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4/5

青春には付きものでしょう?

お久しぶりです

メインの息抜きとして書き書き


人物表

主人公

男の子です 独断と偏見ですが


自称未来が読み子さん

一応の彼女 彼女っぽいことしてなくても彼女


コウノトリ君1号

使い魔 使い魔っぽいことしてなくても使い魔


彼女

名前など無い! 基本的には見えません


ユウ

悪友 ついに名前が! ユウとコウって似てることに書いてから気付く


ハル

ユウの幼馴染 まだ付き合ってないよ



 学校は休みを迎えた。

 水着は買った。

 場所は何処からかアイツが見つけてきた。

 ということで、悲しいことに僕らは泳ぐべく、旅行へと出かけている。何故泳ぐだけで旅行なのか?何故冬に泳がないといけないのか?という疑問は僕にもあった。だが、季節や金銭事情を盛り込んだ僕の主張は、そっちのほうが楽しいからという感情論によって完膚なきまでに無視された。横暴だ!

 電車やバス、そして外の寒さに震えること数時間。僕らは件の旅館らしき場所へとたどり着く。長い道のりの、特に移動費をケチるための徒歩の結果。宿へと着いた時の僕らは、さながらのゾンビ映画の様な行軍となっていた。既に沈んで暗くなった辺りが実にそれらしい。若干2名ほどの例外は居るけれど。


「おっきいー!」

「寮よりでかいな!」


 例外1と馬鹿が楽しそうに手を広げて旅館の幅を測っている。一体何処にあの元気が出てくるのか・・・子供は風の子というのもあながち間違っていないかもしれない。大きくなったらただの変人にしか見えない。

 さすがの読み子さんも疲れたのか、死んだ魚のような目で旅館を見つめている。普段運動しないであろうハルさんに至っては、きちんと酸素が供給されているのかすら曖昧だ。


「・・・旦那様?」

「うん・・・大丈夫・・・大丈夫だから・・・」


 例外2である彼女にぽつりぽつりと答えながら、皆でずるずると重い足を引きずって行くと、旅館の人がまるで死人でもみつけたような顔で駆け寄ってきた。子供と同じく一番元気な馬鹿が受付を行うことに。

 荷物を預け、ソファに沈み込む僕らに一息の安息が訪れる。


「つい・・・たな・・・」

「着き・・・ました・・・ね」

「寝た・・・い」

「同感・・・」

「おにーさん!おにーさん!あれ、雪だるまー?」

「うん・・・今行くから・・・」


 しかし僕の安息はコウによって崩され、同情的な視線に見送られてコウの元に歩み寄ることに。僕が一体何をしたというのだろう。


「うん、雪だるまだね・・・」

「おー」


 なるほど、視線の先には白くて丸い玉が二つに重なっており、つぶらな瞳がこちらを見つめて語りかけてくる。そんな顔してどうしたんだい?疲れただろう?こっちにおいでよ。こっちには安らぎがあるぞ。


「旦那様、お気を確かに」


 ふらふらとそちらへ歩こうとしていると、彼女の声で目が覚めた。僕は何をしようとしたんだ?そして腕に当たるやわらかいものはなんだろう?背中には冷たい視線が・・・諸々の事を深く考えたら負けな気がする。

 その後、ますます喋らなくなった読み子さんとハルさんを連れて、何とかロビーから部屋の中へと身体を動かす。コウをおんぶして階段ダッシュしてた馬鹿の姿はまだ無い。一人で転げ落ちればいいのに。

 訳のわからない単語を連呼する女中さんの説明を右から左へと聞き流していると、さわやかな汗と引き換えに、がくがくの膝を手に入れた馬鹿が部屋へと入ってきた。コイツは何を考えて日々生きているのか、たまに不思議に思う。たまにしか思わないのは、野郎の考えることなんかで悩みたくないからだ。悩むならもっとこう・・・ふわふわしてて、おしとやかな女性について悩みたい。

 最後に晩御飯の時間を聞かれて、女中さんは部屋から出て行った。仕事とはいえ、色々苦労してそうな人だ。


「それじゃ、僕らは荷物を置きに行くから、ご飯のときに」

「・・・いって・・・らっしゃい・・・」

「コウもいくー!」

「ダメだ!」

「えー、なんでー!」


 騒いでる女子を残してドアを閉める。女三人寄れば姦しいとはいうけれど、隣から苦情は来ないだろうか?

