何もせんほうがええ
婆ちゃんの住む京都に着き、蕎麦をご馳走になる俺。
やっぱ天ざる蕎麦は美味い!
ようやく話を聞けると思ったら居眠りしている婆ちゃん。
いつになったらマトモに話が聞けるのやら…
◯登場人物
松岡 修二 23歳
IT企業勤務、システムエンジニア
人付き合いが苦手
急に他人の心の声を聞くことができるようになった。ボリューム調整可能
松岡 真司 20歳
シュウジの弟。既婚。子供がもう少しで生まれる
松岡 京子 51歳
シュウジの母親
倉橋 キヨ 82歳
シュウジの母方の祖母
婆ちゃんは少し目を閉じて、顔をうつむけた。何か意味深だな…
「すぅ…」
寝てるんかーい!!まぁ…腹がいっぱいになると眠くなるのな…子供かよ…。まぁとにかく。俺は婆ちゃんの肩をトントンと優しく叩いて起こした。
「ん…どうしたんや?」
どうしたもこうしたもねぇよ。
「婆ちゃん、とりあえず家に行くか。家はここから近いの?」
「あぁ、まぁタクシーですぐやな。呼んでもらおか」
マスターにタクシーを呼んでもらったらすぐに来た。婆ちゃんちはワンメーターどころか、30秒も乗ってなかったんじゃないのか、というくらいのところにあった。京都に来たのはいつだったか…学生の時の修学旅行で来た時は、なんか趣のあるような昔ながらの街並みというイメージだったが、このあたりはたまにぽつぽつと昔からの木造の家もあるが、新しく建て変わった家が半分以上な気がした。
婆ちゃんちは、そのぽつぽつのひとつだった。
「まぁとりあえず入りや。ワシしかおらんから」
「うん、お邪魔しま〜す。意外と片付いてるんだな」
1階の客間みたいなところに通された。8畳くらいの広さの和室で見るからに重そうなコタツと、座布団が敷かれていて、壁には山の風景みたいな水墨画の掛け軸がかけられていた。俺は座布団のひとつに座って荷物を横に置き、待った。
会社に連絡するのは…数日後でいいか。
婆ちゃんはすぐ現れた。まだ少し眠そうだった。
「あぁ、ひとつ言っとくけどな…その力の話は普通のやつの前ではせんほうがええ。どこで誰が聞いてるかわからんからな」
え。割と婆ちゃんはしっかりした声で話した。さっきの蕎麦屋でとぼけていたのはワザとだったのか。
「婆ちゃんはやっぱ知ってるの、俺の言ってるこのこと。俺今までそういうことの前ぶれなんかも一切なくて。正直混乱してるんだ」
「まぁそうやろな。順番にゆっくり話そか。あ、シュウジが勘違いしとったらあかんから初めに言うけど、ワシはなんも不思議な力はないからな。あったのは従兄弟やった。その人から聞いたり、又聞きのことやから全部が全部正しいかどうかはわからんからな」
婆ちゃんの従兄弟…まぁこんなのがゴロゴロいたらびっくりするよな。というか、やったというのはもうその人は…。
「その力はな、随分と昔から受け継がれて来た力なんや。ただ、そんなにポコポコ受け継がれるわけやくて、1世代に1人という具合らしい。どういう仕組みかはわからんけどな」
1世代に1人。どういうことだ。
「親子で親がそうなっても、子供がそうなるわけやないってことな。遺伝とはちゃうってことや。たぶんお前は知らんやろけど安倍晴明とかもそれらしいで。あとはホンマにおるかわからんけど卑弥呼とかももしかしたら、と言われているらしい」
なんかスケールがデカくなってきたな。祈祷師やら陰陽師に転職か?
「んー、まぁなんとなく婆ちゃんの話はわかってきたんだけど…俺が急にそうなったのはどういうワケなのかな?」
「あぁ…たぶんやけどな。同じ世代で力を持ってたやつが死んだからちゃうかな。これも聞いた話やから確証はないけど、受け継がれる力は、そいつが死んだら、同じ世代の誰かに自動的に移るんや」
なんだか話が穏やかじゃないな。俺と同じ世代のやつが死んだってことは…。というかこの力ってまぁまぁヤバいんじゃないのか。
「婆ちゃん、力が移るということはわかった。最近誰か俺の親戚が死んだ、ってこと?」
「んー、まぁ親戚っちゅうても、いつからかわからん始まりやから、結局同じ世代って言うても年齢はバラバラになるんやと思うで。あと、能力者というのはあまり近くに集まらんほうがええ」
そういうことか。子供を成す年齢は人それぞれだから、その子孫になってくると、同世代であっても、何十歳と離れてる場合もあるもんな。
「近くに集まらないほうがいいというのは?」
「危ないからやな。その力はある程度の権力を持ってる人間やったらいいんやけど、そうでない普通の人間に発現した場合、利用されることがある」
あ…俺は嫌な想像をしてしまった。軍事利用、人間兵器、人体実験…
「今まで…それで実際にそうなった。利用されたような人っているのかな?」
「そんなんは知らん。ただ、これはワシの勝手な想像やけども、良い考えを持ってる人間と、悪い考えを持ってる人間とでは、悪い考えの人間のほうが多いってことや。もちろん圧倒的な数ではないけどな。そのバランスで、世の中は成り立ってるんやと思うで」
悪い考えの人間…婆ちゃんは年齢はそこそこいってるけども、話すことはとても的を射ていた。すごくしっかりしている。俺が日々考えていたようなことに、すっと婆ちゃんの言うことが入ってきた気がした。
「婆ちゃん。俺はこれからどうしたらいいと思う?こんなこと聞くのもなんなんだけど」
「何もせんほうがええ」
え。
「金もうけやったり、何か悪いことをしようとしたり、そんなんはもちろんやけどな。人のためとか、良いことのためにその力を使った場合でも、きっといいことはないわ。まぁ…どうするかはお前次第やけどな」
婆ちゃんは少し淋しい顔をしていた。
婆ちゃんから色々と話を聞き、俺の中で様々な感情や考えがよぎった。
こんな話を聞いて、なんもしないことなんてあるか。
俺の中で、得体の知れない何かが、少しずつ膨れ上がっている気がした。




