第1話 白雲島に流れ着いた鬼の子
私の小説を読んでいただき、ありがとうございます。
本編終わってないのに外伝かよ!と自分でも思うのですが、どうしても、「最初の鬼」の話を皆様にご紹介しておきたかったのです。お楽しみいただけたら幸いです。
連載中の「アーレンと仲間たちの旅は、へんてこな武器から始まった」の10話から25話ぐらいまで読んでから、こちらの外伝を読んでいただくと、内容的につながる部分があるかなと思いますので、ぜひ本編のほうもよろしくお願いいたします。
夕暮れの海は、静かに揺れていた。白雲島の浜辺では、漁師の藤兵衛が一日の仕事を終え、網をたたんでいた。潮風に混じる藻の匂いは、島民にとって馴染み深い香りである。
そして、ふと見ると、波打ち際で、ゆらりゆらりと浮いている何かを見つけた。
「……おや、舟か?」
それは舟と呼ぶにはあまりに小さく、流線形の何かを入れる容器のようだった。波に押され、ゆっくりと浜へ近づいてくる。藤兵衛は胸騒ぎを覚え、足を濡らしながら駆け寄った。
小舟の中には、布で包まれた何かが置かれている。
藤兵衛は息を呑む。布の隙間から、赤子の顔がのぞいていたのだ。
「こりゃ……赤ん坊じゃねえか」
赤子は眠っていた。青白い肌は月光のように淡く、まぶたの下には大きな瞳が隠れているのだろう。頬は冷たく、長く海を漂っていたことを物語っていた。
藤兵衛は迷わなかった。
そっと抱き上げ、胸に抱き寄せる。
「生きてる……まだ温けぇ」
家に連れ帰ると、妻のお浜が驚きの声を上げた。
「まあ……なんて可哀想な。どこから流れてきた子なんだい」
「わからねぇ。だが、このまま放っておくわけにはいかん」
お浜は赤子を抱き取り、温かい湯で体を拭き、柔らかな布で包み直した。赤子は目を覚まし、ぱちりと大きな瞳を開く。
その瞳は、海の底のように深く澄んでいた。
「……きれいな目だねぇ」
お浜は思わずつぶやいた。
「何だか島の子とは違うねぇ……」
それでも二人は迷わなかった。
「きっと神様が授けてくださった子だ。うちで育てよう」
「ええ、そうしましょう」
夫婦は赤子に「みさき」と名をつけた。
海の岬に流れ着いた命。そして、島の未来を照らす灯火となるようにと願いを込めて。
みさきはすくすくと育った。
言葉を覚えるのも早く、礼儀正しく、いつも静かに微笑んでいた。だが、太陽の下に出るとまぶしくて何も見えなくなり、長く外で遊ぶことはできなかった。
でも、みさきには不思議な力があった。
ある日、藤兵衛が重い石を動かせずに困っていると、幼いみさきがそっと手をかざした。すると、石はふわりと持ち上がり、横へ転がった。
「み、みさき……今のは……」
「おとう、へいきだった? おてつだい、したかったの」
藤兵衛は驚いて言葉を失った。
みさきは成長するにつれ、より大きな岩や石を自在に操る力を見せるようになった。
島民たちは最初こそ驚いたが、その力が島民たちの暮らしを助ける場面も多々あったので、むしろありがたいものだと感じるようになった。
最近では鬼と聞くと人を食べたり、悪いことをすると感じる方が某漫画と一連のアニメシリーズで定着しているかもしれませんが、本作における鬼は違います。
皆様の周りで、一つの道を極めようとしている人とか、極めた人のことを、「~の鬼」といった表現を使ってその人となりを説明したりしませんか?
私がここで言う鬼とは、人をはるかに凌駕する力をもち、畏怖すべき存在という感じで使っております。ですので、角が生えたり、人を食べたりはしません。舞台となる白雲諸島では鬼というのは悪い意味を持たないのです。そこのところを、ご理解の上、読み進めていただきたいと思います。




