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【4】エッセイ・創作論

「銀行に預けているお金、大丈夫かな?」と娘に聞かれて。~いつまでも娘のヒーローでいたい父が考えたこと~

作者: すっとぼけん太
掲載日:2026/10/27

「銀行に預けているお金、大丈夫かな?」


長女に、そう聞かれた。


最近、不正アクセスや情報漏洩のニュースが続いている。


タイムズカー。

楽天トラベル。

JR東海の新幹線予約サービス「スマートEX」。

そして、GMO。


名前を知っている会社やサービスばかりだ。

今年、京都へ行ったときに利用したものもある。


これだけ続けば、「自分の銀行は大丈夫なのか」と心配になるのも分かる。


俺は、今の三菱UFJ銀行が東京三菱だった頃から、東京・丸の内で、銀行の大型システム開発に長年携わってきた。娘もそれを知っているので、聞いてきたのだろう。


ただ、関わっていたからといって、「大丈夫。絶対に盗まれない」とは言えない。


……そこまで言えたら、娘も安心するのだろうけど。


娘が子どもの頃は、どんな相談にも乗ってきた。

娘自身が親になった今でも、俺は、いつまでも娘のヒーローでありたい。


頼ってくれるのなら、安心させてやりたいと思う。


だけど、簡単に答えの出る問題でもなかった。


なので今回は、娘に聞かれて考えたことを、少し整理してみようと思う。


個人情報が流出すること。

銀行に預けたお金を、不正に動かされること。


まずは、この二つを分けるところから。


――◇――


その前に、娘が、もう一つ気になることを言った。


「こういうときに、神奈川県の警察が古い免許証を紛失したとかのニュースが出てくるよね」


……鋭いな、お前w


政治家の問題が騒がれているときに、突然、芸能人のスキャンダルが出てくる。そちらが大きく取り上げられて、さっきまで話していた問題が、いつの間にか遠くなっている。


……そんなふうに感じることは、俺にもある。


大きなニュースが続いている今ならと、少し前の不祥事を、どさくさ紛れにぶっ込んで、謝罪まで済ませてしまおうとすることもあるんじゃないか。


娘には、そんな話もした。


もちろん、真実は分からない。

あくまで、俺にはそう見えることがあるという話だ。


「このタイミングか。神奈川県警、やりやがったな」と、つい思ってしまった。


ただ、娘が一番知りたいのは、そこではない。


銀行のお金だ。


話を戻そう、俺。


――◇――


まずは、企業のサーバーに侵入され、そこに保管されていた顧客の個人情報が盗まれることについて。


これを、利用者個人が防げるのか。


俺は、直接は防げないと思っている。


自分のパソコンをどれだけ守っていても、企業のサーバーの中にある俺の情報までは守れない。そこへ入って抱きしめておくわけにもいかないし、提出した免許証の画像を、こちらから勝手に消すこともできない。


信用できそうな会社を選ぶ。

不要な会員登録は減らす。

支払い用のクレジットカード情報は、保存せずに済むなら残さない。

必要のない情報は渡さない。


そのくらいは、できる。


ただ、名前を知っている大企業なら、絶対に安心かといえば、今回のニュースを見ていると、そうも言えない。


本人確認書類を提出しなければ利用できないサービスもある。


その手続きに従って渡した情報を、預け先から盗まれる。


ここで「利用者も気をつけましょう」と言われても。


……そこは、俺には手が届かないんだが。


漏れた情報を使った詐欺に気をつけることと、企業のサーバーから情報を盗まれないようにすることは、別の話だと思う。


――◇――


特に気になるのは、免許証やマイナンバーカードなど、本人確認書類の画像だ。


入会のために必要なのは、分かる。


では、確認が終わった後は?


