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婚約破棄された悪役令嬢は荒神様の生贄になる~旦那様、お願いです。私だけを食べてください~  作者: あおいかずき
一章 The engagement breakup and reincarnation happen suddenly.

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14/16

3ー1

The answer comes with the proposal.


 月夜神の神域にある屋敷にきてはや四か月が経った。

 およそひと月に一度やってくる屋敷の主は、毎回ほとんど話すことはなく、がぶりと私の首から神力を吸っては帰っていくだけだ。会話などほとんどない。顔を合わせる時間も最低限。

 神力を吸われるときは勢いよく吸いつくされてしまうため、いつも私は気を失うように眠っていてしまう。だから理性を取り戻した月夜神が、どんな顔つきになって、どんな様子で帰っていくか全く知らなかった。

 どうしても知りたいというわけではないけれど、気を失っている間にみこの存在がばれたらどうしようと気が気ではない。次こそは吸いつくされないほどに神力を高め、耐えきってやると心に誓うこと三か月。

 結局先日の満月の夜も気を失うように眠ってしまった。

 情けない、と私は縁側から降りた庭先で木刀を振りかぶった。


「精が出ますな」

「ほかにすることもないしね!」


 勢いよく振り下ろした木刀が空を切る音が心地いい。しかし私の言葉にハチロウは申し訳なさげに表情を曇らせる。

 嫌味のつもりはないけれど、神力の修行をする以外本当にほかにすることがないのだから仕方がない。

 日々の食事やお掃除なんかは何をどうしてかハチロウがすべて済ませてくれたし、私はたまに汗をかいた後の洗濯をする以外仕事がないのだ。あとは日がな一日、修行をするか、本を読むか、あとはみこを抱っこして神力をちょっと分け与えるか。

 のんびりゆったりと暮らせるといえば聞こえはいいが、暇を持て余しているともいえる。


「ねえハチロウ、次はもう少し重めの木刀持ってきてくれない?」

「まだ負荷を大きくされるのですか? あまりご無理をされますと薫子殿のお体が」

「無理はしてないけど、もっと鍛えて神力を強めたいのよ。吸いつくされて気を失うのはもうたくさん」

「我が主のためのご尽力、感謝申し上げます。しかし」

「いいんだってば。食べて寝て鍛えてってくらいしかすることないんだし。ほら、この木刀じゃもう軽くて」


 やれやれ、とハチロウは首を振った。なんだかんだ言ってもこのお世話役は私のわがままを聞いてくれるのだ。近いうちにどこからともなく新しい木刀を持ってきてくれることだろう。

 しゅっと音を立てて私はまた木刀を振り下ろした。走り込みも無心になれるけれど、素振りもいい。まっすぐ前を見つめて刀を構えると、頭の中にあるごちゃごちゃしたものが鳴りを潜め、すごくすっきりしてくる。

 それからしばらく無言で素振りをしていると、縁側の奥のほうでにゃあというみこの声が聞こえた。

 振り返れば座布団の上であおむけになり、もにょもにょと手足をこちらに伸ばしている。

 しばらくほっといてしまったか。そういえばそろそろ抱っこ、つまり神力を与える時間かもしれない。


「はいはーい。今行くよー」


 私は木刀を縁側に立てかけ、みこを抱き上げた。

 みこも私と同時にこちらにきたからもう四か月ほど一緒に暮らしていることになる。現世でどのくらいの時間が経ってしまったのかわからないけれど、きっとこの子の親も心配してるだろうな。

 色素が薄くくりくりの髪に頬を擦り付けると、小さな手が私の頬にあてがわれる。こんなかわいい仕草、親でもない私が独り占めしていいものではないのになと、最近心が少し痛くなってくることが増えた。

 早く親元に返してあげなくては。

 でもそれは私がこの子と離れるということだ。当たり前のことなのに、そう思ったら胸が痛い。ここで過ごす長い時間、この子がいなくなってしまったら、私は何をして暮らしていけばいいんだろう。

 私は思わずみこをぎゅっと抱きしめた。柔らかい赤ちゃんの体を、もう少しだけ感じていたい。

 けど。


「ん?」


 私はみこの頭から顔を離した。

 そして彼のわきの下を支え、ぐっと持ち上げ全身を観察する。頭のてっぺんから、顔、首、胸、腹、そして足。じいっとみこの体を見て、そして気が付いた。

 腕にかかる重量が、増している。そして、手足どころか体全体が――。


「ねえ、みこ。あなた、少し、いえ、かなり、大きくなってきた……?」


 ハチロウ曰く、現世と常世では時間の流れが異なるという。こっちで数か月経っても向こうじゃ数時間程度だろうなんて言ってなかったっけ。

 それなのに、みこが大きくなっている。

 毎日寝かせている座布団のサイズは同じなのに、どうして気が付かなかったんだろう。

 着せてるものが現代日本で使ってたロンパースみたいなのじゃなくて、体の大きさが分かりにくい着物だったからだろうか。

 まずい、と冷や汗が出てきた。

 向こうで何日経ったんだろう。こんなに育ってしまうくらい行方が分からない赤ちゃんなんて、死んだと思われているかもしれない。

 早く返してあげなきゃ。


「ハチロウ! ハチロウ! ちょっと!」


 大急ぎでハチロウを呼ぶが、きっと彼にもどうしようもないだろう。だってここから現世に返すには、主である月夜神が許さないといけないんだから。

 次の満月まであと何日だ。私は頭の中で暦をめくる。

 月夜神が次にここへやってくるのは半月も先である。でも事態は一刻の猶予もないかもしれない。かくなる上は、満月ではないけれどここに来てもらうしかない。

 そんなことできるのかって? 

 知らない。けど、毎月欠かさず神力を吸いつくされるほどあげてるんだから、ちょっとくらい融通きかせてくれたっていいじゃないか。


「ハチロウ!」


 私は今まで出したことがないほど強い口調で、世話係の狼を呼びつけたのだった。


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