第十五話
王宮から馬車に揺られること一時間。
私とセシウス様は立派な劇場の前にいた。
前には王宮の紋章が描かれた馬車が止まっていて、中からフィリップ様が出てくる。
さすがというか、なんというか。
白を基調とした礼服に身を包んだフィリップ様はとても美しい。
そのまま、フィリップ様の手を握ったリディア様も下りてくる。
レモンイエローのドレスに身を包み、フィリップ様と微笑みあうリディア様は、王宮で私が着付けをしたのにも関わらず、まるで別人のようだ。
急にリディア様はきょろきょろとあたりを見回すと、恐る恐るといった感じで、私に視線を止めた。
そのまま、フィリップ様と歩いてくる。
「もしかして・・・ティカなの?」
「はい、リディア様。」
私はドレスのすそをつまんで二人に、主人に向ける略式の礼をとった。
行きはそのままセシウス様の馬車に乗せられてしまったので、リディア様に会うことができなかったのだ。
リディア様は信じられない、といった風に大きい瞳をさらに大きく見開いて、2回瞬きをする。
「想像はしていたけれど、とっても綺麗ね。ドレスも似合っているし、なにより、その胸。爆弾??」
急に恥ずかしくなってショールで胸元を隠す。
そう、姿見の前で少し気になっていたんだ。
実は、私の胸はFカップある。
日常生活を送るときには邪魔になり、肩凝りの原因になるので、大嫌いだったが、しょうがない。
「別に、蔑んでいるわけじゃないわ。ちょっと、うらやましかったの。」
リディア様はにっこり笑うとフィリップ様と一緒に劇場の中に入って行った。
私たちも同じように入っていく。
きらびやかなシャンデリア、大きなホール。
開始一時間前だというのに、半分は席が埋まっていて、みんなドレスかタキシードを着ている。
これは、侍女服なんて着てきたらいいお笑い草だわ。
私はひそかに胸をなでおろした。
ドレスを送ってくださったフィリップ様に心から感謝しなくては。
前のお二人は、所詮特別席というものに向かっているのか、普通の席とは違うところに向かっている。
「今日のオペラ、どのようなものですか?」
「椿姫です。ご存知ですか?」
驚いた。
椿姫・・・ビアが私に誘ってくれたものと一緒ではないか。
娼婦ヴィオレッタが貴族の坊っちゃんアルフレードと真実の恋に落ちる。
しかし、アルフレードの父親によって別れさせられる。
その後、病気で死ぬ間際、ヴィオレッタはアルフレッドと再会、しかしそのまま息を引き取る、というお話だ。
かなり有名なお話なので、私でも知っている。
私はセシウス様に頷くと、指定された席に座った。
そしてなぜか、時間が来て隣に座ったセシウス様にドキドキしてしまった自分が不思議で。
暗くなった場内で、頬が赤くなったのがばれないのが唯一の救いだった。
私は特別席から椿姫の舞台に集中したのだった。