最終戦争の後に燃え尽きたりしたとか何とか
2話目が早いのはもはや鉄則
関係ないですが、入院して治った頭痛と吐き気がぶり返してきました
まだ軽いものなのでスルー中
人物表
主人公
名前なんて無かった 第2話でロリコン疑惑浮上
自称未来が読み子さん
一応主人公の彼女 主人公ラブ 研究員
コウノトリ君1号
ちびっ子 主人公好きー 使い魔
彼女
名前なんて(以下略 主人公愛
友人A
きっと名前はあるさ 男です
昔、魔女狩りというものがあった。果たして時代遅れ甚だしいと、当時の人は思ったのか?そんなことはわからないが、実際に魔女狩りと言う名目で大虐殺が起きたのは事実。
魔術師であった人も。
魔術師を志していた人も。
そして全く関係ない人も。
等しく魔女狩りという名の下に殺された。そもそも、魔法を使えない人など居ないといわれていた時代に魔女狩り等をするのがおかしい。
けれども、最悪とは行かないまでも、最悪に近い終わり方で魔女狩りは終わりを告げた。
両陣営のトップがいきなり暗殺されたのである。目撃したであろう人は全員殺されたので、犯人は不明。
「ちょっと待ってください、ソレ本当に出るんですか?」
「ん?確実とは言えないが、私は出ると思うぞ?」
「そうですか・・・」
「うむ、それじゃ続きだが・・・」
冬の寒さも本気を出してきたこの時期になると、学生たちは最終戦争への準備を始める。具体的に言うと、目は血走り目の下にはクマが住み着き始め、うわ言のように単語を唱え続ける。人はその状況を一夜漬けと呼んだ。
当然、その阿鼻叫喚ともいえる地獄の試練には僕も例外ではなく、心配するコウを退け、もはや日本語なのかどうか疑いたくなる読み子さんの説明を聞き流し、彼女から発せられる甘い誘惑に屈したりして最終戦争へと身を投じた。
もしもこの戦争で出た結果として赤い物なんかが出たりすれば、読み子さんとコウは涙目になりながら『おやすみのよていひょう』と書かれた手帳を投げつけてくるだろうし、彼女は不貞寝をし起きなくなるので、僕の精神安定が非常に危うくなる。
出来る人は言うだろう、勉強なんて普段からしていればそんなにしなくてもいいんだよ、と。しかし僕は声を声は小さくても良いから言いたい!お前ら普段は勉強してねぇだろ!と。
もしかすると、万が一!中には普段から勉強をしている輩も居るかもしれない。しかし待って欲しい、彼らの言う『勉強』という言葉は花を種から育て、その上で大輪を咲かせるような長期的、かつ地道な作業のことを示すのであり、僕らの言う『勉強』とはパッと咲いてパッと散る、つまり花火の様なものを指している。同じ花でも花火と花じゃ大きく違う。よって僕らは普段から試験勉強などしない。僕らが願うことはただ一つ、打ち上げる花火が線香花火の如く細々と散らないことだけだ。南無三!
