第一話
「はー、緊張した。ね、ティカ?私、大丈夫だった?変じゃなかった?」
大広間で謁見を終えたリディア様は、あてがわれた私室に入ると、ベッドに勢いよくごろんと横になった。
オレンジのドレスのすそがまくれあがる。
しかしそんなことは気にならないみたいで、天井を見つめ、ため息を吐く。
「ええ、立派でしたわ。」
とても大国に嫁いできたと思わせないような様子のリディア様を見て、私は苦笑した。
私とリディア様は小さいころからずっと一緒というわけではなく、2年前に知り合ったばかりなのだけれど、年の近い侍女である私をリディア様は信用して下さっているようだ。
もちろん私もリディア様を信用しているけれど。
「これからは毎日あれなのね。息が詰まっちゃうわ。」
リディア様はまた大きくため息を吐くと、腕を天井に向かって大きく伸ばした。
ここ、ビダンティウスは商業と鉱業が非常に栄えていて、国土も人口も私たちの祖国であるフランティアの10倍以上ある。
もともとそれほど仲が良くも悪くもなかった両国だが、今回の結婚でお互いの国の利益を高め、ともに発展していこう、というのが表向きの結婚理由だ。
本当の今回の結婚の理由はというと、ビダンティウスの王子であるフィリップ様が、フランティアの王女であるリディア様に恋をしていて、無理矢理こぎつけた、ということだ。
私の情報網によるものだから、確かかどうかはわからないけれど。
こんこん
次の瞬間、リディア様は勢いよくとびおきた。
「失礼します、リディア様、いらっしゃいますか?」
よく通る声でそう聞いてきたのは、おそらくメイドだろう。
私たちは目を合わせると、リディア様がどうぞ、と声をかけた。
入ってきたのは、金髪を頭の上のほうでお団子にした、ネコ目パッチリの美人。
彼女は私たちを見るとにっこりと笑い、お辞儀をした後、口を開いた。
「はじめまして。私、リディア様専属侍女のカナ、と申します。到着なさったばかりでお疲れと思いますが、フィリップさまがお呼びですので、どうぞおいで下さい。」
「は、い。」
では、失礼しますといって出て行ったカナにちらりと目をやったあと、リディア様に目を戻すと、彼女は真っ赤になっておろおろしていた。
きっと、初恋のフィアンセに会うことのできる喜びと不安が入り混じっているのだろう。
私は、リディア様の目の前に行くと、手を握った。
本来ならば許されないことかもしれないが、他に誰もいないし、フランティアではよくやっていたことなので、私もリディア様も気にしていない。
「大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう。」
最後に拝見したのは2年前。一体どのように変わっていらっしゃるのだろうか。
私はリディア様の私室の、重厚な扉を押しあけた。
しばらく進展はありませんが、よろしくお願いします!