 当然ながら野郎二人は女子と相部屋ではなく隣の別部屋だ。

 僕らが数日を共にするドアを開けると、ベットが二つとテレビ、冷蔵庫があるだけのなんとも狭い部屋。荷物を置くと通り道しかできないんじゃないのか?女子部屋を天国というならこっちは地獄だ。いろいろな意味で。


「なぁ・・・」

「何だ?」

「僕らの部屋、何でこんなに狭いんだ?」

「どうせ寝るだけの場所になりそうだからな、一番安いのにした。俺も長時間お前と二人っきりは嫌だしな」

「・・・ご尤も」


 確かにこいつと二人っきりは嫌だ。正確にいうと、二人っきりでは無いとしても。


「そういえば・・・彼女はどうするんだ?何なら簡易ベットも出すが」


 荷物の整理と称して、女子組みには見せれないアレやコレを二人で隠していると、ユウがぽつりと言った。


「あー、いいよ。ベットは使わないと思うし」

「・・・そうか」


 こんなとき、事情を知ってる奴が居るというのはありがたい、と思うときがある。


「でも睦言は他でやれよ」

「・・・わかってるよ」


 ・・・事情を知りすぎてる奴が居るのも問題だな。

 その後、完璧と言えるほどの偽装を施していると、待ち合わせの時間が近づいてきた。部屋から出る前に部屋の中を覗いたけれど、何処からどう見ても生活用品があるようにしか見えない。



□ □ □ □



「まだ来てないみたいだな」

「みたいだね」


 待ち合わせ場所のロビーに着いても、彼女たちの姿は無い。なので、しばしグデーっとソファに沈む。本気で疲れた・・・。


「普段から鍛えてないからそんな姿になるんだぞ」


 黙れ体力馬鹿。力こぶを見せるな。笑顔を見せるんじゃねぇ。

 暇つぶしにも飽きて、二人でグデーっとしてると、女子組のキャピキャピした声が聞こえてきた。彼女たちは疲れてないのだろうか・・・。


「ほぉ・・・」


 安息を求めて天井を仰いで目を閉じていると、隣から感嘆の声が聞こえてきた。


「ユウ!どーよ!」

「よく似合ってるな。コウと読み子さんが」

「おい・・・私はどうなのよ」

「アー、ニアッテルニアッテル」

「どういう意味よ!」


 夫婦漫才も始まって、俄然騒がしくなるロビー。それでも目を閉じて安息を噛み締めていると、トンっと膝の上に何かが乗っかってきた。

 薄目を開けると、コウが僕の顔を覗き込んでいる。


「おにーさんおつかれー?」

「おつかれー・・・」

「むー・・・」


 不満そうに口を尖らすコウの頭を撫でるも、ぷくーっと膨らんだままで中々機嫌が良くならない。ふむ、何を求めてるんだろう・・・キス?まさか、読み子さんじゃあるまいし。


「旦那様?お召し物・・・」


 こっそりと耳打ちされて合点がいった。

 見るとコウはいつもの割烹着から浴衣に着替えているし、ハルさんは三つ編みの髪を下ろしていつもとは違う雰囲気がしてる。この人のこういう姿を見ると、大和撫子とは本当に居るんだな、と感じる。内面は別として。そういえば、読み子さんは・・・どこだろう?


「へぇ・・・ハルさんもコウも、二人とも似合ってる」

「えへへー♪」

「ありがと。ほら、誰かさんと違ってきちんと見る目があるじゃない?」

「こいつにお世辞は言わなくてもいいぞ、油断すると何されるかわからないぞ」

「聞き捨てならないわね、その言葉・・・」


 またワイヤワイヤと漫才を始めるお二人さん。これでこいつら付き合って無いって言うんだから、恐ろしい。さっさと付き合えばいいのに。


「ところで、読み子さんは」

「うに?さっきまではそこに居ましたよー?」

「ふむ・・・」


 僕の膝に乗っかって遊んでるコウを横にどけて辺りを見渡すと、彼女と目が合って冷たく微笑まれた。・・・僕は何も見なかった。

 なるべくそちらの方を見ないようにして、辺りを見渡すと、階段の影からチラチラとこっちのほうを覗いている読み子さんが見えた。本人は目立たないようにしているつもりかもしれないけれど、すごい目立ってる。