もしも線香花火の如く散ってしまった場合、その後に残るのは春季補習という血も涙も無い4文字のみだ。暖かい教室で眠気と戦いながら、教師と生徒が向かい合いひたすら補習を続ける。得をするのは誰だ。
かくして、ぼろぼろになりながらも最終戦争を乗り切った僕らの前に待ち受けているのは、なぜか期末試験後に1日だけある、『特別な理由が無い限りは絶対でなれければいけない補講予備日』という無駄に名前が長く、しかし拘束時間は朝から昼までと微妙に長い1日の出席だけになった。
別名として救済処置日とも言われるこの日、当然ながら常にレッドゾーンぎりぎりである僕も出席しないとかなりヤバイ。
□ □ □ □
目覚ましのベルが鳴り響く中、眠気が強く残る体を強引に立たせるとコーヒーの準備を始める。
「旦那様…今日は動かないほうが…」
心配そうにしている彼女に声を掛ける元気は出なかったので何とか微笑みかけ、コーヒーの粉を手に取る。すると突如ぐらり世界が揺れたかと思うと、僕の体は何かやわっこいものへと倒れ落ちた。
「旦那様?ナニヲしていらしているのですか?」
「うー…?」
暖かくやわっこいものからの声と、彼女からの冷たい声が倒れている僕に降り注ぐ。やがて、そのやわっこい小さき人は何を思ったのか、掛け布団越しに僕の体に抱きついてすやすやと眠りに落ちていった。突き刺さる誰かの視線、吹き出してくる暑さとは違う嫌な汗、認めたくない現実。
「そうですか…やっぱり旦那様はそういう小さな方がお好みと…?ほぅ…?さ、どうぞ続きを為さって下さい?倒れこむほど好きなのでしょう?」
「…」
きょ、今日はよく喋るのですね?、とは思いつつもそんな言葉を綴ることは出来るはずもなく、浮気現場がばれた夫の気分ってこんなものなのカナーと現実逃避をするしか無い次第。いや、一応僕が付き合ってるのは読み子さんなのだけれど…どっちも拙いなこんちくしょう。
とはいえ、僕も自分の意思で朝っぱらからやわっこくて小さき人とラブシーンを演じているわけではない、体が動かないのだ。おまけに寒気もしてきた。『何時でも何処でも春模様ストーブ』にも限界が出てきたんだろうか。
ソレがわかるはずの彼女は満面の笑みで絶対零度の視線を送るという器用なことをし続けているし、読み子さんという爆弾は静かなカウントダウンを始めている。そして唯一残された希望であり原因であるコウは、僕に寝技を掛けたまま夢の旅人。
落下の衝撃でぼーっと回り続けている頭に妙案が閃くことも無く、僕の運命は決したかのように思われた。
「はぁ…全く、旦那様は仕方のない人ですね」
救済の女神はそう僕に微笑むと、なぜか僕の頭を自身の膝の上へと乗せた。
「動けないのでしょう?」
嬉しそうな彼女の膝枕という天国の裏では、僕に津波の如く押し寄せてる疲労感という地獄があることに彼女は気付いているのだろうか。
…たぶん知っててやってるんだな、という結論を出すと同時に僕の意識は体から外れた。
□ □ □ □
その後、起きたコウが死んだように倒れて居る僕を発見して騒いだり、その声で起きた読み子さんがさらに騒いだりと大騒ぎをしていると、登校時間となった。登校するのは読み子さんだけ、いわゆる僕は病欠。原因は連日連夜の勉強による体調不良ってことにしておいた。大方合ってると思うし。数日たって回復しなかったら、病院に行くことにしよう。
「少年、私が付いてなくても本当に大丈夫なんだな?」
「コウも居るし大丈夫だよ」
「そ、そうか…」
その後も読み子さんはなにやら理由をつけては学校を休もうとしたが、ついに諦めたのか友人についていった。彼女は極度の方向音痴で、放っておくと何処に行くかわからない。それにしても寮から学校まで約3分。何処に迷う要素があるんだろう?
