第二十四話
鳥のさえずる声がする。
私は枕元の時計を見た。
朝5時50分。
実家に戻ってきたというのに、王城での生活リズムのままの私は目が覚めてしまった。
隣に眠っているマーガレットを起こさないようにベッドを抜け出し、パジャマから着替える。
膝丈ふんわりしたの紺色のスカートに七分丈のニット。
王城にいる間はほとんど私服が必要なかったので、これを着るのも久しぶりだ。
リビングに行くともう両親は起きていた。
「あら、早いわね。」
「うん、ちょっとね。あれ、お父さんどこ行くの?」
まるで旅行に行くかのような格好のお父さんは、少しさびしそうにお茶をすすっている。
「ビダンティウスですって。知り合いに会いに行くから1週間ほど帰ってこれないのよ。」
だから落ち込んでいるのか。
それにしても私と入れ違いになるなんて・・・
商人という職業上、出張は多いからしょうがないのかもしれないけど。
「あなた、そろそろよ。」
お父さんは名残惜しそうに立ち上がり玄関に向かう。
私たちもお見送りのためにそこへ向かうと、お父さんはお母さんを抱きしめた後、私を抱きしめた。
口がへの字に曲がっていて、今にも泣き出しそうだ。
全く、いい年した大人が・・・と苦笑して頬にキスすると、お父さんは嬉しそうに家を出て行った。
「行っちゃったね。ねえ、お母さん。何か手伝うことない?」
「そうね、裏の庭からレタスと胡瓜とトマト、あと卵も持ってきてくれる?」
分かった、と返事をするとすぐに裏庭に向かう。
この国では自給自足は当たり前。買うことはもちろんあるけれど、作れるものは自分で作るがモットーだ。
ビダンティウスではこうではないのだろうな~
いや、農民はそうかもしれないけれど、貴族様はみんなこんな土にまみれることなんてないのだろう。
きっと、セシウス様も・・・
そこまで考えて頭を左右に振る。
どうして無意識に彼のことを思い出しているのだろう。
「お母さん、持ってきたよ~次は?」
侍女という職業柄、いつでも何かをしていないと気が休まらないのだ。
お母さんは少し迷った後、パンを買ってきて、と言ってお金を渡してくれた。
パンを買うときは、家から歩いて15分のミゼルさんのところで買うのが普通だ。
道中、色々な人に会って、声をかけられた。
「ティカちゃん、いつ帰って来たの?」
「リディア様はお変わりない?」
「久しぶりね~」
「綺麗になったわね~」
って、最後のはおかしいと思うけど、まぁきっとお世辞なのだろう。
ときどき立ち止まって話をするので、ミゼルさんのところに着くころには7時になっていた。
「おはようございまーす!パンを下さい。」
奥から出てきたミゼルさんは、愛想良くパンを包んで渡してくれる。
お金を出すと受け取り、そのあとじーっと私の顔を見て、驚いたように言った。
「・・・って、あらティカちゃんじゃない!久しぶりね~まぁ~綺麗になって!何年ぶり?6年ぶりかしら?」
奥から出てきてマシンガンのように話し、カウンターを超えてこちらに来てしまった。
すごい身のこなし。
「あらあら!近くで見ると本当に綺麗ね!最初誰か分からなかったわ。うちのシアンと同い年だから、もう17歳なのよね!」
シアンは私の幼馴染。
しばらく会っていないけど・・・
「そろそろうちにお嫁においで!ちょっと待ってね、シアンー!!シアンー!!」
ミゼルさんは奥の部屋に叫んでしまった。
あああ・・・