表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は荒神様の生贄になる~旦那様、お願いです。私だけを食べてください~  作者: あおいかずき
一章 The engagement breakup and reincarnation happen suddenly.

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

1-4

 殿下の胸にしなだれかかる蘭の、はかなげな風を装った狡猾な涙にムカムカが止まらなくなる。

 この憤りが薫子のものなのか、それとも薫のものなのかももうわからない。けど、このままおとなしくしていられるわけはない。


「このままでっ、いてたまるもんですかっ……!」


 絶対脱出して、蘭から照宮殿下を取り戻さなくては。私は狭い箱の中で肩と腰をよじらせた。

 しかし肩から腰の下まで麻縄で縛られ箱詰めにされているため、私が私の意志で動かせる部位はほんの指先だけ。後ろ手に回された手首を精一杯曲げて動かそうとしても、左手の中指がかりかりと桐箱の壁をこすることしかできない。


「なんとかっ、あおむけになれれば蓋を蹴れるかもしれないのにっ……!」


 くそっ、と令嬢らしからぬ言葉を吐き捨てる。無理な姿勢と、きつく縛られた麻縄が腕や胸に食い込む痛みに、自然と呼吸が荒くなった。


「こんっ、のっ……! あの馬鹿衛兵どもっ……、手加減して縛んなさいよっ!」


 何度か体を捻ろうと試行錯誤していくと、折り曲げた膝が箱の蓋に当たるようになった。これなら、と私は両足に力を籠めるべく腰を浮かせる。思い切り膝を当てれば、蓋がずれてくれるかもしれない。

 と、思った瞬間。

 ごとりと鈍い音が箱の外から響いたのだ。

 何の音かと身構えたが、縛られているうえに箱の中で転がされている私に何ができるというのだろう。せいぜいで体中に力を籠めるくらいしかできない。

 獣の類だろうか。であれば箱など無視してどこかへ行ってほしい。でも、野犬なら箱を開けることができずあきらめるかもしれないけど、熊なら? 大猿たちなら? 桐は柔らかい。太く長い爪を振り下ろされたら、一発で壊れてしまう。

 私は息をひそめて音が遠ざかってくれることを祈った。

 けれどこういう時の祈りなど何の役にも立たないどころか、得てして悪いほうへと事態が転がっていくものだった。

 箱の蓋ががたりと音を立て、ゆっくりとあけられてしまったのだ。

 それまで一切の光を失い暗闇で過ごしていた私の目に、まぶしいほどの月明かりが差し込む。夕方あたりかと思えばもう夜だったのか、と悠長なことを考えられたのは煌々と輝く満月があまりに美しかったからか。

 しかし次の瞬間、私の目は月を背に箱をのぞき込む真っ黒い影にくぎ付けとなった。


「ひっ……!」


 悲鳴を上げようにも喉がぎゅっとしまったように呼吸ができない。箱の上に覆いかぶさる影はまるで小山かと思うほどに大きく見える。

 四足歩行の獣のシルエットじゃない。しいて言えば人型。獣臭こそしないものの、ぼさぼさと逆立つ毛並みなのか頭髪なのかわからない影の奥に、ぎょろりとした血走った眼があることだけが分かった。

 その目は逆光の中で満月の明かりと同様にぎらぎらと金色に輝いている。

 これが魔神だ。

 直感的にそう理解した私の喉がごくりと鳴った。

 やっぱり人柱にされてしまっていたのだ。百年に一度、荒ぶる神に捧げられる生贄。ささげられた者がどうなるか、どうなったかなんて資料に書いてないなんて言ったけど、今のこの魔神の様子を見ればわからないながらも理解できる。

 ――食われて死ぬ。

 ああ、と目を閉じた私の脳裏に、華鳥風月のOP画面が蘇る。もちろんOP曲も。

 攻略対象たちが微笑みながら画面の中を通り過ぎ、最後に神々しい笑顔で画面から手を差し伸べる照宮殿下の姿が風にさらわれるように浮かんで消えた。

 せっかく照宮殿下やほかのキャラがいる世界に転生したみたいなのに、よりにもよって悪役令嬢になって断罪シーンから始まるなんてついてない。ダウンロードコンテンツやりたかった。いやもう一回照宮殿下ルート攻略したかった。


「殿下……お慕いしております……」


 うう、と地の底から響くようなうなり声をあげ、影は大きな手で箱の中にいる私をつかみ上げた。

 すんすんとにおいを嗅ぐ音がして、生暖かい息が首に当たるのが気持ち悪い。でも身震いすることも忘れるほどの恐怖に、私の頭は次第にぼんやり靄がかかっていく。意識が飛ぶ、そう理解できた瞬間。


「……なんだ、この強い神力――」


 低くくぐもった声が耳元で聞こえた。

 けどそこまでだ。重低音はこちらの恐怖を殊更に煽り立て、心臓がぎゅっとなる。

 それを境に、私の意識はブラックアウトしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