ漠然としてるよりは目標があった方が良いだろう?」

「そうですね・・・」


 悩んでいると、向こうでどざえもんと化して居た茶髪野郎が復活し、すごい速度でボートを引っ張っている光景が見えた。ぷかぷかと浮いている障害物ににぶつからないようにハルさんが上手に舵を取り、コウがきゃっきゃっと喜ぶ。


「・・・いくらなんでもアレは無理だぞ?」

「・・・判ってます。手、貸してもらえますか?」


 少しだけ羨ましいと思ったのは心の奥底に閉まって、とりあえずは縁から旅立とうと読み子さんの手を借りた。



□ □ □ □



「畜生!覚えてろよ!」


 生死の境目を見たり、水面の境目を漂ったり、まして常識の境目を越えかける時間から生還するや否や、馬車馬の如く働いていた野郎が腹減ったとかで買出しジャンケンが始まった。そして言いだしっぺの法則を見事にこなし、捨て台詞を吐きながら走っていく。一体奴の何処にあんな元気があるのか・・・。


「むー!」


 哀れみの視線で走り去っていく姿を眺めていると、小さき人がぷくーと噴火準備を始めている気配が伝わってきた。というより、ご丁寧に音声付きで知らせてくれた。


「読み子さんにだけずるいです」

「どういうこと?」


 ぷくぷくと膨らんでいく頬を突付いて萎ませてから、聞いてみる。隣では読み子さんとハルさんがボートから空気を抜く、ぷしゅーという音が聞こえてきた。


「読み子さんにだけあーんして、コウもするー」

「・・・そんなことしたっけ?」

「いいからコウにもするのです!」


 よくわからないけど、ピシッと言われてしまった。

 そう言われても、たこ焼きは何者かが全て食べてしまったのでここにはない。その何者かの一人は売店に走っていて、悠長に帰ってくるのを待ってたら小さき人が噴火しそうだ。かといって代用品もない。

 そうこうしている間に、またぷくぷくと頬が膨れ始めた。困ったので、たこ焼きの箱に唯一残ったソースを指ですくうと、小さき人の口元へと持っていってみる。


「んむ・・・」


 一指し指はにゅるりとコウの口の中に入ると、ちろちろ舐め取られた。子供の姿だからなのか、それとも皆そうなのか、彼女の口内は非常に熱く、その熱は指先から肩、首、脳へと様々な感覚を逐一伝えて脳を茹で上げていく。

 とはいえ所詮はソース。掬い取るのも数秒なら舐め取られるのも数秒で、ソース味が終わった僕の指をどれだけ舐めようとも、何だか判らない出汁しか出てこない。かといって舐めてダメなら吸ってみろ、とばかしに吸われてもソース味は帰ってこない。

 このままコウに自分でもよくわからない出汁を味あわせるのは倫理的にアウトを貰う気がするし、何より萎んだボートの代わりにぷくぷくと膨れ上がってくる気配があるからちゅぽんと指を外気に触れされた。

 次は何をするのかというワクワク光線と、次は何をしでかすのかというおどろおどろしい気配が僕の身体に突き刺さる。

 とりあえず手近にあった青汁でも持っていくことにした。たこ焼きを完膚なきまでに消滅させた誰かさんたちも青汁までは手を出さなかったのか、コウがジュルジュルと緑色の不健康そうな健康液体を飲む姿を、信じられないものでも見るかのように見ている。

 そんなこんなで舐められたり吸われたり、吸ってる光景を眺めたりしていると、買出しに行った奴が帰ってきた。

 トレーいっぱいに溢れそうな焼きそば、たこ焼き、イカ焼き等など。


「何も言われなかったから適当に買ってきた」

「・・・それ、誰が食べるんだ?」

「ん?誰か喰うだろ?」


 そう言った瞬間、読み子さんに視線が集まったのは言うまでもない。

 大多数の予想通り、読み子さんとユウが鬼神の如き働きを見せ、後に残ったのは何だかわからない箱だけとなった。ピンクの箱にひらがなで『ろしあん☆るーれっと』と書かれたこの箱。怪しすぎて皆が皆、見てみない振りをして他の食べ物に手を出していた。


「なぁ、コレ何なんだ?」

「ん?面白そうだから買ってきた」

「・・・」


 つまり何なんだよ。


「かまぼこ焼きというらしい」

「かまぼこ焼きー?」

「何でもタコの代わりにかまぼこ入れてみたとか」

「・・・」


 辺りを沈黙が支配する中、コウだけが「おおー!」と盛り上がっていた。かまぼこっておま・・・。


「それじゃ、ロシアンルーレットってのは?」


 一番気になるところをハルさんが聞いてくれた。


「ああ、どれか1つにカラシが入ってるとか」

「・・・」


 何買って来たんだコイツは・・・という雰囲気が流れる中、コウだけが「おおー!」と一人盛り上がりを見せる。

 馬鹿の話をまとめるとこうだ。

 それぞれがこの謎の食べ物を食べて、運悪くカラシに当たった奴が外に出て何かを買ってくる。数は5つ。つまり一人1つは必ずあるということ。

 発表した直後、読み子さんがプールに向けて馬鹿を蹴り出し、何とか耐えた所をハルさんが止めを刺して水底へと叩き込むという連携が入った。悪鬼の如く怒る彼女達を僕とコウが宥めたのは言うまでも無い。働いたのは主にコウだけど。

