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アーレンと仲間たちの旅 外伝①:始祖の鬼  作者: 凩冬馬


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第6話 山頂への最後の道のり

白雲山の空気は、山腹を越えるころにはひんやりと澄み、風の音が耳に心地よく響くようになっていた。だが、その美しさとは裏腹に、山頂へ向かう最後の道のりは険しさを増していく。


大きな岩はみさきが動かし、石工たちが登山道を作り上げていく。この人数では大掛かりなことはできないが、人が一人安全に通れればいい。

安全そうな道を探しながら、危険なところはみさきと石工たちが手を加えて登りやすく作り変える。


平坦な道だけではない。危険な場所はたくさんある。


石工の権左が険しい表情で前方を指さした。


「ここから先は、落石が多い。気を抜くなよ!」


道は細く、頭上には不安定な岩がいくつも張り出している。


みさきは思わず息を呑んだ。


「みさき殿、拙者の後ろを歩け。危ないときはすぐに庇える」


「……はい、真之さま」


真之は自然な動作でみさきの前に立ち、盾のように道を進んでいく。

その背中は広く、頼もしく、みさきの胸に静かな灯をともした。


しばらく進むと、頭上で小さな音がした。

カラ……カララ……。

みさきが顔を上げた瞬間、拳ほどの石が崖上から転がり落ちてきた。


「危ない!」


真之は反射的にみさきの前へ飛び出し、彼女を庇った。

石は真之の肩に当たり、鈍い音を立てて地面に転がった。


「真之さま!」


「大丈夫だ。かすり傷だ」


真之は平然とした顔で言ったが、肩の布は破れ、赤い血がにじんでいた。

みさきは胸が締めつけられるような痛みを覚えた。


「わたしのせいで……」


「なに、これしきの傷、大丈夫でござる」


その言葉はあまりに自然で、みさきは返す言葉を失った。

胸の奥が熱く、苦しいほどに脈打つ。


宗円が後ろから声をかける。


「真之殿、無茶をするでないぞ。若いとはいえ、体はひとつじゃ」


「心得ておる。しかし……」


真之はちらりとみさきを見た。


「みさき殿を危険にさらすわけにはいかぬ」


その一言に、みさきの心は大きく揺れた。

自分のために、ここまで言ってくれる人がいる。

その事実が、胸の奥で温かく膨らんでいく。


さらに進むと、道は急な斜面に変わり、足元の石が崩れやすくなった。

みさきは慎重に歩いたが、ふとした拍子に足を滑らせた。


「きゃっ……!」


体が前に傾き、視界が揺れる。

その瞬間、真之が振り返り、みさきの手を強くつかんだ。


「しっかり!」


温かい手が、みさきの指を包む。

その力強さに、みさきは胸が震えた。


「……ありがとうございます」


「礼などいらぬ。拙者は、みさき殿を守りたいだけだ」


その言葉は、まるで告白のように響いた。

みさきは顔を赤らめ、俯いた。


宗円はその様子を見て、ひとりごとのように呟く。


「若いというのは、ええもんじゃのう……」


やがて、険しい斜面を越えた先に、開けた場所が現れた。

そこには、山頂へ続く最後の緩やかな尾根が伸びていた。


「見えたぞ! 山頂じゃ!」


権左の声に、一行は歓声を上げた。

みさきも胸が高鳴る。


真之がみさきに微笑みかける。


「もう少しだ。みさき殿、よく頑張ったな」


「……はい。真之さまがいてくださったから、ここまで来られました」


その言葉に、真之はわずかに目を見開き、照れたように視線をそらした。


「拙者は……ただ、当然のことをしたまでだ」


だが、その耳は赤く染まっていた。


そしてついに、一行は白雲山の山頂へと到達した。

風は澄み、空はどこまでも高い。

遠く海がきらめき、島々が浮かぶように見える。


「ここに……祠を建てるのですね」


「ああ。島の守り神を祀る、大切な場所だ」


真之の声は静かで、どこか誇らしげだった。

みさきは胸に手を当て、深く息を吸った。


この旅の間、真之はいつも自分のそばにいた。

支えてくれた。守ってくれた。


その優しさが、義務ではなく、もっと別のものに感じられてならない。

胸の奥が、熱く、切なく、甘く疼く。


――この気持ちは、いったい何なのだろう。


みさきはまだ、その名を知らなかった。

だが、確かに芽生え、育ち始めている。

それは、恋の灯火だった。

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