どうして、その画像を残し続ける必要があるのだろう。


もちろん、金融機関では、本人確認の方法によって、画像などを記録の一部として保存しなければならない場合がある。確認が済んだから全部消せ、と言えるものでもない。


そこは分かる。


ただ、必要だから残すのなら、外部接続のできない別サーバーに保管するとか、厳しく守ってほしい。


また――

保存する画像に「○○社への本人確認専用」と、用途を示す透かしを大きく入れる。

ファイルごとに暗号化する。

開くための鍵は、画像とは別に管理する。


そして嘘っぽいけど――

AIで作成した偽の免許証画像を同じフォルダへ大量に保存しておく。


保存義務や業務上の要件を満たしながら、そういう対策はできないのか。


透かしは、AIなどで加工されるかもしれない。

暗号化しても、鍵や復号する権限まで奪われれば、読まれる可能性はある。


それでも、持ち出した画像をそのまま使える状態と、使うまでに手間がかかる状態では違うはずだ。


盗む側、悪用する側にとっても、時間や費用がかかるようにする。その積み重ねにも、意味はあると思う。


なお、今回のタイムズは、本人確認書類の画像を暗号化して保存していたと説明している。だから、「暗号化もしていなかった」と言いたいわけではない。


そのうえで、鍵をどう管理し、どこまで守れる設計だったのか。そもそも、その期間、画像を残す必要があったのかを知りたい。


タイムズは従来、画像を会員期間中と退会後七年間保有していたという。今回、登録完了後は保有しない方針に変更した。


……退会後も、七年。


それを、今度は登録完了後に残さないことにした。


だったら、これまでは何のために、その期間まで保管していたのだろう。


利用者として、端的な日本語で言いたいことがある。


――ふざけるな!


必要だから渡した。

守ってくれると思って渡した。


退会した後まで残しておいて、そこから漏れましたと言われても、こちらはパンツから尻を出して、中指を立てるだけだ。


「――パパっ!」


――◇――


俺自身、今は解約しているが、以前GMOクリック証券でFX取引をしていたことがある。


なので、GMOの名前を見て、他人事には感じられなかった。


ただ、今回侵入されたのは、GMOが提供する「お名前.com デスクトップクラウド」という、FXの自動売買ソフトなどを動かすためのサーバーだ。


GMOクリック証券そのものから情報が流出したという話ではない。


俺が以前使っていた口座の情報が漏れた、ということでもない。


そこは、はっきりさせておく。


だが、今回侵入されたサーバーを利用していた人のFX口座では、身に覚えのない取引が行われ、損失が出たと報じられている。


一晩で、約百八十万円。


……勝手に取引されて、それだけのお金がなくなる。


自分が以前使っていた口座とは別のところで起きた被害でも、FX取引をしていた者として、ぞっとする。


もし、それが自分のお金だったら。


やっぱり、出てくる言葉は同じだ。


――ふざけるな!!