どうやら彼女は二度寝に入ったのか姿が見えなく、部屋に残されたのは割烹着姿の小さき人と、ベットの中で寒気と頭痛、そして救済処置欠席という現実に耐えている悲しき学生が一人。
「おにーさん大丈夫ですか?」
「まぁ…それなりに大丈夫」
ボクは心配そうに覗き込んでくるコウの頭をなでると、布団の中にもぐりこんで眠りに付いた。
我が校には特に理由もわからず補講を休んだ学生を取り締まる、補講取締サークルというものが存在する。彼等は無断で補講を休んだ学生の下に行っては理由を聞き、その理由が正当なものでないと判断した場合は連行する、というのが表向きな活動内容。当然ながら、彼らは先生受けが良い。
しかしそのサークルに入るものは欠席が0の健康体であり、さらに成績が中間辺り、そして話がわかりノリが良いという、厳しいんだか厳しくないんだかわからない条件がある。
この条件にはきちんと理由が合って、まず補講取締サークルが補講を休んでは元も子もないし、僕らの様な成績がヤバイ組は試験前夜の戦いで健康を害する可能性が高いのでダメ、さらに読み子さんの様な『単位が取れるのは当たり前、その上でどれだけの点数が取れるのか』というスコアアタック感覚で試験を受ける連中は先生の受けなんて気にしない、そして最後だが、学校をサボって友人と遊んでいた等という理由でも彼らの中では正当な理由とされる。コレが補講取締サークルが学生たちに嫌われてない大きな理由。
彼らの真の活動とは、不正な理由で補講を休んだ学生を正当な理由で休んだことにすることである。故に話がわかりノリが良いことは最も重要視される。しかし侮る無かれ、そんな彼らにも許せないものがある。
たとえば学校を休み彼女といちゃいちゃデート何ぞした日には、健全な学園生活の名の元に彼らはそのカップルの元へと参上し、お相手のことなんて気にもせず休んだ理由を聞き出し、デートを破壊していく事もあるのだ。仏の顔にも般若はある。
そんな彼らは今現在、なぜか僕の部屋に居て、なぜかコウの出したコーヒーを飲んで談笑をしている。ボクの休んだ理由は健全な内容であるし、彼らが現れる必要性は全く無いのだが、どうもボクの部屋に行くと美人の女の子と一緒に居られるというよからぬ噂を流した奴が居るらしく、時には補講を休むように闇討ちさえされかけた。
しかし、僕の成績を知るや否や泣き崩れるものが後を絶たなくなり、今や補講取締サークル内で僕の成績は禁句とまでなっている。理不尽さに泣きたい。
彼らはそんな低空飛行を続ける学生のことも気にせず談笑を楽しんだ後、それじゃそろそろ…とか何とかまるで別れを惜しむカップルの様なことを言いながら去っていった。本当に談笑しかしなかった。二度と来るな。
「ばいばーい」
コウはそんな彼らにも微笑ましく手を振った後、ちらちらと僕のほうを見ては何かを考えている様にしてうーうー唸っている。
「おにーさん、寒いー?」
「ちょっとね…」
何を考えているかは知らないけれど、正直に答えておく。
するとコウは何か閃いた様に笑顔になると後ろを向いて服を脱ぎ始めた。パンツしか付けていない、健康的な平たい肢体が蛍光灯の下に少しずつ晒される。それにしても、健康的ということ以外何も感じないのは哀しむべきか否か。
「そんな熱心に見つめて…やっぱり旦那様は小さき人がお好きなのですね?」
何時の間に起きたのか、彼女が僕の枕元に座っていた。そして僕が何もいえない事をいいことに、僕を追い詰めて遊ぶ。
「私も小さいときに旦那様の毒牙に掛かったが故に…」
「いやそれはない」
「ほぇ?」
「いや、何でもない」
思わず出た声にコウが驚いたように振り返ったので、僕は出来る限りの速度で首を回し、激しい動きに伴う首の痛みと頭痛に悶絶したりした。こう…振り向かれるといろいろと見えちゃうので。
せめて僕は紳士であり続けたい。
「そんなに必死になって・・・私のことは空気の様なものだと思ってくださってよろしいんですよ?ほら、見たいのならチャンスは今ですよ?」
なおも激しくなる彼女の言葉攻めに耐え抜いていると、やがて衣擦れの音が止み、とたとたと近づいてくる音がした。
そしてコウはそのまま僕の布団の中に入り込むと、僕の背中にぎゅっと抱きついてきた。背中全身で感じるやわっこい何かと子供特有の高い体温。
「…うー?」
