第四話
1階の連絡通路を使って北塔に入り、階段を上って2階へ。
着いたのは怪しげな匂いのする廊下だった。
「ここは薬事棟。とりあえず医師を紹介するわ。」
サクラは扉を2回ノックすると、返事を待たずに部屋の中に入った。
いいのかしら、勝手に部屋に入っても。
躊躇したものの、アリーもミリーも普通に入っていくので、私も同じようについて行った。
「こんにちは、サクラよ。あら・・・誰もいないのかしら?」
中はハイスクールの保健室のようなところだった。
広い薬品臭い部屋の中には、簡易なベッドが4つ、机が2つ、薬が入った棚が2つ。
あとは私たちが入ってきたドアのほかに3つのドア。
しかし、私たち以外誰もいない。
「うーん・・・どうしたのかしら。」
「隣の製薬室にいるのではないかしら」
アリーとミリーが一つのドアに向かう。
そのとき、そのドアが開いた。
「すいません、研究に熱中していまして・・・」
あっ・・・
その瞬間、自分が恋に落ちたのが分かった。
癖のついた黒髪、すらっと長い脚、困ったように下がる眉。
ものすごい美形というわけではないけれど、私の好みど真ん中。
「全く、ビア!あなたってば・・・」
サクラが呆れたようにため息をつくと、私のほうをちらりと見てから、ビアと呼ばれた男の人をもう一度見た。
「ビア、こちら、リディア様の新しい侍女のティカ。ティカ、こちら王宮医師のビア。」
ビアは私のほうに歩いてくると、右手を差し出した。
大きな手・・・長い指・・・
はっと気付くと、私以外のみんながじっと私を見ていた。
ついまじまじと見てしまった。
恥ずかしい思いをしながら彼の手をとると、あたたかい。
「はじめまして、ティカです」
「はじめまして、ビアです。それにしても、ティカさんの手、冷たいですね。これは末端冷え性ですね。ほっとくと低体温症になり、生理不順、頭痛を引き起こします。これにはあの薬がいいな・・・ちょっと待っていてください。」
彼はそう言うとさっき出てきたドアにもう一度入って行った。
私はと言うと、一気に言われた言葉をとっさに処理できず、ぼーっとしてしまった。
アリーが苦笑しながら手前のベッドに腰掛ける。
「ビアはね、ものすごく頭いいんだけど、あの通り研究者気質でね・・・まぁ本人に悪気はないの。」
ガチャガチャ
ドンッ
パリーン
すさまじい音にぎょっとして3人を見るが、ドアの向こうでいったい何が起こっているのか、サクラもアリーもミリーも気にならないようで、楽しそうに何かを話している。
ドンッ
ガチャ
しばらくすると、ドアが開いてビアが出てきた。
なぜか髪の毛が濡れている。
「はは、すいません。どうぞ、これ。寝る前に一粒飲んでください。」
「え、あ、ありがとうございます・・・」
受け取ったものは褐色の瓶に入った錠剤のようなものだったが、ラベルは貼っておらず、中身が一体どのようなものなのか分からない。
とはいえ、持ってきてもらったので私はとりあえずお礼を言って、3人と一緒に部屋を出た。
ビア登場です。
登場人物が増えていきます(*^_^*)




