第六話
あれから2週間。
今日はフィリップ様とリディア様の結婚式だ。
式は正午からだが、早朝から入れ替わり立ち替わり人が出入りし、お祝いの電報が届く。
それらの人に応対し、電報をまとめる。
招待客リストをもう一度確認して、鏡の前で髪の毛を結びなおす。
ひと段落ついたところで王宮内の大聖堂に行って飾り付けを最終確認。
10時からはリディア様たっての願いで、私が着付け・髪の毛・お化粧を担当する。
11時からは招待客が入場する。
私は廊下を早歩きしながら小さくため息を吐いた。
まだまだやることはたくさんある。
大聖堂は北塔と南塔、中央塔が三角形に配置されている、その真中にある。
侍女室からは歩いて約7分。
全く、遠すぎだ。
3階から2階に向かう途中の階段で、私は誰かとすれ違った。
「あれ、ティカ殿ではありませんか。」
声の方を見ると、そこにいたのはあの黒い笑みを浮かべたセシウス様だった。
なんだか悪寒がして、一歩後ずさる。
・・・が、そこに踏み場があるはずがなく、平衡感覚を失う。
やばい・・・どうしよっ
来るべき痛みに備えてぎゅっと目を閉じた瞬間、右手を強い力で引かれていた。
「きゃっ」
「大丈夫ですか?」
階段を踏み外しそうになったのを支えてくれたのは、やはりセシウス様で。
目の前にある顔は美術品のように精巧だ。
鼻筋がすっと通っていて、肌はすべすべ。唇は薄く、今日は髪が後ろに撫でつけられている。
それでも、この前のように獲物を狙う切れ長の瞳も変わっていない。
それにしても、何やら腰を撫でられている気がするのだが・・・
ぞくぞくっとして、私はばっと離れた。
「あ、ありがとうございました!あの、次から気をつけますので!失礼します!」
人間、せっぱつまるとまともな言葉が出てこないものだ。
熱くなった頬を抑えながら、大聖堂に向かった。
後ろから私を見てにやりと笑っている男に気づかずに・・・
急接近です。