第十八話 聖女ミナの誤解(母性全開)scene1 突然の“問題の歌”が届く
勇者パーティの仮拠点は、昼下がりの静けさに包まれていた。
窓から柔らかな光が差し込み、干した薬草が揺らぐ。
聖女ミナは机に広げた治癒術式を前に、真剣な表情で指先を走らせていた。
「……この陣のライン、微調整しないと効果が安定しないわね」
そんな穏やかな時間を、遠くから聞こえてくる妙な歌声が壊す。
吟遊詩人(遠くで)
「♪勇者は魔王の手〜♪ 操り人形〜♪ 傷だらけ〜♪ 魂は闇に落ち〜♪」
ミナ
「…………はい???」
筆が手から滑り落ちた。
目がまんまるになり、首だけぎこちなく窓の外へ向ける。
歌声はどんどん近づき、さらに内容が悪化していく。
吟遊詩人
「♪魔王の膝で泣き叫び〜♪ 闇に沈んで帰らぬ〜♪」
ミナ
「ちょっと待って!? ちょっと待って!!」
聖女の顔が、まるで毒沼を見下ろしたかのように青ざめていく。
「リオが……“操られてる”?
いや、生きてる……?
え、傷だらけ……?
魂が闇に落ち……?」
頭の中で情報が混線し、彼女の声が裏返る。
「…………どれが本当なの!?」
歌はまだ続いていたが、ミナにはもう聞く余裕がなかった。
胸の奥がざわざわし、心臓が早鐘のように脈打つ。
窓の外では、吟遊詩人が楽しげに歌いながら通り過ぎていく。
吟遊詩人
「♪帰らぬ勇者〜♪ 闇の抱擁〜♪」
バタンッ!
ミナは勢いよく立ち上がった。
その瞳には、恐怖と焦燥と……圧倒的な母性が宿っていた。
「リオ……! ちょっと待ってて……!
すぐに行くから……!!」
――この時点で、彼女はほぼ確信していた。
“噂は全部当たっている”と。
(※その頃リオは魔王アザルとお茶を飲んでいた)




