婆ちゃんに蕎麦をご馳走になる
京都の婆ちゃんに連絡をしたら、話を聞きに京都まで来いと言われる俺。
電話では埒が明かないので、仕方なく仕事をしばらく休むことにして、電車で京都へ行く。
俺のこの変な怪現象の謎は明かされるのか?
◯登場人物
松岡 修二 23歳
IT企業勤務、システムエンジニア
人付き合いが苦手
急に他人の心の声を聞くことができるようになった。ボリューム調整可能
松岡 真司 20歳
シュウジの弟。既婚。子供がもう少しで生まれる
松岡 京子 51歳
シュウジの母親
倉橋 キヨ 82歳
シュウジの母方の祖母。
出発前に婆ちゃんに1本だけ電話を入れたら、
『せっかくやから1週間くらいゆっくりしていけ』
だと。なんだ婆ちゃん、淋しいのか?んで、母親にも連絡したらなんか、どこどこの誰々の葬儀があるからとかで、忙しそうにしていた。一応いたんだな親戚。
ちなみに例の彼女からは一切連絡はない。まぁ俺もする気はない。所詮そんな程度の関係だったということだ。
電車の中で、おれはウトウトとしながらそんな事を考えていた。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、目的地の駅の少し手前だった。婆ちゃんちに向かう道中、電車の中、もちろんだが、色々なやつの心の声は聞こえた。だが、なんで寝れたかというと…これはよくわからないんだが、なんとなく心の声のボリュームは調整できている気がする。ほんとか?いや、実際のところできているからそうなんだろうな。
完全には消えないから、なんかボソボソ話してるような感覚はある。あ、もちろん人が近くにいる時のことだけどな。婆ちゃん色々教えてくれるんだろうか。家の場所は住所から調べてなんとなくわかったが、出町柳駅を降りたところで、電話をかけた。
『腹空いてるんか?蕎麦でも食べに行くか?』
なんだか婆ちゃんが優しくなった気がする。やはり寂しがりなのか。出町柳駅はそんなに大きい駅ではなくて、駅の中にレストランやらお店やらとかは入っていないが、駅前に手打ちの蕎麦屋さんがあった。実は俺は小さい頃から蕎麦が好きだ。
なんで好きかと言うと、母親が近所の個人でやってる蕎麦屋さんにたまに連れて行ってくれて、そこで食べる天ざる蕎麦がとても美味かった。なにがどうと具体的には覚えてないんだが、たぶん小さい頃からの味が馴染んでるという感じなのかな。
婆ちゃんは家からタクシーで駅前まで来た。俺が大きくなってからは会ってはなかったが、母親から写真を見せられたことはあったのと、背は俺よりは全然小さいんだけど、母親と多少似ている感じがしたので、すぐわかった。性格は似てないと思うんだけどな…。
「おー、婆ちゃん。会うのは初めてなんじゃないの?」
「ワシはお前のことよう知っとるぞ。だいぶ小さい頃やけどな。ほら店はいるで」
蕎麦屋さんの引き戸をガラガラと開け、婆ちゃんを先に入れてあげた。俺もその後から入る。
蕎麦屋はこじんまりとした造りで、L字になったカウンター席がいくつかと、テーブル席が3つあった。婆ちゃんは奥のテーブル席にちょこんと座る。
「いらっしゃい。婆ちゃん、今日もいつものやつかな?」
蕎麦屋のマスターが婆ちゃんに聞く。
「あぁ、なんでもええで。シュウジ、お前は何にするんや?」
なんでもええ、っていう注文の仕方を初めて聞いた。常連ってそんなものなのか。俺はやっぱいつものアレがいい。
「んーと…天ざる蕎麦っていけますか?」
「大丈夫やで。少し時間かかるけど、ええかな?」
俺が聞くとマスターはちゃんと答えてくれた。
「なんや、ややこしいやつ頼むんやなぁ〜」
「いいだろ、1番好きなんだから〜。婆ちゃんは何を頼んだの?」
「おろしもり蕎麦や。これが1番美味いんや」
へー、そうなんだ。まぁ常連の婆ちゃんが言うならそうなのかな?まぁいいや。そんなことよりも…
「てか、婆ちゃん。いきなりで悪いんだけど、俺のこの心の声が聞こえるってやつ、何なの?」
婆ちゃんは黙ってじーっと俺のほうを見ている。
-おろしもり蕎麦まだかいな…
聞いてないんかーい!!まず食べるのが先なのかな?食べないと話聞けないのかな?お腹空いてると集中できないタイプ?
「はいよ、お待ちどぉさん!天ざるもうちょい待ってや〜」
おろしもり蕎麦にお店の自家製らしい七味を少しかけて、食べる婆ちゃん。
ずる…ずるずる…
「俺もおろしもり蕎麦も少し食べたいな〜」
「人のを食べるのは行儀悪いからやめとけ」
ま、まぁそうだな。そのあと来た天ざる蕎麦を俺も食べ始める。
「いただきます!美味そう〜!」
天ぷらは揚げたてでサクサクで、ざる蕎麦も程よくコシがあって美味かった。食後にそば湯もきちんといただいた。蕎麦屋さんに来たら必ずそば湯を頼む。このトロトロの感じがいいんだよな。
俺があらかた食べ終わる頃でも、婆ちゃんはまだずるずると蕎麦を食べていた。
「そろそろお腹もいっぱいになって喋れるようになったかな?さっきも聞いたけども、俺のこの変な力って何かわかる?」
婆ちゃんは少し目を閉じて、顔をうつむけた。何か意味深だな…
「すぅ…」
寝てるんかーい!!
婆ちゃんと無事会うことができ、蕎麦をご馳走になる。
それにしても、なかなか話が聞けないから、ヤキモキしてしまう俺。
でも、少しずつこの、心の声を聞く力に慣れつつある気もする。