 どうしようか、と少し悩んでから席を立つ。というか皆揃わないと晩御飯にならないから呼んで来るしかない。

 読み子さんの方へと歩いていくと、ビクッとして影に引っ込んだ。・・・何かしたっけな。


「こんなところでどうかしましたか?」

「っ!しょ、少年!き、奇遇だなー」

「奇遇ですねー」


 奇遇の意味って何だったかな。どちらにしても、階段の裏で会うなんて奇遇以外の何物でもなさそうだ。

 さてさて、どうしようか。読み子さんはもじもじと俯いたまま動こうとしないし、このままだと体力馬鹿が欠食児童となって暴れだしかねない。奴ならありうるから恐ろしい。


「とりあえず皆待ってるし、行きませんか?」

「あ、ああ・・・うん、そうだな・・・」


 促すと、あまり気が乗らないという感じで暗がりから出てきた。明るみになった読み子さんは、コウやハルさんと同じ藍色の浴衣に身を包んで、さらに長い灰色の髪をアップにしてるから、いつもとかなり雰囲気が違うように見える。別の言い方をすると、とても美人に見える。トレードマークの白衣は何処に置いてきたんだろう?


「へぇ・・・」

「な、何だ・・・?」

「うん、綺麗だと思いますよ」

「そ、そうか!」


 笑顔の読み子さんと手を繋いで元へと戻ると、和やかに談笑してた二人がぴたっと静かになり、ニヤニヤと笑い始める。


「なぁハル、何か暑くないか?」

「そうね。手なんて繋いで・・・冬なのにねー」

「な、ちがっ・・・これはだな・・・その・・・!」


 瞬時に僕の手を離すと、あたふたと上下に振って弁解を始める読み子さん。けれど、それは逆効果だと思うのは、僕の気のせいだろうか?二人とも誰がとは言ってないし。


「おにーさん、コウも繋ぐー」


 温もりが失われて手持ち無沙汰となった手をどうしようかと考えていると、何故かコウと手を繋ぐことになった。


「まぁ旦那様ったら、すぐに別の人に乗り換えるんですね」


 そして、何故か背中からプレッシャーを掛けてくる彼女と、未だにあたふたしてる読み子さんで楽しんでる連中を連れて食堂へと入っていく。もし読み子さんが不貞腐れたら僕が面倒見るんだろうか・・・。



□ □ □ □



 晩御飯はバイキング形式というらしく、たくさんの料理と人、そしてテーブル。つまり食べ放題らしい。


「よし、コウさん!好きなものとってきていいんだぞ!」

「おー!」


 猛々しく右手を揚げて気合を入れる馬鹿二人。関係ないけれど、コウにさん付けをしてるのはこいつだけだ。

 コウが微笑ましくちょこちょこ動く後から、茶髪で長身の野郎ががさごそ動いていって全てを台無しにしていく。誰かあいつを止めてくれ。

 その光景を楽しそうに眺めていたハルさんもテーブルを立ち、残るは怒ったまま後に引けなくなった読み子さんと僕だけ。このまま何も無い皿を見つめていてもお腹は膨れない。かと言って僕だけ行くのは後味が悪いので、聞いてみる事にする。


「読み子さんは行かないんですか?」

「あ、ああ・・・そうなんだが・・・どうも動き辛くてな」


 そういってはちらちらと帯や胸元へと目をやっている。釣られて僕も目をやったら何故か睨まれた。別に怒ったのは関係なかったのか。


「僕が取ってきましょうか?」

「いや、自分で行くからいい」


 そういって立ち上がると、急いだ様子で歩き始める。けれど、急ぎすぎたのか、僕の目の前を通った辺りで身体は前向きに倒れていって、綺麗に転んだ。白・・・か。


「・・・旦那様?」

「読み子さん大丈夫?」

「あ、ああ・・・」


 脊髄反射で手を取って立ち上がらせると、パンパンっと埃を払う。怪我は無いみたいだけど、読み子さんが俯いたまま動かない。もしかして何処か悪いのかな?と思って覗き込んでみると、真っ赤な顔でそっぽを向かれた。ふむ・・・?


「本当に平気ですか?良かったら一緒に行きます?」

「い・・・一緒にっ!?それはつまり・・・その・・・」

「おい、ピザが焼き立てだってよ!・・・どうした?」

「な、何でもない!それじゃ行ってくるからな」


 最後までこちらを向かないまま、すごい勢いで歩いていってしまった。


「なぁ、俺何か悪いことしたか?」

「さぁ・・・?」


 野郎二人で首を傾げる。・・・本当になんだったんだろう。相変わらず、読み子さんの考えてることはわからない。

 まぁこうしていても始まらないし、席はこいつに任せて僕も料理を取りに行くとしよう。


「・・・」

「うめぇ・・・うめぇ・・・」

「・・・ほぅ」

「むー?はい、おにーさん」


 馬鹿がガツガツと皿に持った山盛りの食材を平らげていき、その隣では負けずと読み子さんがパクパクと平らげていく。そして、最後にフルーツやお菓子を山盛りにしているコウが、嬉しそうに頬張っては僕の元に運んでくる。見るものに胸焼けしをプレゼントしてくれる食事風景がここにはある。


