エピソード0 半霊
―――注意事項―――
・この小説は東方二次創作品です。キャラクターのイメージなどがずれてる場合がございますご了承ください。
・残酷描写タグは無いですが、東方キャラが消えるお話なのできつい人は見ない方がいいです。
・初投稿なので読みづらい部分や、おかしなところがあるかもしれません。許して。
・この小説内での設定は独自のものです。
最初の違和感は、音だった。
白楼剣を振り下ろしたとき、
風を裂くはずの音が、ほんの一拍、遅れて届いた。
「……?」
妖夢は動きを止めた。
剣は確かに振った。身体も応えている。
なのに、結果だけが遅れる。
冥界は、いつも通り静かだった。
静かすぎるほどに。
庭に立つ。
桜は咲いている。
花びらも舞っている。
それなのに――
それを見ている“気配”が、ない。
「……変ですね」
声に出した瞬間、
自分の声が、少し遠く聞こえた。
背後を振り返る。
半霊が、
いつもの位置より、わずかに後ろにいた。
「……遅いですよ」
軽く注意するように言う。
返事はない。
半霊は、ただ浮かんでいる。
意味もなく揺れることもなく、
そこに“置かれている”みたいに。
幽々子様の元へ向かう。
廊下を歩く。
畳の感触はある。
足音も、する。
なのに――
目的地だけが、曖昧だ。
「……幽々子様?」
座敷に声をかける。
返事はない。
部屋は、整っていた。
いつも通り。
夕食の支度もそのまま。
それでも妖夢は、
胸の奥が冷えるのを感じた。
“いたはず”だ。
その確信だけが、
居場所を失って、漂っている。
背後で、
ふっと、空気が軽くなる。
振り向く。
半霊が、薄い。
「……っ」
手を伸ばす。
触れない。
触れられない、ではない。
最初から、触れられる前提がない。
妖夢は、理解してしまった。
恐れられるものから、消える。
幽霊。
死者。
説明できない存在。
だから――
半分の方から、先に。
残ったのは、人の身体。
重さがある。
呼吸もある。
心臓も、動いている。
だから、消えない。
だから、
置いていかれる。
「……私は……」
言葉が続かない。
剣を握る。
重い。
確かに、重い。
でも。
何を守る剣だったかが、
思い出せない。
視界が、欠ける。
庭の配置。
桜の枝ぶり。
昨日まで覚えていたはずの順序。
「……思い出せない……」
記憶が抜け落ちている感覚じゃない。
思い出す必要が、消えている。
それでも、足は動いた。
理由は分からない。
ただ、行かなければならない場所がある気がした。
博麗神社。
なぜそう思ったのか、説明はできない。
でも、確信だけは、残っていた。
歩くたび、身体が、遅れる。
影が、薄くなる。
名前が、遠ざかる。
「……魂魄……」
自分の名を、口にする。
返ってこない。
恐怖が、湧いた。
妖怪としての、最後の恐怖。
「……助けて」
声は、小さかった。
誰に向けたのかも、もう分からない。
鳥居が、見えた。
その瞬間、
妖夢は、確かに感じた。
誰かに、見られている。
それだけで、
まだ、ここにいられる気がした。
博麗神社の石段に、膝をつく。
半霊は、もう見えない。
残っているのは、中途半端な身体と、中途半端な存在理由。
それでも――
完全には、消えていない。
妖夢は、顔を上げた。
誰かが、こちらを見ているはずだと、
信じて。




