第十三話
ついに観劇の日がやってきてしまった!
私はどきどきする胸を抑えながら、何食わぬ顔で午前中を過ごした。
それでも緊張などがにじみ出ていたらしく、侍女仲間のカナやアリーに心配されてしまったけれど。
約束は、午後5時に正門。
それまであと2時間。
リディア様の着付けは終わっているので、あとは自分の着付けだけだ。
私は王族でも、貴族でもないのですべて自分でしなくてはいけない。
この前買っていただいた濃紺のドレスを取り出してベッドの上に広げる。
相変わらず、素敵なドレスだ。
卑屈になりそうな自分を叱咤しつつ、侍女服のエプロンをとった。
スカートを脱いで椅子にかけ、首元のリボンをはずす。
ブラウスのボタンをはずし、畳んで同じように椅子に掛ける。
ためらっていつもの下着をとり、ティディさんに渡された下着をつけた。
極端に布地が少なくて心もとないが、いつものではドレスの外に出てみっともないらしい。
10分後、苦心しつつ、どうにかドレスをすべて着終わった。
恐る恐る姿見の前に立ってみる。
怖い。でも見なくては。
私は勇気を振り絞って姿見を見た。
「・・・大丈夫だ。」
初めてドレスを着てみたけれど、全く見られないというほどではない。
太すぎると思っていたウエストも、コルセットで締めたらそれなりの細さになっている。
安心した私は化粧台の前に座って、髪の毛を軽くまとめ、ピンで前髪をあげた。
下地をつけ、ファンデーションをつける。
水色のアイシャドウと青色のアイシャドウを何種類かまぶたに乗せ、指で押さえてグラデーションを作る。
青色のアイラインで目の淵をたどり、マスカラでまつ毛をボリュームアップさせ、目元にラメを軽く乗せた。
うん、目は終了。
ほっぺの一番高い所に薄いピンク色のチークを乗せる。
リップを塗り、その上から透明なグロスでつやつやな唇を作りだす。
いつもリディア様にしているように、自分にもお化粧をしてみた。
それだけなのに、まるで綺麗になれたようで。
つい、うきうきしてしまう。
髪の毛は、丁寧に編みこんでいく。
イヤリングをつけ、手首までの水色の手袋をはめる。
フランティアで母親にもらった紺色の靴をはく。
最後に、ショールを肩から掛け、もう一度姿見の前に立った。
「可愛い、かもしれない。」
初めてだ。
私が、自分をちょっといいかもしれない、と思うなんて。
カレッジに入った時は12歳で、おしゃれに興味なかったし、15歳で王城に勤めだしてからは忙しすぎてそれどころではなかった。
だから、私がおしゃれをするのは生まれて初めてといっても過言ではない。
もちろん、お化粧はしたことがないわけではないけれども、自信を持てるというのは初めてだ。
はっ!
「時間!」
時計を見ると4時30分。
私はリディア様を迎えに行くため、ドアをあけた。