「・・・私、食欲ないわ」

「・・・僕も」


 そういうハルさんの皿にも結構な量がある。食べる量の計算ができない人じゃないと思ったのだけれど。


「ん?何だ、ハル食わないのか?」

「ええ、あんた食べてくれない?」

「おお、貰う貰う」


 まるで聖母が犬に餌をやるような目で、ユウの皿へと料理を運ぶハルさん。そしてガツガツと食べる姿を、微笑ましいものでも見るような目で見つめている。なるほど・・・確かにこういう人だった。けれども、どういう思考を持っていたらこいつの食事風景をそんな目で見れるんだろうか。

 ふと、読み子さんがその様子をじっと見つめてることに気付いた。


「しょ・・・少年?もしも食べ切れないないなら私が・・・」

「いえ、僕は食べれる量取ってるから平気です」

「そう・・・か」


 咄嗟にそう答えると、読み子さんはしょんぼりと目の前の肉を突付く。ハルさんの視線が何処か冷たい。

 そうしてる間にも、僕の皿にはコウが果物やケーキを乗っけていく。・・・僕の皿にスイーツさんを乗せることに何の意図があるのか、非常に気になる。もしかして、毒でも入ってるのだろうか?毒は甘い物でくるめと言うらしいし。


「・・・読み子さんよかったらコレ、食べる?」

「っ・・・いいのか!」


 あまりにも処理に困ったので、読み子さんに提案すると、満面の笑顔で頷かれた。別に僕の料理を食べたいとか、そういうことはありえないと思うので、よっぽど甘いものが欲しかったんだろう。それに、僕は胸焼けの状態でこんな甘い物を食べたくない。味噌汁とか雑炊とか、そういうお腹に優しいものが食べたい。


「・・・むー!」


 せっせと僕の皿からスイーツさん達を輸送していると、隣からむーむーと唸る声が聞こえてきた。チラリと見ると、小さき人がまるで親の敵でも見るような目で、僕のフォークを睨んでいる。そして、何故かコウから僕の皿へと引っ越してくる甘い何がしさん達。


「・・・」


 処理に困る甘いそれらは、僕の皿の上でキラキラと食べてオーラを出している。けれどもそのオーラを出せば出すほど、僕の食欲は失せていく。チョコまみれの彼らは1つ何キロカロリーがあるんだろう。というより、コレを全部食べたら吐きかねないな・・・。

 読み子さんの方に動かそうにも、頼りの彼女はケーキやらをちょこっとだけ取っては口に入れているので、全く処理されていない。どうしてこういう時だけ食べる速度が遅いんだ。

 さてさて、どうするべきか。


「むー・・・おにーさん、あーん」


 悩んでいると、小さき人が痺れを切らした様子でフォークを突き出してきた。フォークの先には何も無く、そして尖った部分が僕の首筋辺りを狙っているのであれば平和的解決案を全力で勧める所だけれど、幸か不幸か、フォークに刺さっているのは砂糖とクリームといっぱいの夢が詰まったスイーツさん。甘いのは乙女の夢くらいにして欲しいと、僕は日々願ってる。

 とはいえ、ソレは外面的に傷が付くか内面的に傷が付くかの差しかない。


「・・・はい、あーん」


 悩んだ結果、逆にスイーツさんを差し出してみた。クロスカウンター的に差し出されたソレは、少しの狂いもなくコウの口の中へと消えていってもぐもぐと咀嚼されていく。後に残るのは満天の笑顔。


「むー・・・」


 危機は去った、と一安心するのも束の間。今度は読み子さんが唸っている。美人とも言える人が半目でこちらを睨んでいる姿は、中々に迫力がある。というより、手に持っているフォークがぷるぷると震えていて怖い。


「あ、あーん・・・」


 恐る恐るといった感じで、フォークを差し出してみると、半目のままで食べられた。そしてすぐに催促するように口を開ける読み子さん。


「むー!」


 肉食獣に餌をやるときってこんな気分なんだろうな、と思って機械的に甘い彼らを処理していると、クイクイっと袖を引っ張られた。釣られてそっちを見ると、コウも口をあけて待機している。


