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アーレンと仲間たちの旅 外伝①:始祖の鬼  作者: 凩冬馬


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第8話 未来の約束

祠が完成した翌朝、白雲山の山頂は澄んだ光に包まれていた。

夜明けの風は冷たく、しかしどこか柔らかい。

みさきは祠を見ながら、胸に手を当てて静かに目を閉じた。


――真之さまの心には、わたしへの愛情があった。


昨夜、内響の力で触れてしまった真之の心。

そこにあった温かさは、みさきの胸を震わせた。


けれど、同時に怖さもあった。


自分は島の子ではない。

海から流れ着いた、どこから来たのかもわからぬ“鬼の子”だ。

そんな自分が、真之の隣に立ってよいのだろうか。


胸の奥がきゅっと締めつけられ、みさきは小さく息を吐いた。


「……真之さまに、確かめなければ」


そう思った瞬間、背後から足音がした。


「みさき殿、ここにいたのか」


振り返ると、真之が立っていた。

朝日を背に受け、凛とした姿。


しかしその瞳は、どこか不安げでもあった。


「昨夜、眠れぬようだったが……何かあったのか?」


みさきは胸が跳ねるのを感じた。


逃げてはいけない。

自分の心と、真之の心に向き合わなければ。


「……真之さま。お聞きしたいことがございます」


真之は驚いたように目を瞬いた。


「なんでも申してみよ」


みさきは深く息を吸い、震える声で問いかけた。


「真之さまは……わたしのことを、どうお思いですか?」


風が止まり、世界が静まり返る。

真之は一瞬だけ目を伏せ、そしてゆっくりと顔を上げた。


「……みさき殿」


その声は、これまで聞いたどの声よりも真剣だった。


「拙者は……この世で最も大切な人だと思っておる」


みさきの胸が大きく揺れた。


真之は続ける。


「みさき殿が危険にさらされれば、命を賭してでも守りたい。

笑えば嬉しく、悲しめば胸が痛む。

それが、拙者の偽らざる心だ」


みさきは唇を震わせた。


「……わたしは、海から流れ着いた子です。

どこから来たのかもわからず、島の者とも違う……

そんなわたしを、本当に……?」


「そのようなこと…我々の祖先も、元をたどればこの島に流れ着いた者だろう。みさき殿と大差ない」


真之は一歩近づき、みさきの手をそっと取った。


「誰がどこから来たかなど、どうでもよい。

みさき殿は、みさき殿だ。

それだけで十分だ」


その言葉は、みさきの胸の奥に深く染み込んだ。

涙がこぼれそうになる。


「……わたしも……」


みさきは小さく首を振り、涙を拭った。


「わたしも、真之さまが……大切な人に思えてきました」


その瞬間、真之の表情がふっと緩んだ。

安堵と喜びが混じった、優しい笑顔だった。


「みさき殿……」


真之はみさきの手を両手で包み込み、静かに言った。


「役目が終わっても、ずっとそばにいてほしい。

この先の未来を……共に歩んでほしい」

みさきは胸に手を当て、ゆっくりとうなずいた。


「……はい。わたしでよければ」


その返事は、朝の光のように柔らかく、温かかった。


少し離れた場所で、宗円が巻物を広げながらつぶやいた。


「ほほう……これは、描かねばなるまいな」


石工たちはまだ眠っている。


山頂の静けさの中で、宗円は二人の姿をそっと描き始めた。


手を取り合う若い男女。


まるで神話の一場面のようだった。


みさきと真之は、しばらく手をつないだまま、山頂の景色を眺めていた。

海がきらめき、島々が浮かぶように見える。


「真之さま……これから、どうなっていくのでしょう」


「どうなろうとも、拙者はそなたのそばにおる。

それだけは変わらぬ」


みさきは胸の奥が温かく満たされていくのを感じた。


――この人となら、どこへでも行ける。


その確信が、静かに芽生えた。


こうして、二人の心は結ばれた。


祠の完成とともに、みさきの人生は大きく動き出す。

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