コウはなにやら悩んだ様子でもぞもぞ抜け出すと、今度は僕の正面へと潜り込んで抱きついてきた。そのまま硬直する僕の手を自身の体に回し、まるで抱き合っているかのよう。
「えへへー♪」
そして満足したのか、彼女はにこーっと笑うと目を閉じた。彼女も言葉攻めに飽きて眠りに付いた様で、何ともいえない格好で一人残された僕。
やがて、あったかい抱き枕を抱いている僕の意識もまどろむ様になっていき、本日3度目の眠りへと落ちた。
□ □ □ □
目を覚ますと我が部屋の癒しであり、学生寮内のマスコット的立ち位置でもあるはずのコウが茶髪の野郎に変わっていた。僕が寝ている間に世界が終わったのかと思った。
「お、やっと起きたか」
そしてそいつは僕が起きた事を知ると、猫みたいな人懐っこい笑みを向けてきた。誤解の無いように言うが、僕は自分が寝てる間に野郎を部屋に招く趣味は無い。男なら誰だって目覚めのコールは野郎じゃなくて女性がいいと思う。
「なんでお前がここに居るんだ?」
「友が寝込んでいると聞いたのに…大人しく学校に居られるわけ無いだろ!」
僕が聞くと、大げさに箸を振り上げながら逆切れする茶髪野郎。台所からはコウが何かを焼いているような音と匂いがしてくることから、どうやら今は昼食時らしい。
だがそんな建前に引っかかるのは、今や絶滅危惧種とまで言われる純真無垢な可憐な少女か、コイツに恋してる見る目がない少女くらいだ。ということでリピート。
「で、何でお前がここに居るんだ?」
するとコイツはうむ…と真面目な顔になると。
「金貸してくれ、ついでに飯食わしてくれ」
とかのたまいやがった。頭に何か湧いているんだろうか?
「まぁそんな目で見るな、何も無料で貸して貰うわけじゃない。貸してくれたらコレを代わりにやろう!」
僕が彼女が放った絶対零度の視線を真似ようとして失敗し、まるで死人がすがりつくような視線を向けていると、堪えきれなくなったのか懐にある小瓶を渡してきた。
「・・・何コレ?」
「どうも風邪薬らしい…ある日部屋のポストに入ってた」
「お前はよくわからないものを代わりに渡すのか…」
確かに小瓶のラベルには丸っこい字で『かぜぐすり』と書いてある。しかしどう見ても風邪薬には見えない黄色のソレは、僕が受け取るとちゃぷんと波を立てた。
「まぁいいけどさ…いくらだ?」
「おお!やっぱりお前に頼ってよかったよ!」
まるで小躍りをしそうな彼こそ、腐れ縁という嫌な縁で結ばれている悪友である。彼は学校を一度もサボらずにいる僕とは正反対に、己の限界を試す!などという意味不明の理由で学校をボイコット、成績では常に僕と勝るとも劣らない激戦を繰り広げている。
しかし、そんな彼はその持ち前の美形と付き合ってみるとわかる人懐っこさ、そして誠実さで女性にはそれなりの人気があるようで、日々告白をされているとか、何とか。だが、彼はある理由からその告白を全て断っており、振った女性の数は今なお更新中である。
その理由として、彼は日々『メリーさんファンクラブ』なる怪しい集まりの幹部として暗躍しており、雨の日も風の日も、常に一人の女性のために動き続けるその姿勢はある種の感銘を受けざるをえない。それにしても、一体こんな男の何がいいのか…。
「あ、おにーさんおはようございます」
「うん、おはよう」
そんな馬鹿話をしていると、台所からコウが大きな皿を抱えて戻ってきた。そしてちゃぶ台の上に並ぶ料理の数々。ちなみに今のコウは裸ではなく割烹着姿。
「おにーさんは雑炊でいいですか?」
「それでいいよ、ありがとう」
「あい、わかりましたー」
ちょこちょこと動き回るコウを微笑ましい気分で眺めていると、隣に居た野郎が意地汚くぱちぱち箸を開いたり閉じたりしている様子が見えてげんなりとした。
やがて食事が始まるや否や、そいつはばくばくと目の前の料理を平らげ始めた。
「相変わらずよく食べるな…」
「作りがいがありますねー」
コウよ…こいつのためにそんなに作らなくてもいいんだぞ?
読み子さんががつがつと食べるなら、こいつはばくばくと喰う。しかも二人とも食べる量は大して変わらない。こいつと読み子さんが居たらエンゼル係数がすごいことになりそうだ。二人とも大食い店では要注意人物としてマークされている。
やがてその食事も終わると、奴は何事も無かったかのように帰っていった。本当に金を借りて昼食を取りに来ただけらしい。しかし今日は最期の足掻きを見せる日なのだが、成績は大丈夫なんだろうか?