「あーん」


 コウに運び、すかさず読み子さんにも運ぶ。そうやって二人の口の中へと甘い何がしさんを運ぶ作業に徹していると、スイーツさんたちは全て消え去った。

 すかさず立ち上がって何処かへと行っては、また僕の皿へと盛り付けて口を開ける二人。自分で食べる気はないのかあんたらは。


「・・・ねぇユウ?何時もこうなの?」

「ああ・・・気にしたら負けだ。あ、ソレくれ」

「どうぞ」


 僕は全く食べて無いのに、僕の前の料理は減っていくという謎の現象が起き続けていく。読み子さんにコウ、そして彼女から発せられるプレッシャーによって、僕の精神も削られていく。

 まぁ、たまにはこんな夕食もいいか。



□ □ □ □



 ロビーに誰も居ないことを確認してこっそりと抜け出す。日が落ちているので、外気温はとても寒い。

 今頃読み子さんたちは温泉できゃっきゃと楽しんでいるんだろう。


「来たか」

「ああ、準備は?」

「もう出来てる」


 暗がりでは悪友が先に待って白い息を吐いていた。その後ろでは組み立てられた梯子が掛かっている。他の人が見たらただの梯子だろうけれど、僕らには栄光の架け橋に見える。

 ギシギシ揺れるそれを一歩一歩踏みしめるたび、ココまで重い思いをして分解された梯子を運んできた事実が報われてく気がしてくる。

 やがて震える手が宿の屋根へと手を掛けた。最後の力で登ると、辺りを一望出来る。そう、露天風呂も。決して覗きではない!僕らは夢を見るだけだ!


「そういえば彼女は?」

「心配しなくても、読み子さんたちとお風呂に行ってる」

「お前・・・休んだほうがいいんじゃないのか?死にそうな顔してるぞ」

「馬鹿いうな。今日という日のために準備してきただろう」

「愚問だったな」


 熱意を込めて返すと、さわやかな笑顔で返された。僕らは今一つだ。

 懐中電灯の明かりの下、せっせとばらしていた集音マイクや双眼鏡を見立てていく。早くしないと彼女達が上がってしまい計画が頓挫してしまう。そんなことなら早くに準備しとけ、と思う人も居るだろう。馬鹿なことを言うな、そんなことをしたら、どうしてこんなことをしてるんだ?という切なさと外気温で凍死しかねない。しかも夜中に野郎が二人居なくなるとか、あまりにも怪しすぎるだろう。よからぬ噂が立つのだけは全力で回避したい。


「出来たぞ」


 震える手で集音マイクをセットすると、聞こえる聞こえる。桃色の天使達の声が。


「ほら、お前の分だ」

「あ、ああ」


 震える手で双眼鏡を受け取ると、早速覗き込む。

 画面いっぱいに白いものが見えた。

 不思議に思って一度目を離して露天風呂のほうを見てみると、向こうが見えないほどの湯気が上がっていらっしゃる。

 どうしても認めたくなくて、震える手で再び双眼鏡を覗き込む。

 気のせいか、レンズ越しに見える白いもやが滲んで見えた。


「な、なぁ・・・」

「・・・なんだ?」

「僕の双眼鏡壊れてるのかな・・・白いものしか見えないんだけど・・・」

「き、奇遇だな・・・俺も見えない」

「・・・」

「・・・」


 マイクからは「読み子さんってスタイルいいよねー・・・へっへっへ・・・」「ひゃ、や、やめ・・・!」とか「おねーさんスベスベー」「コウ様こそスベスベですね」「くすぐったいのー」等という桃色トークが聞こえてくる。だが視覚として捉えれるのはは白いもやだけだ。つまり、僕らからは白いもやが桃色トークを放っている様にしか見えず、つまりそういうことだ。

 何だこの生殺しは!


「なぁ・・・僕ら・・・一体何のためにココまで・・・」

「ソレは・・・それだけは言っちゃだめだ・・・!」


 白いもやを見ながらぽつりと呟くと、哀しみを振り切るようなユウの声が聞こえてきた。

 気付けばチラチラと雪も降ってきて、寒さと今までの苦労が空しさとなって、僕らの身に牙を剥いてくる。けれども諦めきれず、双眼鏡をのぞき続ける。結局生殺し状態は読み子さんが温泉からあがるまで続けられた。

 その時、夢の跡となった僕らの、声にならない咆哮が屋根の上であがったのは言うまでも無い。

うんまぁ・・・心が折れたんです

これであと1ヶ月休めるね!


え?ダメ?


少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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