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「虚紅」

―――注意事項―――


・この小説は東方二次創作品です。キャラクターのイメージなどがずれてる場合がございますご了承ください。


・残酷描写タグは無いですが、東方キャラが消えるお話なのできつい人は見ない方がいいです。


・レミリアがいなくなって絶望する咲夜さんからしか得られない栄養があります。


・この小説内での設定は独自のものです。

紅魔館は、静かすぎた。


門は閉じていない。

結界も、壊れていない。


ただ――

誰も、いない。


「美鈴もいないか…」

中に入る。


足音が、やけに大きく響く。


カーペットは敷かれたまま。

調度品も、完璧に整っている。


まるで、

全員が一斉に席を外しただけのように。


……おかしい。


いつもならばここには誰かしらがいる。

ここは“そういう場所”だ。

主がいて、従者がいて、侵入者を拒む。


それが、紅魔館。


――だった。


大広間の中央で、

一人だけ人影があった。


「……咲夜」


銀髪のメイドは、

完璧な姿勢で立っていた。


ナイフも、懐中時計も、

きちんと身につけている。


「……魔理沙様」


咲夜は、丁寧に頭を下げた。


「お久しぶりです」


その声は、

あまりにも、いつも通りだった。


「……他は?」


咲夜は、一瞬だけ視線を伏せた。


「……いらっしゃいません」


「いつからだ」


「昨日の夜です」


淡々と答える。


「お嬢様が、

 『少し休むわ』と仰って」


背中に嫌な汗を感じた。


「それで?」


「……それで、

 気づいたら、誰もいなくなっていました」


乾ききった口を開く。


「フランは?」


「……分かりません」


「パチュリーは?」


「……分かりません」


一つずつ、

“分かりません”が積み重なっていく。


はっきり理解した。


――咲夜は、

“いなくなった瞬間”を認識できていない。


「……怖く、ないのか?」

静かに聞いた。


咲夜は、少し考えてから答えた。


「……怖い、です」


その声は小さかった。


「でも、

 私は人間ですから」


無意識に、息が止まる。


「忘れられない。

 消えない。

 だから……」


咲夜は、館を見渡した。


「私だけが、残りました」


その言葉が、

この館の“答え”だった。


恐れられる側。

語られる存在。


それらは、すべて消えた。


人間だけが、

“何もできないまま”残された。


「……仕事、続けてるのか?」


「はい」


咲夜は、即答した。


「紅茶を淹れ、

 掃除をし、

 時計を巻いています」


震えた声で言う。


「……誰のためにだよ」


咲夜は、微笑んだ。


「分かりません」


その笑顔は、

壊れそうなほど、完璧だった。


私は、気づいた。


この館は、

まだ“紅魔館”であろうとしている。


主がいなくても。

意味がなくても。


それが、

一番、残酷だった。


不意に、時計の音が響く。


カチ、カチ、と。


咲夜が、懐中時計を見つめていた。


「……時間は、正常に進んでいます」


目を細めて、問いかける。


「でも、

 “ここにいる理由”は?」


咲夜は、答えなかった。


答えられなかった。


「……咲夜」


「はい」


「ここを、離れろ」


咲夜は、首を横に振った。


「それは、できません」


「なんで」


咲夜は、静かに言った。


「私がここを離れたら、

 この館は……

 完全に、なかったことになります」

何も言えなかった。


紅魔館を出ようとした、そのとき。


「……少しだけ、待ってください」


背後から、咲夜の声がした。


振り返る。


咲夜は、銀のトレイを両手で持っていた。

その上には、湯気の立つ紅茶が二つ。


「お茶を、お出しします」


「……」


思わず視線を逸らした。


大広間のテーブルに座った。


椅子は二つ。

本来なら、決して使われない配置。


咲夜は、完璧な所作でカップを置く。


「……どうぞ」


カップを手に取った。


――温度が、ちょうどいい。

――味も、完璧。


「……いつも通りだ」


その一言に、

咲夜の指が、ほんの一瞬だけ震えた。


「……魔理沙様」


咲夜が、静かに口を開く。


「お嬢様は……

 戻ってこられるのでしょうか」


息を呑む。


「……分からない」


正直な答えだった。


その言葉が、

刃のように突き刺さる。


咲夜は、微笑もうとした。


だが、失敗した。


「……そう、ですか」


視線が、カップの中に落ちる。


紅茶の表面が、かすかに揺れている。


「私、ずっと考えていたんです」


声が、少しずつ低くなる。


「もし……

 お嬢様が、誰にも恐れられなくなったら」


嫌な予感しかしなかった。


「そのとき、

 私は……何を守っていたのだろうって」


咲夜の手が、胸元の懐中時計に触れる。


「私は、人間です」


淡々と言う。


「忘れられない。

 消えない。

 だから……」


言葉が、詰まった。


「だから、

 お嬢様だけが、いなくなる」


沈黙。

耐えきれず、口が動く。


「……咲夜」


「分かっています」


咲夜は、顔を上げた。


その目は、

壊れていない。

だからこそ、痛々しい。


「お嬢様は、強い。

 誇り高くて、気ままで……」


一瞬、声が震える。


「……誰よりも、

 “妖怪らしい妖怪”でした」


「だから、

 消えるのも……早い」


咲夜の呼吸が、乱れる。


「……私が、もっと……」


「違う」


即座に否定した。


「お前のせいじゃない」


咲夜は、首を横に振る。


「いいえ」


静かに、しかし強く。


「仕える者として……

 恐れさせる努力を、怠りました」


思わず立ち上がる。


「ふざけるな!

 そんなの――」


「ルールです」


咲夜は、遮った。


「紅魔館の、

 私自身の、ルール」


その瞬間だった。


館の奥から、

かすかな“気配”がした。


ふと、顔を上げる。


「……今」


咲夜も、立ち上がった。


「……お嬢様?」


走る。


廊下を。

階段を。


誰もいないはずの、最上階へ。


部屋は、空だった。


ベッドも、椅子も、カーテンも。


だが――

“いた痕跡”だけが、異様に濃い。


「……っ」


咲夜が、膝をつく。


床に、

赤いリボンが落ちていた。


間違えようがない。


「……お嬢、様……」


震える手で、拾い上げる。


胸のあたりがズキズキとした。

泣き崩れる咲夜に、なにか声をかけるのは野暮だと思った。


「明日、またくるぜ」


返事は、なかった。


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