「半人」
―――注意事項―――
・この小説は東方二次創作品です。キャラクターのイメージなどがずれてる場合がございますご了承ください。
・残酷描写タグは無いですが、東方キャラが消えるお話なのできつい人は見ない方がいいです。
・初投稿なので読みづらい部分や、おかしなところがあるかもしれません。許して。
・この小説内での設定は独自のものです。
翌朝。霧は、神社の石段までは来なかった。
境内はいつも通りで、
風も、匂いも、現実感がある。
「……やっぱり、ここは平気だな」
魔理沙がそう言った直後だった。
石段の下から、足音がした。
重く、急いでいる音。
「……霊夢」
その声に、霊夢は即座に立ち上がった。
「今の、聞こえた?」
「聞こえた。しかも――」
魔理沙は目を細める。
「“普通に”聞こえた」
霧の中から現れたのは、魂魄妖夢だった。
息が荒い。
額には汗。
だが、体の輪郭がどこか不安定だ。
「博麗の巫女……!」
駆け寄ろうとして、妖夢は足を止めた。
境内に入った瞬間、
彼女の半霊が、大きく揺れた。
「……っ」
霊夢は、それを見逃さなかった。
「妖夢。何があったの?」
妖夢は一歩、前に出ようとして――
その足が、石段を踏み外すように止まる。
「里で……霧が……」
言葉が、途中で引っかかった。
「人間に、声が……届かなくなって……」
魔理沙が叫ぶ。
「落ち着け! ここなら――」
「違うんです!」
妖夢の声は、確かに聞こえている。
だが、薄い。
「私は……まだ、見えてる……
でも、幽々子様が……」
そこで、言葉が途切れた。
半霊が、遅れて境内に入った。
その瞬間、
ふっと、形が崩れる。
「……え?」
妖夢は、自分の背後を振り返った。
そこにあるはずの半霊が、
霧に溶けるように、ほどけていく。
「ま、待って……!」
霊夢が手を伸ばす。
だが、触れた感触はない。
半霊は消えた。
音も、光も、痕跡も残さず。
妖夢は、その場に立ち尽くした。
「……あれ?」
自分の胸元を、確かめるように触る。
「……軽い」
魔理沙の背筋が、冷たくなった。
「霊夢……これ……」
「ええ」
霊夢の声は、低かった。
妖夢の姿が、揺らぎ始める。
完全に消えているわけじゃない。
だが、輪郭が定まらない。
「……私……まだ、ここにいますよね?」
霊夢は即答した。
「いるわ」
「見えてますよね?」
「見えてる」
その答えに、妖夢は少しだけ安堵した顔をした。
「……よかった」
だが次の瞬間、
妖夢の左腕が、ふっと欠けた。
切断ではない。
最初から、無かったように。
「……え?」
妖夢自身が、一番驚いていた。
痛みはない。
出血もない。
ただ、存在の一部が抜け落ちた。
「……なるほど」
霊夢は、はっきり理解した。
「妖夢。あなたは“半分だけ”人間」
妖夢が震える声で聞く。
「それが……関係あるんですか?」
「ええ」
霊夢は拳を握った。
「人の側に近いほど、
忘れられるのが遅い」
魔理沙が歯を食いしばる。
「じゃあ、妖怪は……」
「もっと、早い」
妖夢の姿は、まだ残っている。
だが、確実に薄くなっている。
「……助けを……」
最後まで言い切る前に、
妖夢の意識は、霧のように崩れた。
神社には、静寂だけが残った。
霊夢は、地面を見つめたまま言った。
「これは異変よ」
魔理沙は震える声で笑った。
「……だな。
しかも、最悪のやつだ」
霊夢は、里の方を見た。
霧は、まだそこにある。
「人間が忘れることで、
妖怪が消える」
霊夢は、初めて口にした。
「……“忘却”の異変」
幻想郷は、まだ壊れていない。
だが今、
助けを求めた者は、確かに消えた。
霊夢は賽銭箱に手を置く。
「間に合うわ」
静かに、だが確信を持って言った。
「必ず、止める」
霊夢は妖夢を神社の奥に寝かせ、結界を張った。
強いものじゃない。
外敵を防ぐためのものじゃない。
“ここにいる”と主張するための結界。
「……消えるなよ」
それが、今できる唯一の対処だった。
「じゃ、私は外回ってくるぜ」
魔理沙は箒にまたがり、軽く言った。
「異変ってのはな、
派手じゃない時ほど、
広く見ねえと分かんねえ」
霊夢は頷いた。
「里は、私が見る」
一瞬、間が空いた。
「……気をつけろよ」
魔理沙の声は、珍しく軽くなかった。