利用者にしてみれば、預けたお金が、自分の知らない取引で減らされていたのだ。どこから侵入されたのかを説明されても、それだけで納得できるものではない。


GMOグループには、銀行や証券、FXなど、人のお金を扱う事業がある。


そのお金を守ることの重さは、十分に分かっているはずだ。


だからこそ、金融取引に使う環境を提供する責任も、重く受け止めてほしい。


旅行や車を借りるサービスと、銀行や証券会社では、セキュリティに対する危機意識も、そこにかけるべきお金も違う。少なくとも、俺はそう考えて仕事をしてきた。


もちろん、旅行や車のサービスを提供する企業の責任が軽いということではない。


金融業は、人のお金を預かり、動かす商売だ。


そして今回のように、その取引を動かす環境を提供する側にも、顧客のお金に直結する危険を見据えていてほしい。


認証情報を奪われ、不正な取引を許せば、顧客のお金が消える。


それは、商売の根幹を揺るがす。


安心して預けられない銀行に、誰がお金を預けるのか。

勝手に資産を動かされる証券会社で、誰が取引を続けるのか。


信用を失えば、会社の存亡にも関わる。


経営陣だって、それは分かっているはずだ。だから、安全性を守るための予算も人員も、必要なだけ確保しなければならない。


余裕があれば対策する。


……では、困るのだ。


人のお金を扱う以上、そこを守ることが、商売をするための前提だと俺は思っている。


だから、金融取引の安全性に関わる問題を、ほかの業種の情報漏洩と同じように並べて、さらっと流してほしくない。


そこを破られることが、その会社にとって何を意味するのか。

そして、利用者が何を失うのか。


俺が重いと言っているのは、そこなのだ。


攻撃した側が悪い。


そんなことは、分かっている。


そのうえで、預けた側は「守ってくれ」と言っている。


「企業も被害者だから」と言われても、俺は納得できない。


――◇――


では、日本の企業だけが、こんなに侵入されているのか。


米国や欧州は、攻撃されても防げているのか。


調べてみると、そうではなかった。


米国のChange Healthcareでは、二〇二四年の攻撃によって、約一億九千二百七十万人に影響する情報漏洩が報告されている。


一億九千万人。


……桁が大きすぎる。


英国のCapitaでも、六百六十万人の情報が盗まれた。当局は、事前に指摘された弱点や、警告への対応不備を認定している。


韓国のSK Telecomでは、二〇二五年に約二千三百二十四万人の加入者情報が流出した。


……もう、規模がよく分からん。


まあ、少なくとも分かったのは、世界中で起きているということだ。


米国なら侵入されない。

欧州なら安全。


そんな話でも、なかった。


だからといって、日本は悪くない。


……とは、ならない。


世界中で起きているのなら、ほかで起きたことからも学べるはずだ。


自分たちには、まだ何ができるのか。

同じことを起こさないために、何が必要なのか。


企業として、そこは一つずつ確かめてほしいと思う。


――◇――


では、ようやく娘の質問だ。


銀行に預けたお金を守るには、どうすればいいのか。


まず、IDとパスワードだけで操作できる状態には、しておきたくない。


俺は、銀行を使うときは、家のPCから開く。そして、追加の認証には、別の端末であるスマホを使う。


操作する端末と、承認する端末を分けるためだ。


PCでログインしようとしても、手元のスマホで承認しなければ先へ進めない。

そういう仕組みなら、IDとパスワードを盗まれただけでは、簡単には入れない。


どの場面で追加の認証を使えるかは、銀行によって違う。


ただ、俺がしたいのは、入口の鍵を一つだけにしておかないことだ。


別の端末でも、本人の承認を必要にする。


そうしておけば、漏洩に気づいてパスワードを変更するまでの時間稼ぎにもなる。


ただ、娘がPCとスマホを分けて使えるかは、分からない。

娘の毎日の生活の中で、スマホから銀行取引をしなくても困らないのかも、分からない。


俺が使いやすい方法が、そのまま娘にも使いやすいとは限らないのだ。


あとは、振込や出金の限度額。


普段、大きなお金を動かさないなら、必要な範囲まで下げておく。


高額な振込をしないのに、いつでも高額を動かせる状態にしておく必要はない。


ただ、一日の限度額を下げても、何日も気づかなければ被害は積み重なる。

だから、取引通知を受け取り、明細も確認する。


入らせないための、別端末での認証。

動かせる金額の制限。

異常に気づくための確認。


一つで全部を守ろうとせず、組み合わせておく。


公式サイトのブックマークを使う。

端末を更新する。

パスワードを使い回さない。


そういう基本は、その土台だ。


それでも身に覚えのない取引があれば、すぐ銀行に連絡する。

パスワードを変えて、ひと安心で終わらせない。


補償があるから必ず戻ってくる、とも限らないのだから。


――◇――


一方で、すでに漏れた個人情報は、どうすればいいのか。


パスワードなら、変えられる。


クレジットカード番号なら、発行会社に連絡し、利用停止や、番号を変えての再発行を相談できる。


面倒くさいが、古い情報を使えなくする手段はある。


だが、氏名や生年月日、住所、顔写真は?