「もしかして飲むおつもりですか?」
奴の残していった黄色い風邪薬?を眺めていると、突然彼女が話しかけてきた。
「いや…飲む気は無いんだけど」
火に油をくべて面白がるような奴の残したものである。飲んだらどういうことが起きることかは想像が付きづらい。かといって、捨てた場所で何かが起きたりするとそれはそれで目覚めが悪い。
はてさて…どうしたものか。
「おにーさん何持ってるんですか?」
「あいつが持ってきたものみたいなんだけどね。僕はこのとおりだからどうしようかと思ってさ」
興味津々に聞いてくるコウに小瓶を見せると、彼女は「ほぇー」と目を輝かせた。かぜぐすり、の字を見せない事に他意はない。
「よければ…飲む?」
「うー…?コウが飲んでもいいのですか?」
「うん、いいよ?」
別に興味津々なコウに勧めたことにも他意はない。だがしかし!本人が飲みたいと言っているのだから、コレは飲ませてもいいんじゃないかな!?
しばらくコウはうーうーと唸っていたが、やはり好奇心には勝てなかったのか小瓶をごきゅごきゅと飲み始めた。何だかわからない液体を…それはもう見事に。
「…」
「…」
その様子を固唾を呑んで見守る僕と彼女。
やがて小瓶も空になった様で、コロンとちゃぶ台の上に転がった。
そのまま数分の時が流れる。
(何も無かったのでしょうか?)
(うん…そうかもしれないね)
動かなくなったコウの方を見ながらひそひそと彼女と会話をしていると、突然コウが「んっ…」と色っぽいような声を出して僕の方を向いた。
コウの顔は赤く息が荒く、その目はとろん、と夢現。
「コ、コウ?」
僕が呼びかけると、彼女は何故か服をはだけさせると僕のほうにもたれかかってきた。
「おにー…さん…体がね…暑いのー…」
コウが甘えるような声を出す度に僕の首筋へと荒っぽい息が掛かってくる。そして密着させるように押し付けられる、やわっこい何かが僕の理性を溶かそうとしてくる。そして逃げようにも服を掴まれていてうまく逃げれない。
僕は何とか彼女に助けを求めようとしたのだが、彼女はそんな僕の様子を笑ってみているだけで全く助ける気は無い。つまりかなり拙い。
もしもこのままの状況が続けば、僕の鉄となりつつある理性もいずれは溶かされ、既成事実、読み子さんと彼女の冷たい視線、とらなくてはいけない責任、ロリコンで自分の欲求のために使い魔を呼び出したと後ろ指を指される日々、逃避行、その果ての孤独死、と今後の展開が走馬灯の如く僕の脳内を駆け巡る。あの野郎、何て物を持ってきやがるんだ!
今はまだ、既に去っていった悪友を罵倒することで、現実から襲い掛かってくる様々な誘惑から逃れているが、ソレが費える事もそう遠くは無いだろう。
「にゃんとか…して…くれるですか…?」
僕にしがみつくようにして荒い息のコウが言ってくる。
「・・・」
ふと思ったのだが、このまま状況に流されても読み子さんは許してくれるのではないだろうか?確かに、コウの見た目はアレだし世間の目は冷たいだろう、しかしそんな荒波を乗り切ってこそ真の紳士としての…。
そこまで考えたところで、僕の首筋をコウがチロリと舐め、僕の理性は臨界点を突破した。
「んっ…」
僕は心の中で咆哮をあげると、もたれかかっている彼女を押し倒した。
「おにいさーん…」
目の前で潤んだ目のコウが囁くように呟いた。
そして僕は一世一代の力を全て振り絞ると全力でトイレへと逃げ込んだ。
「…旦那様はヘタレですね」
ドアの外で僕のことを呼ぶコウの声と急激な運動に伴う頭痛や吐き気に必死に耐えていると、彼女が冷たく言い放った。何とでもいえ!
