第7話 祠の完成とみさきの気持ち
山頂に到達した翌日から、一行は祠の建立に取りかかった。
白雲山の頂は風が強く、雲が流れるたびに光が差し込み、影が揺れる。
山頂が近づくにつれ、身を隠す場所が無くなってきたので、みさきは日陰を探すのに苦労した。
仕方なく、岩で壁を作ったりして対処してきた。
かといって、日没後に作業をするのは危険であったので、ゆっくり作業を進めるしかなかった。
石工たちは黙々と石を削り並べていく。宗円は地図を描きながら位置を測り、真之は周囲の安全を見守っていた。
みさきは、祠の土台となる岩を整える役目を任された。
まず最初に、一行が寝泊りできるような岩屋を建てることにした。
日中は太陽光を遮るものが持参した番傘ぐらいしかないので、これはみさき自身のためにも急務だった。
岩に手を触れ、崩れにくいように並べていく。みさきが望むままに岩石が動く。
すぐに一行が風をよけながら過ごせる場所が出来上がった。
「おお、すごい!」
「やはり早いのう!」
「これは助かる、ありがとう!」
石工たちもやる気が出たようだった。
続いて、
「みさき殿、そちらはどうだ?」
真之が声をかける。
みさきは振り返り、額の汗をぬぐった。
「はい。あと少しで整います」
「無理はするなよ。風が強いからな」
真之はそう言って、みさきの頭巾を直してくれた。
その指先が頬に触れそうになり、みさきはハッとした。
「……ありがとうございます」
声が少し震えた。
真之は気づかぬふりをして、優しく微笑んだ。
三日目の夕刻、ついに祠は完成した。
寒さに震えながらも石工たちは達成感に満ちた顔で祠を見上げ、宗円は巻物にその姿を描きとめている。
「いやぁ、なんとか祠ができたな!」
「これで島の守り神さまも喜んでくださるじゃろう」
権左が満足げに腕を組むと、石工たちはどっと笑った。
みさきは祠の前に立ち、そっと手を合わせた。
風が吹き、祠の屋根を撫でるように通り抜ける。
「……終わったのですね」
その隣に、真之が静かに立った。
「ああ。みさき殿のおかげだ。そなたがいなければ、この祠は建たなかった」
「そんな……わたしは、少しお手伝いしただけです」
「いや。みさき殿がいたからこそ、皆が力を合わせられたのだ」
真之の言葉は、みさきの胸に深く響いた。
その声は、ただの感謝ではなく、もっと温かいものを含んでいるように感じられた。
祠の完成を祝って、石工たちは簡素な宴を開いた。
山頂の風は冷たいが、火を囲む輪は温かかった。
「みさきちゃん、ほんとにすごかったなぁ」
「真之さまも、ずっとみさきちゃんを守っておられたしな」
「おい、余計なことを言うな!」
真之が慌てて石工を制すると、皆が笑った。
みさきは恥ずかしさに頬を染めながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
宗円は火の向こうから二人を見て、静かに呟いた。
「若いというのは、ほんにええもんじゃ……」
宴が終わり、皆が眠りについたころ。
みさきはひとり、できあがったばかりの祠の前に立っていた。
夜風は冷たく、星々が澄んだ空に瞬いている。
その静けさの中で、みさきは胸に手を当てた。
――どうして、こんなに胸が熱くなるのだろう。
旅の間、真之はいつもそばにいた。
危険なときは庇い、太陽が強いときは影を作り、疲れたときは声をかけてくれた。
その優しさは、義務ではなく、もっと深いところから来ているように思えた。
「……真之さまは、どうして……」
その答えを知りたくて、みさきは心の内を知りたいと思った。みさきは人の心を見ることができる。
胸の奥に意識を沈め、真之の心に触れようとする。これは島の人たちには内緒にしておいた力だ。
風が止まり、世界が静まり返る。
みさきの意識は、真之の心の奥へとそっと触れた。
――そこには、温かい光があった。
みさきを想う気持ち。
守りたいという願い。
そして、抑えきれないほどの愛情。
「……あ……」
みさきは思わず口元を押さえた。
胸が熱く、涙がにじむ。
真之は、自分を“力を持つ者”としてではなく、
“ひとりの少女”として見てくれていた。
その事実が、みさきの心を震わせた。
「わたし……」
みさきは胸に手を当て、そっと目を閉じた。
――わたしも、真之さまが……。
その先の言葉は、まだ形にならなかった。
けれど、確かに芽生え、膨らみ、温かく灯っている。
それは、恋という名の光だった。