……簡単には、変えられない。


電話番号やメールアドレスは変更できる。でも、そのために何か所の登録を直すのだろう。


何も悪いことをしていない、情報を漏らされた側が、その手間まで引き受けなければならない。


また、あの言葉が出そうになった。


……俺は充分に大人なので、やめておく。


ほかにも、信用情報機関への本人申告で、なりすまし契約の抑止を図る方法などはある。


あるのだが。


調べれば調べるほど、どうして漏らされた俺たちが、ここまでしなきゃならないんだという気持ちになる。


どんどん、あの言葉を言いたくなる。でも俺は大人だ。


仮に俺のイケメン画像が流出したとして、それが消えるわけでもない。


「婚活サイトで、誰かのプロフィール写真に使われるかもしれないよな」


「パパの顔写真なんて誰も悪用しないって」


「うるせぇーわw」


俺は婚活サイトでも悪用されないように、警戒する。


警戒する――言うのは簡単だけど。


どこへ流れたのかも分からない俺の情報が、どこで、誰に、どう使われるのか。


そこまで、ずっと考えてはいられない。


俺には、無理だ。


怪しい電話やメールには気をつけられる。

明らかな架空請求なら、相手にしない。


そういうことは、できる。


だが、俺の知らないところで使われる情報まで、見張っておくことはできない。


個人情報の流出は、預金を守る対策とは違う。


企業のシステムが復旧しても、利用者の不安まで同じ日に終わるわけではないのだ。


そのうち、こうした被害や対応費用を補う保険が、もっと広がるのかもしれない。

関連する個人向けの補償は、すでにあるみたいだが。


ただ、お金を補償してもらっても、自分の情報を知られていなかった状態に戻れるわけではない。


誰かの婚活サイトに使われていたら、俺の顔は残ったままだ。


「……だからそこは大丈夫だって」――長女。


俺たちにできることには、限界がある。


だから、預かった企業には、漏らさないための管理を、死ぬ気でしてほしいと思う。


こちらでは守れないものを、預けているのだから。


――◇――


「銀行に預けているお金、大丈夫かな?」


娘の問いに、何も心配しなくていいとは言えない。


だけど、怖い話だけして終わるのも違う。


俺は、いつまでも娘のヒーローでありたいのだ。


だから、考えた。


もっと簡単で、娘にも分かりやすく、預金を守れる方法はないか。


俺にとって、銀行といえば、まず三菱UFJ銀行だ。


長年、そこのシステム開発に携わってきた。


ここが破られるようなら、ほかの銀行だって無事では済まないだろう。


……少なくとも、そこで仕事をしてきた俺は、そう思っている。


だったら、窓口へ行って、貯めておくための口座を作ればいい。


その口座では、インターネットバンキングを契約しない。


普段使う、給与振込や公共料金の支払い口座とは分けて、ネットから取引できないようにしておく。


出し入れは、通帳やカードを使って、窓口やATMで行う。


もちろん、口座そのものが銀行のシステムから切り離されるわけではない。


ただ、俺が娘に言いたかったのは、もっと単純なことだ。


ネットで動かす必要のないお金まで、ネットで動かせるようにしておかなくてもいいんじゃないか。


そもそもネット取引の契約をしなければ、そこで使うログインパスワードなんてないので、盗みようがない。


通帳やカードは、ちゃんと自分たちで管理する。


少し不便にはなるけれど、貯めておくためのお金なら、それでもいいだろう。


どーよ。(ドヤ顔)


「うん、パパが休みの日に話してみる」


娘は、そう言った。

ここで娘の言う「パパ」は、もちろん俺ではない。


……まあ、家族で相談してみてくれ。


俺も、これで絶対に大丈夫とまでは言えない。

それでも、怖がっているだけより、できることを一つ決められた方がいいと思う。


便利になったからといって、全部を便利につないでおく必要もない。


使うお金と、しばらくは置いておくお金。

ネットで動かす口座と、そうしない口座。


銀行も、こういう使い分けを、もっと分かりやすく案内してくれたらいいのにと思う。


「こちらは、ネット取引を使わずに、貯めておくための口座です」


そんなふうに言ってくれれば、選びやすい。


「お金は絶対になくなりません」


……そこまで言ってくれたら、頼もしいんだが。


自分では娘に言えなかったくせに、それを銀行には言ってほしくなる。


俺も、勝手なものである。


ただ、安心してお金を置いておきたい。


娘が聞きたかったのも、結局は、そういうことなのだと思う。


だから、自分たちで口座を分けておくのも、一つの方法だ。


俺も、自分にできることで、防げることは防いでいこうと思う。


ただ、ネットで株やFXをやるなら、そこは切り離せないw


おま、ふざ……。

お読みいただき、ありがとうございます。


今回は、娘との会話をもとに、

俺なりに考えたことを書きました。

専門的な解説ではないので、思い込みや、

説明の足りないところもあるかもしれません。


そのあたりは、昼飯を食べながら、

娘に頼られて少し張り切った父親の話として、

どうかご容赦くださいw

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― 新着の感想 ―
今回の流出事件、ほんとうに悪質でしたよね。 何かしらの情報は漏れているんだろうなぁ、とは思います。私も1件メールをもらったのですけど……これは冗談でいけるような情報しか載っていなかったものでした。 イ…
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