 ちなみに、このプールは大きく3つに別れている。

 1つ目は僕らが今居る、何も無いシンプルなプール。果たしてこのプールをシンプルと呼んで良いのかは疑問だけど。底が見えないし、巨大タコとか巨大サメとか、巨大な誰かさんとか住んでるし。

 2つ目はウォータースライダーなんかの、所謂遊べるプール。パンフレットを見ると、何もしなくても身体が勝手に浮く等という奇怪極まりない場所もあるらしい。

 最後に、外。今が夏場で晴れ模様なら、青い空、白い雲、光輝く水面、というもはや幻想なんじゃないかと思える光景が拝めるだろう。生憎と今は冬終わりなので、白い雲に白く降り注ぐ雪、そして凍死しかねない風が自重せずに吹き続けている。こんな中を水着で闊歩するのは自殺志願者か、もしくは馬鹿くらいだろう。

 悲しいことにその馬鹿は不屈の心を持っていたようで、プールの藻屑となる前に生還するとロシアンルーレットの順番を決め始めた。同時に食べるんだから順番なんぞ関係ないと思うんだけど、気にしたら負けだろう。

 それぞれがそれぞれ、自分の思う物を選択するとゲームスタート。何といっても生死が掛かっているのだから、皆緊張の趣で自分の命運を握るかまぼこ焼きを見つめている。


「それじゃ・・・いっせーので」


 馬鹿の掛け声でかまぼこ焼きを口の中に放り込む。噛み締めると、柔らかい皮の中にはゴムと勘違いしそうなかまぼこ。適度に熱せられたソレはゴム鞠の如く弾力を発揮して、ばらばらになりながら口内を暴れまわった。

 つまり不味い。

 予想以上に不味い。

 皆さん感想は一緒のようで、読み子さんは渋い顔だし、ハルさんは何だか吐きそうな顔、何でも美味しそうに食べるコウも珍しく首を傾げてる。そして、言いだしっぺである茶髪野郎は悶えていた。

 命運は決した。

 自分で言った以上、まさか止めるともいえず、哀れにもカラシ入りに当たったユウは外へと放り出された。

 水着のままで。

 雪の降る外に。

 ぶるぶると雨に打たれる子猫の様に震えるその姿は、見てるこちらまで寒くなってくる。まさに誰得企画。

 それでも震えながら何とか売店までたどり着くと、湯気が漂う容器を手にしてこちらへと戻って来ようとした。

 その瞬間、彼を突風という不幸が襲った。

 荒れ狂う風は、がたがたとドアを揺らし、雪を舞い上げ、奴の身体にたたきつけた。風が止んだ後には、ついさっきまで湯気の上がっていたはずの容器と共に雪の上へと倒れるユウの姿があった。

 ああ・・・良い奴だったな・・・。

 その姿をみた時、僕の脳内に奴とココに来た時の思い出が蘇った。


『おい!入り口ってロリって読めるな!』


 ・・・。

 やっぱり死んでも良かったのかもしれない。

 けれども哀しいことに救世主は僕らの中に居た。救世主なのか女神なのか悪魔なのか判らないハルさんは売店まで歩いていくと、熱々のおでんを買うと毛布を手に入れ、外へのドアを開けた。

 寒さで声にならない悲鳴を上げるものたち2名。舞い込んで来る雪にきゃっきゃと喜ぶもの1名。おでんを手に釣りを始めるもの1名。そしてホラー映画の如く、高速でドアまではいずって生還を果たす馬鹿1名。

 泣きそうになりながらおでんを食べるユウを優しく看護するハルさん。その慈愛溢れる姿には後光まで見える。

 まるで仲良く寄り添っていた夫婦の如き暖かさ溢れる光景が繰り広げられているのだけれど・・・ドアが閉まってないのでそれどころじゃない!

 誰かがドアを閉めないと、このままじゃ凍死しかねない!

 けれどもドア付近は風が尤も吹き荒れる場所であり、勿論とても寒い。現にドアを閉めようと立ち上がった監視員のお兄さんは、ドアに辿り着く前に力尽きて倒れた。

 誰が行って誰が犠牲になるのか!僕らの未来はいかに!

 結局、何事も無いようにコウが閉めた。

( ´_ゝ`)モチベを上げるために書いてるはずだったのに、瓦解しそう


とりあえず次はアレの次話です

細々書いてますので、今しばらくお待ちを


ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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