第十八話
デザートを食べ終えて、ワインでほろ酔い状態になった私は、来た時と同じようにセシウス様にエスコートされてレストランを出ようとしていた。
ふわふわしてとてもいい気持ちだ。
そのとき、右の方から声をかけられた。
「ホスフィニエの坊っちゃん、こんなところでお会いできるなんて光栄です。」
そちらの方を振り向くと、高級そうな茶色のスーツを着た50歳くらいのおじさまがいる。
とても偉そうな感じなのに、なぜかセシウス様には腰が低い。
「ああ、ガレットの・・・。こちらこそ。」
セシウス様は私から離れないまま、そう返す。
店の入り口付近でこんな話をしていて平気なのだろうか?
「それにしても、美しいご令嬢ですな。名門ホスフィニエ家にふさわしい家柄なのですか?」
それを聞いて、冷水を浴びせられた気分だった。
ホスフィニエ。
どうして忘れていたのだろう。
なんだか聞いたことのある名前だ、と思っていたのは、この大国ビダンティウスの中でも10本の指に入る名門貴族だと勉強したばかりだったのに。
「ええ、まぁ・・・」
セシウス様は言葉を濁すようにする。
それはそうだ。
だって、私の家は10本の指に入る名門貴族とは全く別方向の、小国フランティアの商家なのだから。
先ほどのいい気分はすっ飛んでいた。
「すみません、彼女の気分がすぐれないようなので、これで失礼します。」
「ああ、お引きとめして申し訳ありませんでした。お父様によろしくお伝えください。」
そう言うと、その人は自分のテーブルに戻って行った。
私たちも馬車に乗り込む。
しかしながら、先ほどの朗らかな雰囲気は消え、終始無言だった。
空気が悪くなりました・・・