scene3敗北したフリ”の担当部隊
マギルが次の書類をすっと取り出し、
会議室に小さな緊張——ではなく、
“面倒ごとが始まるかもしれない気配”が走る。
「次に、“勇者側が勝ったことにするための敗北演習”担当ですが……」
その言葉を聞いた瞬間、
机の上のスライム指揮官プリュが、
ぷるん、と控えめに身体を震わせた。
そのまま、ぽよん……ぽよん……と机の端へ移動する。
プリュ「(今日、転がりやすいので……わたし……行きます)」
翻訳がなくても全員が理解する。
スライム語は“雰囲気”で通じるのだ。
スライム部隊がころころ転がってやられたフリをするのは、
勇者側との長年の“お約束”であり、
もっとも安全で効率的な敗北システムだった。
メレーナは編み物を続けながら、
まるで談笑の延長のように言う。
「私は今日は袖を編みたいから、不参加で」
黒い糸が器用に指の間を踊り、
マフラーは着々と完成形に近づいている。
戦いよりも、こちらの方が彼女には重要らしい。
グロウルはクッションから顔を上げ、
眠たそうに片目だけ開く。
「なぁ、俺の昼寝時間、確保されるよな?」
マギルは表情ひとつ変えず、即答した。
「もちろんです。
敗北演習は軽い仕事ですので、スライム部隊だけで十分でしょう」
その余裕に満ちた声は、
“本当に軽い”どころか
“仕事と言っていいのか怪しい”雰囲気すら漂わせていた。
アザルはホッと息をつき、
肩から力を抜いた。
「……それなら、いい……」
戦わずに済む、という事実が、
彼にとっていちばんの朗報だった。
こうして今日も、魔王軍の“敗北システム”は完璧に整い、
世界には平和な茶番がまた一つ追加されるのだった。




