第十二話
通されたのは広い空間だった。
茶色の革張りのソファが4つあって、促されてそのひとつにリディア様が、そして私が座る。
2人掛けのソファにでん、と座ったティディさんが腕を組んで私とリディア様を見て、にやりと笑った。
「さ、侍女さんはどのようなドレスを御所望で?」
「えっと、なるべく露出が少なくて、丈は長くて、黒で・・・装飾がなくて、地味で目立たないのがいいです」
そう答えると、リディア様が横からえ~っとブーイングをした。
ティディさんも苦笑している。
私、変なこと言ったかな?
馬車の中で必死に考えた末だったのだけれど。
「だめよ、ティカのドレスはあんな感じのピンクのふりふりで、丈が短くて肩が出ているものじゃないと!」
リディア様がほっぺたを丸く膨らませながらとんでもないことを言う。
ぎょっとしながら示されたドレスを見ると・・・
先ほど私がリディア様に似合うと思ったあのドレスだった。
私があのドレスを・・・?
いや、考えただけで目の毒!
街では、若い女性がひざより上丈のスカートをはくことは珍しくもなんともないけれど、私は生まれてこのかたひざ丈以上のスカートをはいたことがなかった。
肩だって、出ているなんて考えられない。
私は勢いよく首を左右に振ると、リディア様を見た。
「リディア様、いくら命令と言えど、私はあんなドレスを着ることはできません!私の脚も肩もさらけ出せるようなものではございません。色だって、ピンクなんて似合わないですし!」
「そんなことないわ!ティカのイメージとは少し違うけど、似合うと思うの!」
私たちが言い合っていると、ティディさんは苦笑しながら奥の部屋に行き、どしどしという効果音とともに一着のドレスを持ってきた。
色は深みのある濃い青。
「これなんて、どうだい?私の見かけでは、侍女殿にぴったりだと思うんだがね。」
それを広げると、長さは膝よりも長そうだった。
全体にドレープが入っていて、裾の部分にきらきらしたスパンコールが縫いつけられている。
ひとつの難点といえば、肩がむき出しなこと。
胸元は大きなリボンのようになっていて、そこから上はない。
「素敵!ティカにきっと似合うわ!それにします!」
少しためらうところがるものの、リディア様がきめてしまったし、ティディさんが、気になるならショールを掛ければ大丈夫とおっしゃるので、それに落ち着くことになった。
くつは持っているもので代用しよう。
私でもお姫様になれるかしら。
リディア様みたいなかわいらしさはない。
サクラみたいな大人っぽさもない。
それでも、ドレスを着てお化粧をすれば綺麗になれるかしら。
私は知らず知らずのうちに上がってしまう口角を隠しながら、リディア様と王城へ戻った。