そのままトイレで声がしなくなるまで数分、そして念には念を入れてもう数十分ほど取り残された最後の砦に立て篭もってから出ると、コウは眠りに付いた様で穏やかな寝息を立てていた。
はだけている服を直そうと努力するも服の構造がわからずに諦め、さらにそうしている自分が酷く惨めに思えてきたので、タオルケットを一枚掛けることでいいことにした。
とはいえ、今布団はコウが占領している状況であり、このまま昼の睡眠と行くのは二次災害が怖い。
「外、出よっか?」
「よろしいのでしょうか?」
ということで反応の悪い体を引きずりながら、久しぶりに彼女と外へと出ることにした。
□ □ □ □
外に出れば季節を主張する寒風が自重せず、出て数分で後悔したことはいうまでも無い。山中に学校を建てようとしたのは何処の誰だ。
それでも何とか足を踏ん張って山道を登って行くと、突然開けた広場へと出た。
生えている木が全て桜であり、見物客はほぼいないという花見の穴場ともいえる。ただ今は冬、ピンクの吹雪は無く何処か切なくなる木達が辺りを包んでいる
ちなみに花見の季節になるとこの場所には悲しそうに桜を見ているドレス姿の金髪美人やら、ちっこいメイド服の少女やら、やたらと酒を飲み続ける銀髪の女性やらが現れるというもっぱらの噂だが、目撃者は非常に少ない。
「知ってますか?旦那様」
広場に着くや否や、笑顔で駆け出した彼女が回るようにして言う。彼女が回るたびに、流れるような銀色の髪や黄緑色の浴衣の裾も回るので、この場所で唯一咲いている花にも見える。
「桜の木の下には死体が埋まってるんですよ?」
何でも、一番大きな桜は死体が埋まっていてもおかしくないほど狂気に満ちた美しさを誇るとか何とか。生憎と僕も彼女も桜は苦手なので、近くに住んでいても拝見したことは無い。
そのまま彼女は嬉しそうにくるくると回り続け、やがて僕の手をとった。
「桜の木を見るとお祭りを思い出しますね」
「そうだね、あの時は夏だったけど」
夏の暑い日、二人で抜け出して祭りへと行った事がある。そのときの道中にとても綺麗な葉桜があった。
「ねぇ旦那様?」
街を見下ろしながら彼女が言う。夏の陽光に照らされた街は光り輝いており、その中央には建設途中のまま放置された大きなタワーが見える。
「旦那様は…何時になったら私を忘れられるのでしょうね?」
彼女がそう言った瞬間、風が止んだ気がする。
「さぁ…僕は忘れられるのかな?」
「忘れられますよ」
街を見下ろす彼女の顔は、花が咲くような笑顔。
「だって、旦那様には素敵な彼女が居るじゃないですか」
二人の間を強い風が吹いた。
思わず目を閉じてまた開くと、彼女は眠りに付いたのかそこには誰も居なかった。
「忘れ・・・られるのかな?」
「…少年?」
誰もいない空間にぽつりと呟くと、後ろから声がした。
「読み子さん?」
「うむ…どうした?何か悲しいことでもあったのか?」
振り向くと読み子さんが心配そうな顔をして僕を覗き込んできた。
「ううん、大丈夫ですよ。それより読み子さんはどうしてここに?」
「う…い、いや…そのだな…私は…その」
僕が聞くと、読み子さんは赤い顔で何やら言いづらそうに街を見たり、桜のほうを見たりして僕と目を会わせようとしない。まぁ、大方迷ったんだろう。
「まぁいいですよ、それより帰りましょう?」
「う、うむ。帰ろうか」
その後、手がもじもじと何かを伝えたそうに動く読み子さんと手を繋いで歩いたり、帰り途中の山道で力尽きた僕が倒れかけたり、半裸のコウが読み子さんに見つかったりして大騒ぎになったが、その日は彼女を見ることは無かった。
まぁ、ストックはあと1話あるんですけどね
正直連続で投稿するとここに書くことが無い・・・
まぁそんな事で
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです




